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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第3回「この先生に聞きたい!」女性リハ専門医キャリアパス

日時 2010年12月17日(金) 16:00~18:00
場所 慶應義塾大学会議室
ゲスト 里宇明元 先生 (慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室 教授)
インタビュアー 山口朋子 先生 (福井県こども療育センター)
和田恵美子 先生 (社会医療法人近森会近森リハビリテーション病院)
司会 藤谷順子 (国立国際医療研究センター病院)
オブザーバー 菊地尚久 先生 (横浜市立大学附属病院 専門医会幹事長)
浅見豊子 先生 (佐賀大学 RJN担当理事)

司会:それでは、第3回、リハビリテーション女性医師ネットワークのインタビューをはじめます。今回は慶應義塾大学の里宇明元教授にお話を伺います。
まず、インタビュアーの先生に自己紹介をお願いいたします。

山口:福井の療育センターから来ました山口です。よろしくお願いします。卒業が平成6年で、今までのインタビュアーよりは年がいっています。卒業後は、研修制度が今と違いましたので、整形外科に入り、早い時期に1年間留学させていただいて、戻って、大学で2年あまり研修したあと、ちょっと結婚で退職しまして、市中病院に戻り、平均年齢が85歳ぐらいの方を6、7年診ていました。その後、今の療育センターに移りまして、患者さんの平均年齢がぐーんと若返りました。療育センターに来て、4年目の後半です。

和田:私は高知県の近森リハビリテーション病院に直接就職組です。平成10年卒で、近森病院の急性期病院で内科研修をしたぐらいで、あとはもう、ずっと回復期リハ一筋です。病院は180床で、高知県は医師不足ですから、だいたい60人ぐらいが担当患者さんで、もう病院では中堅になりました。最近は肢体不自由の更生施設も系列ではじめましたので、そこの仕事もしています。中途障害の方に加えて、もともと障害のある方が中高年になってきつつあるところも一緒に見ているような感じですね。

リハビリテーション科選択の理由
印象の深かった職場
医学生や研修医にリハビリテーションの魅力を伝えるには
一般病院勤務でできる研究活動とは
評価・記録・データの重要性
研究テーマの見つけ方・研究の実施の工夫
地方の医師不足の中で臨床研究をするには
スタッフへの研究指導
育児と出産―自分の問題・スタッフの問題
親の介護
地方の卒後教育支援
やりたいことはやってしまおう


リハビリテーション科選択の理由

司会:自己紹介ありがとうございます。今回は、インタビュアーの方々は地方の第一線の臨床医でいらっしゃいます。大学医局とは違う立地でいかにキャリアを磨いていくか、また周囲や後進を指導していくか、里宇先生にいろいろお話を伺いたいと思います。

まずは山口先生から質問をお願いいたします。

山口:里宇先生は、リハ医をどうして選ばれたのでしょうか。

里宇:私がリハビリテーションに行こうかなと思ったのは、学部の5年生のときです。学生として、在宅の脳性麻痺とかポリオの方のボランティアで、お宅を訪ねたり、一緒に旅行に行ったりとか、そういうことをやっていたのですね。

あとは、その在宅の方の一人が、もう当時、40歳だったのですけれども、いわゆる就学免除といって、中学校を出ていなかったのですね。中学校ぐらいは出たいなということをおっしゃって、その検定試験のための家庭教師みたいなことをやっていました。そういう中で、もし、医療で何かそういう障害を持った人の役に立つことができたらすごくいいなと漠然と感じていたのです。

ところで、私はいろいろなことに興味を持ってしまうタイプなので、5年生、6年生の実習でいろいろな科を廻ると、みんな面白く思えるのですね。小児科も整形外科も神経内科も循環器も…。結局、それぞれに入っては駄目で、もっとやりたいことを全部、自由にできる科に入ったらいいだろうということで、リハビリテーション科に入りました。歴史のある科で、かたちがあって、学んでいく、というのもいいと思うのですけれども、私は、枠がないほうが嬉しかったのですね。自分で何かできるのではないかという、それが魅力でした。


印象の深かった職場

山口:実際にリハビリテーション科の医師になってからは、いかがでしたか?

里宇:当時のリハビリ科の先輩の先生方がそれぞれ、「何か輝くもの」を持っていました。また、基本的なことは教えてもらいましたけれど、かなり自由度があって、いろいろな角度から考えたり、見たりできたということは、貴重な経験でしたね。

司会:リハ医として特に印象の深かった経験をお話しいただけますか?

里宇:3年目の終わりぐらいに、今度、リハビリテーション科をつくるから行ってこいと言われて、埼玉の国立病院にいったのです。

当時は療養所でしたので、ベッド数が650床で、脳卒中の患者さんが200人ぐらい、1年ぐらいの入院がざらでした。最初はちょっと途方に暮れたのですが、まずどういう方が入院しているのかをちゃんと診てみようということで、毎日、10人か20人ぐらい、順番に自分の持てる能力の範囲で評価をしていったのです。まず自分がそこで臨床をやるために現状の調査をしようという動機で始めたのですけれども、やってみると結構いろいろな面白いデータが出てきて、逆に何をターゲットにしていったら、病棟をリハビリテーションらしくできるのかということが見えてきました。それが3年目から4年目に入るころですかね。その経験は非常にインパクトがありました。

私がしつこく、トイレはどうですか、とか、着替えはどうですか、とみんなに聞いてまわっていたら、看護師さんたちが興味を持ったらしく、見よう見まねでバーテルインデクスをつけてくれるようになったのですよ。そうすると、看護師さんの方からも、少しでもADLを良くするようなアプローチもできないかと、聞いてくるようになりました。

その病院は、当時はPTが2人とOTが1人でした。だから、もう本当にナースが頼りと言っていいぐらいでした。私がADLのことを聞いたのをきっかけに、ナースが麻痺や嚥下、排尿のことなどにも興味を持って、一緒に勉強しましょう、とか、どうやったらアプローチできるか考えましょうということになり、半年ぐらいしたら、急にリハビリテーション病棟らしくなったのですよ。いろいろアクティブにやるようになり、患者さんが自宅に退院するようになったのですね。だから、1年後ぐらいには、在院日数がそれこそ3カ月ぐらいに短縮しました。家屋評価なども、多いときには本当に毎日のように行きましたね。

今で言うと、チームをどう作るかとか、限られた資源の中でどうやったらいいかなど、こういう悩みは誰でも持つと思うのですが、そういうことを、もういきなりそこにほっぽり出されて体験したという意味では、すごくインパクトがありましたね。

山口:先生、それは、今思われると3、4年目だったから、あの勢いがあった、みたいなことがありますでしょうか。それとも、そういう働き方は、どんな年数でも大事だな、みたいな。

里宇:何歳になっても、面白さというか、関心を持って、これやってみたいな、こうなったらいいだろうということはあると思いますね。今は、残念ながら診療に割ける時間が短くなってきていますが、若い人たちがどんどんやって、自分が追い抜かれていって、また追いつこうという気持ちになるのは、すごく刺激があっていいですね。年はあまり関係ないと思います。特に医療は、30年前と今を比べても全然違うし、対象とする患者さんも広がっているし、過去の経験だけで今の患者さんに対してやっていこうとしたら、もう古いと思うのですよ。いつも、常にいろいろなことを感じて、これをやったらどうだとか、わくわくすることが必要だと思います。だから、逆に飽きなくて面白いのですね。


医学生や研修医にリハビリテーションの魅力を伝えるには

司会:よく学生さん対象の説明会などでも、まずは何か技術を身につけたい、という志向が強いのですけれども、一つの科に入らないほうがかえっていいというのは、とても楽しい視点だと思います。

里宇:リハビリテーションというのは、チャレンジの宝庫みたいなところだと思うのですよね。もちろん転科の人はそれなりにまた違った視点で、今までの蓄積をもとにまた新しいことができます。いくつになっても、いつになっても、どの科からでも、やって面白いのがリハビリテーションだと思いますね。

和田:自分としては、医学部の学生さんの心をぐっとつかむ言葉を教えていただきたいなと思ってここに来ました。当院にも、研修医の先生や医学部の学生さんが研修に来られています。「リハビリテーションは何をするのですか」とよく聞かれて、いくつか技術的なことも言いつつも、それだけではないのだと思っています。でもうまく言えなくて。

里宇:それは難しいことではありますね。私などは、もうとにかく面白くて、いろいろなことができる、自分がその分野を引っ張っていける領域だと言っています。テクニックも、筋電とかエコーとか、いろいろ身につけないと、リハビリテーションはできない、と。スキルを身につけるという意味では、密度の濃いものだということは言いますね。

いっぽう、今話が出たように、どう自分が育っていくか、スキルアップしていくかということが素人目にも分かりやすく見えてこないと非常に不安だという方も多いですよね。そういう方の場合には、道筋がなるべく具体的に見えるようなものをお見せしたり、あるいはそういう現場、関連の施設などで少しいろいろとアレンジしてもらって、これぞ、テクニックなり、スキルを駆使してアクティブに臨床に取り組んでいる、攻めのリハビリをやっている姿だというのを見せたりとか。

山口:もう少し具体的に教えてください。

和田:どういうスキルをどう駆使したらいいかということでいいのでしょうか?

里宇:それはもう、先生方はやられていると思いますけども、手技単独ではなくて、患者さんをどう見て、その手技なり評価なりを位置づけて、介入を行い、どういう結果を得るかという一連の流れを見てもらうのですよ。例えば、フェノールブロックでも、どこをターゲットとするかを動作の中で評価するところから、そしてブロックして痙縮が落ちたあとのプログラム。そういう一連のものをきちんと組み立てられて初めて手技が生きるものですよね。そういう流れの中で手技や評価を位置づけていく。そこにリハの専門医がアクティブに関わって、障害を予防し、機能を最大点に回復させ、そして生活を大きく変えるということを体験してもらうということですね。

司会:和田先生、回復期病院として、近森リハビリテーション病院でばっちり治すところを見ていただくというのはいかがでしょうか。

和田:そうしたいのはやまやまですが、高知県ではリハ医じゃない先生が診ている回復期も多くて、リハ医がいなくてもリハができる、と思われてしまっています。リハビリテーション専門医という存在意義をどうやって示せるのだろうかと悩んでます。

里宇:そうですね。私は残念ながら、今のシステムの回復期病棟に勤めた経験がないので、想像になってしまいますが、やはりどう考えても、きちんと見て、方向性を決めて、タイムリーに必要な介入をやれる医師がいなければ、うまくいかないと思うのですね。非常に典型的な症例であれば、全体としてステレオタイプに流しても、自然回復みたいに良くなる人はもちろんいると思うのですけれども、やっぱり今は、複合障害がある方、合併症のある方が増えていますよね。そうなると、やっぱりそこをきちんと見て方向性を立てられる存在がないと、なかなかうまくいかないのではないかと思いますね。

司会:和田先生が診なきゃだめだった、和田先生でよかった、とか、みんなが思うような状況ですね。

和田:そうですね。そこを学生さんに見せないといけないわけですね。

里宇:医療ってうまくいくことばかりではないので、そう口で言うほどやさしくないと思うのです。でも、やっぱり、ここをちょっとこうやるとよくなる人というのは、その目で見ればたくさんいると思うのですよ。そこを目ざとく見抜いて、タイムリーに、というのがすごく大事なのですよね。あとに延ばさないですぐやる。そういうエマージェンシーの考えでやっていくと、そんなに難しくない人だったら、ぱっとよくなってしまうこともあります。そのあたりをまずターゲットにして、興味を持って来られる学生さんや研修医にも、デモンストラブルな症例をうまく提示していければ、それはすごくアピールするのではないですかね。


一般病院勤務でできる研究活動とは

司会:本日は、インタビューに先立ち、病院および研究室の見学をさせていただきました。ご感想はいかがですか。

山口:大学での研究を拝見して、今日はもう圧倒されてしまっているのですが、一般病院の臨床医はどうやって研究をしていくか、ということについて、何かアドバイスをお願いいたします。

里宇:私は大学に戻ったのが2002年で、卒業したのは1979年です。20年ぐらい外の病院にいて、リハ科の立ち上げみたいな仕事が多かったです。そういうときに考えたのは、最初の病院の実態調査もそうなのですが、やっぱり何か医療をよくしていくために、どうしたらいいのだろう、それを見いだすことができないかなといつも考えています。

山口:病院のシステムとしてとか、治療のシステムとして?

里宇:そこにリハビリテーションの流れを作っていくためにはどうしたらいいかというのを考えるために、まずどういう状況になっているかという実態を知らなければならないというモチベーションで最初の調査をしましたね。それが一番、最初にやった臨床研究なのですよ。

臨床の現場では、何かをちょっと改善したいとか、こういう問題で困っているとか、それを少しゆっくりと考えてみる時間が30分でもあれば、そこからいろいろなテーマが生まれます。

対象はもう目の前にいるわけなので、アイデアがあって、かつデザインができれば、あとはちょっと頑張りがあれば、そこで臨床研究というのは成り立つと思うのですよね。

もちろん大変だと思います。私の場合、先ほどお話しした病院は、筋ジストロフィーのベッドが120床あって、世界で一番多く入っていました。もう最初はびっくりしていましたが、毎日じっといろいろな場面を見ているうちに、いろんなことが面白くなってきたんですね。残っている筋肉や拘縮と動作との関係とか。

たまたま非常に経験の深いPTがいて、彼にアドバイスしてもらいながらいろいろなデータを採りました。どこの筋肉がどの時期にどのように落ちていくのかということがわかってくれば、リハプログラムにも役に立つので、いろいろ考えて、夜、CTの部屋で技師さんと相談しながら、どうやったら筋肉を断面の中で脂肪と分けて定量的に評価できるだろうかと考えました。それまで、定量的な評価というのはほとんど行われていなかったので、それが学位研究になりました。80例ぐらいのデータでまとめて、今でも海外のradiologyの教科書に筋ジストロフィーの筋障害ということで引用されています。だから、臨床の観察、現場でのニーズで始まった研究です。うちの若い人たちも忙しいと研究が大変だとよく言います。それもわかりますが、逆に忙しいから、ちょっと視点を変えて研究的なことも考えるともっと楽しくなってくるし、あと、臨床の質も変わるのではないですかね。

山口:そうですね。ある程度たくさん患者さんを見ていると、やっぱり臨床での患者さんのニーズというか、自分はここを知りたいというのが出てくるのですが、それが、デザインのところで困っています。私だけではなく、一般病院にいるドクターでは、ニーズはある、ここを乗り越えたいんだけど、うまいことデザインができないという悩みがある方が、ある程度の割合でいらっしゃると思うのです。そのあたりで何かアドバイスをいただけますか。

里宇:それこそ専門医会の役割とか、あるいは学会の役割も大きいと思います。現場で忙しく頑張っている、でも、研究にも興味がある、という方をサポートする。例えば、テーマの立て方とか、そのテーマでデザインをしていくときどうしたらいいかとか、倫理委員会をどうクリアするか、とか。あと、研究資金もね。そういうコンサルテーションのシステムが、私はぜひ必要だと思うし、それがあると、リハビリテーション学会全体にとっても、もういろいろなフィールドでいろいろな研究が生まれるので、これはすごく大きなことだと思います。

和田:リハ医学の質が上がっていくことになりますね。

里宇:そう思います。今日は専門医会幹事長の菊地先生がおられるので、システム作りを期待しましょう。大学の講座は少ないとはいえ、各地にありますから、サポートやコンサルテーションのサービスをしてもいいし、あるいは、今、各大学でクリニカルリサーチセンターとかの名称で、臨床研究のデザインや統計とかやってくれる専門スタッフがいますよね。そういうところに、その大学のスタッフを介して相談するということも、可能じゃないかと思います。そういう道筋や仕組みをつくっていけば、本当に一般の病院で忙しく働いている先生方も、研究して楽しいというか、何か物事を前に進めているような気持ちを持ちながらできるのではないかなと思いますね。

和田:学会の締め切り前に慌てるのではなく、普段から考える、というのが大事なのですね。


評価・記録・データの重要性

司会:お話をうかがっていると、BIでチェックなさるとか、CTで定量なさるとか、なにかの尺度で評価をされているというのが印象的です。日々の臨床でデータが採れるような仕組みにする、そういう習慣がとても大事だと、あらためて感じさせられました。

里宇:研究のためだけではなくて、臨床をきちんとやるためにも、リハの尺度って重要ですよね。そのために使えるツールというのは、今すごく増えてきています。

私は、これは初期に、内科をまわっているときに内科の先生から、カルテをしっかり書けということをすごく教えられたんです。だから、それだけはいつもものすごく心掛けていましたね。カルテを書くときに、リハというのは、いろいろなことが必要になりますよね。そのときに、いくつかのチャートがあったり、それをサマライズしたプロブレムリストがあったり、そういうのは大事だと思いますね。

山口:初期に、ある程度押さえてちゃんと書かないと、あとから見てよくなったのか、いつよくなったのか、わからないですよね。

里宇:そうですよね。だから、こんなことに興味があるというのを出し合って、それを日常の中で見ていくにはどうしたらいいか。それを研究に発展させるにはどうしたらいいかとか、そういうことは、要するに、アイデアの段階から始まって研究に結び付けるまで、サポートするような体制があれば、できますよね。

あとは、皆さんもなさっていると思うのですけど、アイデアノートというか、メモ帳というのか、そういうものがすごく大事ですよね。ほんのちょっとした時間に、何か思い付いたこととか、1行でも書いておくと、それがあとですごく役に立ちますね。

山口:書かなきゃ。さっそく書きましょう。


研究テーマの見つけ方・研究の実施の工夫

司会:先生方、何か具体的にご意見を聞きたいテーマがありますか。

山口:脳卒中の方を、よく診ていた頃から、脳卒中を発症する前のファーストプライマリープリベンションみたいなところも大事だなと考えるのですが、リハから外れているでしょうか。

里宇:そうですね。リハビリでは、障害の重度化の予防はよくいわれますが、本来的には、病気の予防にも、あるいは生命予後の改善にも、リハビリテーションは役立ちます。

例えば、心臓のリハとか、呼吸のリハとか、腎臓もエビデンスが出ていますよね。脳卒中の発症予防とか、健康増進の観点でも、リハビリテーションは重要だと思います。リハビリテーションというと、後遺症の治療、という感じがあるのですけれども、要するに、健康で動ける状態を長く維持することと、リハビリテーションとは相反するものはないと思います。

司会:生活習慣病を予防する、脳梗塞を予防するのは、運動だし、運動というツールに詳しいのは、リハ医だと。

里宇:運動そのものと、あと、教育的なアプローチ。そういうことには非常に長けていますよね。いろいろなところとの連携も。ですから、そういう分野でどんどん活躍する人が出てくることはいいことですよね。


地方の医師不足の中で臨床研究をするには

和田:やりたいことはたくさん出てくるのですけれども、本当に、病院に人がいません。高知県に残るお医者さん自体がいない時代に、リハ医をどうやって引っ張ってきたらいいのだろうということに、すごく悩んでいるのです。

里宇:難しい問題ですね。これはリハ医にかかわらず、医師の地域偏在には、いろいろな対策がとられていても、なかなかこれといったものがないのが現状ですよね。でも、やはり人というのは、そこではこんなことができる、とか、こんな面白いことがあるというと、どこにでも行くだろうと思います。

人不足の解決になるかわからないですが、何かやりたい、でも人がいないというときに、いいテーマであれば、大学院生が来てくれるとか、そういうことはあり得ると思います。端的にいえば、修士論文なり博士論文が書けるテーマが提案できればということです。最先端のことではなくても、地域の大事なことで、マスデータで、きっちりといろいろな尺度で行った研究は、論文になります。おそらく、近森病院は、システムができあがっていて、データがそろっているでしょうから、研究の宝庫みたいなところだと思うのですよ。ですから、切り口をうまく考えるというのが先生の役割ではないでしょうか。

司会:例えば、近森方式だと患者がよくなる、というのを全国データと比較するというように、和田先生の考えたテーマを、どこかの大学院の学生さんが来て研究する、ということですね。

里宇:研究をやるときには、少しフリーの立場でやれる人がいると、すごく進みます。 その人をどうやって確保するか、大学との協力とか、そこに工夫がいりますね。PT、OTの方でも、ある期間、研究に従事してみたい、自分のキャリアアップで修士なり博士を取って次に行きたいという人が増えていますね。そういう方を公募して、研究員みたいな位置づけで来てもらうのはいかがでしょうか。

和田:そうですね。帰ったら副院長に提言してみます。

里宇:リハビリテーション全体で見ると、多数例でのエビデンスが少ないですよね。特に臨床のリアルな場面でのデータです。RCTでなくても、きちんと、コホートとして、患者さんを同定して、ある地域の代表的な施設で、ある一定の間隔で一定のアウトカム尺度で追っていったマスデータ。それがあるとものすごく価値が高いですよね。

だから、そういうことを発想できて実現できるようなサポートシステムを、今日お話を伺って、これはもうぜひ、菊地先生とご相談してつくらなければいけないなと思います。皆さんがそういうモチベーションを持たれているということがよくわかりましたので。その一歩を踏み出すためには、研究の相談相手と、それからまた、ちょっとめげたときに励ましてくれる仕組みがあればということですね。

司会:地域の石田先生(高知大学)とか、八幡先生(石川県・専門医会幹事)にもお手伝いいただいて、ですね。

山口:私、八幡先生に、こんなしようがないネタなのですけど、と言うと、いつも「迷わず出してください」と言われます(笑)。


スタッフへの研究指導

和田:自分でも相談をしたいくらいなのに、逆にナースとかリハスタッフの研究相談を受けなければいけなくて。それがなかなかたいへんです。

司会:どんな点がたいへんなのですか?

和田:もうちょっと先に相談してくれたらよかったな、というような発表が多くて。学術的な雰囲気がどうやったら病院内に育つのかなというのは、いつもすごく悩んでいます。

里宇:また、私が最初に行った病院の話に戻ってしまうのですけれども、そこでもデータがたまってくるとナースも、学会に出したくなってくるのですね。もちろんまだ研究としてどうかなというのもあるのですけれども、でも、比較的ハードルの低い学会であれば、やってしまえということも大事だと思いますよ。

バスをチャーターしてみんなでツアーを楽しみながら学会で発表したのですよ。そうすると、みんなのモチベーションが上がりますね。イベントというか、お祭り的に盛り上げながら研究もやっていくというようにすると。そういうことは、近森病院などは結構、得意そうな気がします。

和田:数が多いともうたいへんですね。

里宇:あとはやはり、各部門に指導できる人を育てていく。かならず、各部門に、有能な人はいますから、そういう人を育てていくと、もうある程度、自律的にまわっていきますね。


育児と出産―自分の問題・スタッフの問題

司会:さっき学会発表の話が出ていましたけど、それこそスタッフが学会発表するからついていってあげたいと思っても、母親業もしていたら、あまりついて行けないとか、そういうストレスはどうしてもありませんか。

和田:そうですね。子どもが3人いるので、なかなかほっぽり出してもいけません。学会などに一緒に行って気分も盛り上がっているときにがんがん話をすれば、より良い指導チャンスというか、いいきっかけになるのだろうなと思うのですけど。

里宇:そういう大変さは女医さんには確かにありますね。何かいい案というのはあるのですか。保育所とか。

和田:そうですね。あまり仕事を持っていない男性と結婚されるのが一番いいのじゃないかなと思いますけど(笑)。

山口:うちも子どもが1人ですけど、でもやっぱり泊まりがけで出ることに関しては結構、たいへんです。

里宇:こういうところに参加するのもいろいろ苦労されるのですね。

和田:大学の教授としては、女性の医局員の産休などはどうお考えですか。

里宇:それはもうそれで精一杯、対応しようと。ただ、希望を言わせてもらえば、同時多発は避けてほしいなと思います。

和田:医局員の方は、育休をちゃんと1年取られたりされるのですか。

里宇:いろいろです。大学病院は、大学院も含めて、いろいろな選択肢が多いとは思います。

山口:仕事を持つ女の人が増えてくるという中で、一般論として女性の仕事について先生はどのようにお考えですか。

里宇:結婚なり出産、育児をやっても普通に仕事を続けられる、あるいは戻れるようになっていかなければいけないと思いますね。難しいですけど、柔軟な勤務が可能な体制を作る、男性にだってそのような選択肢が必要な時もあるので、できるだけバリエーションを作るのが必要だと思います。


親の介護

司会:育児だけでなく、親の介護の問題もありますね。先生はそのあたりいかがでしたでしょうか。

里宇:私は結構忙しいときに両親が続けて脳卒中で、入院したり、在宅療養だったりしました。そういう意味では、妻にかかった負担は大きいと思うのですが、私も夜はできるだけやるようにしました。入院したときは、泊まって、翌日そのまま仕事に出たとか、そういうことも結構しましたね。もちろん、負担の度合いから言ったら、妻のほうがはるかに大きかったので、どう評価されているかわからないですけど(笑)。今は、妻の母と同居しています。介護保険のケアプランの会議にちょっと参加したりとかしていますね。

和田:リハの教授がケア会議にでるなんてケアマネさんにはすごいプレッシャーですね。

里宇:いやいや。うちの奥さんのほうが地域で民生委員をやったりして顔が広いので、その旦那さんという感じです。はいはいと言って聞いています。

でも、やっぱり仕事をしているときに呼ばれて、すぐに行けるかというと、皆さんもそうだと思いますけど、それは無理ですよね。だから、ある程度、社会的に支えて、家族も関われるような介護の仕組みが必要だと思いますね。介護保険の話は今日のテーマじゃないのですけど、やっぱり実際に使う立場になると、いろいろ面倒ですね。働く人を考慮した仕組みにもう少しなると、もっと使いやすいかなと思います。

山口:でも、それは大事ですよね。働く人が使いやすかったら、家にいる片方にだけ負担が寄らないということですから。

司会:それを調べて臨床研究いたしますか(笑)。


地方の卒後教育支援

司会:石川県・高知県を代表して、リハ学会理事長の里宇先生にご要望がありませんか?

和田:地方だと新しい技術というのを知る場が少ないです。私も含めて実技講習には皆さん飢えているところがあります。

司会:学会のときのハンズオンセミナーではまだまだでしょうか。

和田:なかなか難しいですね。学会場まで行けないということを、皆さんおっしゃっています。

司会:ハンズオンはもともと少人数でしかできないので、地方会単位はいかがでしょう。

菊地(オブザーバー 専門医会幹事長):専門医会でも、そのことは考えています。ハンズオンは定員が少ないので、全国ではすぐ一杯になるので、各地域で行うことを考えています。また、地域の大学に何日か通って、実際の患者さんを前に実習するようなことも考えています。


やりたいことはやってしまおう

司会:最後に、人生の先輩として、ひとことお願いいたします。

里宇:人それぞれだと思いますけども、私は、いくつになったから、とか、こういう状況だから手を出さないというよりは、やりたいと思ったら、もうあまり考えないでやってしまう方ですね。あとで考えればいいや、とはじめると、意外と新展開が開けたりして、楽しいですよ。家族には、あきれられているかもしれないですけど。

和田:具体的に聞かせていただけますか。

里宇:いろいろあって恥ずかしいのですけど、一つは、写真を撮るのが好きなのですよ。それから、今、野球を結構、一所懸命やっています。

山口:プレイするほうですか。

里宇:軟式野球ですが、ここ2年ぐらい、自宅の庭に通販で買ったティーバッティング用のネットと、あとはピッチングができる、投げると返ってくるネットを置いて、休みのときとかに、ちょっと時間があると、練習しています。医局員やPT、OTたちとの試合もしていますよ。自分で言うのもなんですけど、結構いい線ですよ(笑)。

司会:いい線かどうかは医局の方の客観的な意見をうかがうことにして(笑)。全般的に、型にはまらないでいいというのが今回、里宇先生とお話をして、脈々と感じられました。

和田:やりたいと思ったことをやったほうがいいのかなという気持ちに、本当になりました。ありがとうございました。

司会:最後に、浅見理事から一言お願いします。

浅見:今日は、歴史ある慶應義塾大学リハビリテーション科をお訪ねでき、女性医師にご理解のある里宇教授のお考えのもとで頑張っておられる女性の先生方の姿も垣間見れましたし、インタビュアーのお二人からの素直で熱い思いもお聞きでき、私にとりましても大変有意義なひとときでした。これからさらに、RJN活動の輪を広げていければ嬉しく思います。