日本リハビリテーション医学会

脊髄損傷のリハビリテーション

 

脊髄損傷のリハビリテーション:イラストその1脊髄損傷とは
 
脊髄損傷とは、交通事故や転倒などによる外傷や、腫瘍や血行障害などによる非外傷性の原因により、脊髄に障害が生じ四肢などに麻痺を来たしたものです。わが国では、年間約5000名の新規患者の発生があり、発症年齢分布では、若年者と50〜60歳代の2つのピークが見られます。受傷原因として最も多いのは交通外傷ですが、高齢者では転倒・転落が一番の原因です。最近ではMRI(磁気を利用した撮影法)などの検査が発達したため、早期に診断や予後予測が可能となっています。

急性期のリハビリテーション
  脊髄損傷急性期には診断、機能回復の予測、合併症の発生予防と治療が重要です。肺炎などによる呼吸障害が急性期に多く出現するため、早期より呼吸のリハビリテーションを行います。頸の上の方での脊髄損傷では呼吸が困難になるため、人工呼吸器に依存することもあります。褥瘡(床ずれ)対策には、2〜3時間ごとの体位変換、マットレス材の工夫で対応します。排尿管理も重要で、膀胱留置カテーテルを長期間入れておくことはできるだけ避けます。最近増加している深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群と同じ)への対応も必要で、下肢静脈から血栓が上行し、肺の動脈が詰まると致命的な場合があります。リハビリテーションとして、できるだけ早く離床させ、少しでも動くところは動かし、麻痺しているところは関節が硬くなるのを予防するため、関節を動かす訓練(関節可動域訓練)を行います。

回復期のリハビリテーション
  急性期を過ぎれば回復期リハビリテーション病棟などに移り、積極的に社会復帰へ向けリハビリテーションを施行します。両下肢の麻痺(対麻痺)では上肢の筋力強化が必要で、床ずれを予防するためにもプッシュアップ訓練を行います。車いす生活自立のため、乗り移り訓練や車いす操作訓練を行います。最近、対麻痺における歩行訓練のため、両下肢に装着する装具が開発されています。四肢の麻痺では、食事や更衣などの日常生活動作(ADL)に対する工夫が必要です。医学的には、下肢などのつっぱり、関節付近に余分な骨ができることなどに対する予防や治療を行います。
脊髄損傷のリハビリテーション:イラストその2 
今後の課題
  脊髄損傷患者の職業への復帰はわが国ではまだ低い状況です。また、障害者のスポーツへの参加も十分とはいえません。全国規模での脊損センターの建設も今後の課題です。

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