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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第15回「この先生に聞きたい!」女性リハビリテーション科専門医キャリアパス

日時 2016年6月17日(金)
場所 和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座 教授室
ゲスト 田島文博 先生 (和歌山県立医科大学 リハビリテーション医学講座 教授)
インタビュアー 清水如代 先生 (筑波大学附属病院 リハビリテーション科)
花香直美 先生 (済生会山形済生病院 整形外科)
司会 中馬孝容 先生 (滋賀県立成人病センター リハビリテーション科)
オブザーバー 大串幹 先生 (兵庫県立兵庫県立リハビリテーション中央病院 リハビリテーション科)

リハビリテーション科は全人的に診ること。そして、細胞レベルから治療を行うこと。
急性期リハビリテーションでは、まず、意識を向上させることがポイント。
運動は、細胞レベルで変化をおこす。
運動は、中枢神経へ影響を与える。
どこの筋肉をきたえるべき?
研修について・・・和歌山医大では、臨床と研究を並行して行う。
田島先生へのインタビューを終えて・・・・

司会:今回のゲストの先生は、和歌山県立医科大学リハビリテーション医学講座の教授でいらっしゃる田島文博先生です。先生、今日は本当にありがとうございます。インタビューのお二人は花香直美先生と清水如代先生です。まずは、花香先生から自己紹介をお願いします。

花香:済生会山形済生病院の花香です。よろしくお願いします。山形は、リハビリのほうはまだしっかりしていなくて、整形外科のほうがけっこうリハビリを兼任して行っているという状況です。私も今、整形外科として働いていますが、リハビリのほうも興味があり、診させてもらっている状態です。まだリハビリのほうはまだまだこれからなので、お話を聞かせていただけると大変参考になります。よろしくお願いします。

清水:よろしくお願いいたします。筑波大学の清水と申します。私は整形外科で研修を始めて、もともとはやりたかったのですが、私たちの頃はリハビリを最初からという選択肢は知らなかったので、まずは整形のほうからとなりました。主治医としてリハビリにあたるという経験のほうが多く、今は筑波大のほうでコンサルテーション医としてリハビリにあたるということで、今までにない立ち位置で難しいなと思っているところです。本日は、先生のお話をお伺いできることを楽しみにしておりました。よろしくお願いいたします。

 

 

リハビリテーション科は全人的に診ること。そして、細胞レベルから治療を行うこと。

田島:よろしくお願いします。
先ほど、自分たちが行っている実際のリハビリを見ていただきました。リハビリテーション科と言うと、一つであるようながらも、中央診療部としての役割と、患者を直接主治医として診ていく役割の2つがあります。
両方に共通していることは何かというと、患者を個として全体を診るということ、そして、臓器・細胞レベルの疾病も考え合わせてリハビリテーション治療を行うことです。この「全体」と「細胞」という二つのことはものすごく相反するようですが、実は一緒でして、意識して治療を行っていくと、全部がつながっていることが見えてきます。
ICUでレスピレーターがついているような重症患者でも何とか蘇らせようというリハビリテーション科医師としての使命感でみていくと、急性期リハビリテーション治療は必須なものに思えてきます。例えば、視床出血の患者で、発症日は意識がなくても、ギャッチアップをして血圧に問題がないとなれば積極的なリハビリテーション治療、具体的には座位や立位を開始します。例えば、この患者の頭部CTは、視床出血と側脳室への穿破を認めます。こうなると脳圧も亢進し、意識障害が重度です。しかし、立位にすると意識が回復し、上肢エルゴメーター運動も可能になります。

リハビリテーション科医は患者の活動性を改善するのは自分たちしかいないという誇りをもって治療にあたったほうが良いと考えます。患者とご家族の意見の最大公約数としては「おむつをつけるぐらいならあの世に行きたい」など、とにかく、「元気に長生き」なんです。これは、精神機能も含めて、活動性をよくすることを意味します。
患者を自宅でみる時、車いすだと大変ですよね。「なんとか歩けるようにしてください」「とにかくトイレに歩いていけるようになったら家に連れて帰ります」って、ご家族はお話しされます。こうなると、活動性のなかでも運動器の問題にポイントをあてることになります。つまり、意識状態が改善すれば、運動機能の問題をまず考える。例えば、意識のない寝たきりの患者に対してはまず動けるようしなくてはいけないので、意識を改善させなくてはいけないのです。

 

 

急性期リハビリテーションでは、まず、意識を向上させることがポイント。

司会:患者さんの意識を向上させるためには、どうすればよろしいのでしょうか。

田島:まずは、患者の体をベッドから起こすことです。体が起きてくると開眼します。そして、運動させる。そうすると、麻痺も改善し、運動機能の低下は最低限になります。例えば、頭部画像で皮質までは影響がないようなら、皮質脊髄路の断裂されているところは仕方がないが、周りの浮腫の箇所や、浮腫で圧迫されている部位は再構築させることを考えます。急性期では大きな血種があっても、慢性期のCTでは、スリット状になっていて、血腫もどこにあったか分からないぐらいになることがしばしばあります。切れた部分はわずかで、結果として、麻痺もよくなってきます。とにかく、起こして動かして、麻痺をできるだけ治すこと。
日本中の訓練室で、平行棒での歩行練習で終わりとか、なぜか入念にマッサージをしています。それは、いかがなものかと考えます。僕としては、意識を向上させて、少しでも運動機能を良くしようと思うのだったら、すごく単純な方法だけど、起こして歩かせること。そうすると活動性はかなり治ります。ここでのモットーは、「質より量」です。スクワット300回では少なくて、患者によっては3000回と、必死で運動してもらいます。気管切開をしている患者に座位、立位、歩行負荷をすると大量の痰が出ます。そのような時は、スクイージングをして、全部痰を出し切ります。こういう手技を身につけておくと楽です。発症当日でも、無理な場合を除き、装具を装着し歩行練習です。和歌山医大では、ICUでもやってますよ。もちろん、一人では難しく二人がかりで歩行練習となりますが、下肢装具を付けると、結構歩けます。本当に、人間の能力はすごいと思います。

花香・清水:うわあ、すごいですね。

田島:歩行をよくするためには、歩行練習が一番で、装具療法は重要です。リハビリテーション科医としては装具の勉強は第一義です。癌患者も診断がついたら、手術までの間、毎日2時間とか6時間とか運動させています。そうすると、最大酸素摂取量が有意に上がる。手術で最大酸素摂取量が落ちても退院までには戻せるようになりますよ。食道癌の85歳の男性の例をお示ししますと、さっき訓練室で僕に話しかけていた人ですね。今、食道癌の術後の10日目です。先々週手術しました。

清水:何か工夫などはされているのでしょうか。

田島:ベッドで寝かせてもらえないような状況にする工夫を看護師さんがしています。ベッドに寝かせるとトイレに行ったり、歩いたりさせるのも大変になるので、看護師さんが椅子をおきますと提案してくれました。この患者に関して、残念なことが一つあって、左膝関節が悪すぎるんですね。ですので、歩行能力をあげるには限界があります。事前に膝を人工関節にしておいてくれたら、もっと歩行も良くできたのですが。

花香:先生のところは、平日だけ、リハビリを行うのでしょうか?

田島:実は私、副病院長として、H28年度に大増員をお願いし、土曜日もリハビリができるようになりました。それだけで収益が上がります。1,2年後には毎日でも。お正月や長期の連休の時にも行いたいと考えています。とにかく、徹底的高負荷リハをすると、みんな元気になりますよ。寝たきりだったおじいちゃんも、すごくよくなります。僕はそれがなぜなのか、長い間わからなかったのです。

 

運動は、細胞レベルで変化をおこす。

田島:神経細胞だけではなくて、体中のほとんどの細胞、例えば筋繊維一個一個も生れてから死ぬまでずっと同じものを使っています。筋が細胞分裂して増えるなんて聞いたことない。外傷で挫滅したら、瘢痕治癒はしますが、壊れた細胞はそのままです。生きている細胞において、アミノ酸レベルの動的平衡があります。脂質や炭水化物は動くためのエネルギー源ですが、摂取したアミノ酸は、細胞の維持と更新に使われます。我々の体、60兆個(一説には37兆個)の1個1個が必ず、同じDNAを持っています。これはなぜなのか。ここで、ちょっとムービーを流しますね。

<ムービー:動画の音声より>
動物の体をつくっている主な物質の一つはタンパク質です。例えば、髪の毛や爪はケラチンというタンパク質でできています。筋肉をつくっているのは、アクチンとミオシンというタンパク質です。これらのタンパク質はアミノ酸からつくられますが、どのアミノ酸をどのように並べるのか決めるのが遺伝子です。人の場合、タンパク質の材料になるアミノ酸はたったの20種類。DNAに書かれたAPGCのうち、3文字によって使われるアミノ酸が決められるのです。
細胞のなかでタンパク質が造られる様子をコンピュータグラフィックス(CG)で見てみましょう。細胞の中心、核に入ります。核の中に垂れ下がっている糸、これがDNAです。ここに、およそ3万種類の遺伝子が含まれています。そして、この中から必要な遺伝子だけが写し取られるのです。必要な遺伝子のひとつが働きを開始すると、DNAに並ぶAPGCの文字が、一文字ずつ正確に写し取られ、遺伝子の情報が読み取られていきます。DNAにくっついた酵素が働いて、ピンク色で示した遺伝子の写しをつくりだしています。この遺伝子の写しを、「伝令RNA」といいます。「伝令RNA」は核の外に出て、暗号解読装置、リボソームに結びつきます。
そして、ここで「伝令RNA」の情報が3文字ずつ読み取られ、それに対応するアミノ酸が順番につなげられていきます。こうして人の細胞の中で、遺伝子によって特定のタンパク質がつくられていくのです。

田島:細胞レベルで考えると、生きるっていうことはこういうことを繰り返していくということです。さっきのような重症な人では、細胞の1個1個をイメージしてもらうと、個としての体全体が傷み、細胞レベルでのアミノ酸入れ替えが滞った状態となっています。アミノ酸レベルで傷んだところは取り換えていき続けたら、1個1個の細胞が正常化し、元気になります。そうすると、体全体としても回復し、元気になります。
ある細胞が傷むと、傷んだところを見つけて、蛋白質レベルで入れ替え作業が起こる。つまり、DNAにおける、そこをつくっている蛋白質の設計図を探して、つくって修復する。そいうことを繰り返して細胞を常にリニューアルして同じ細胞機能を維持し、使い続けることができるわけです。
買ってきたお肉は腐るけど、先生方の筋肉は腐らないのは、鮮度を保つために、アミノ酸レベルで、修復作業が起きているからです。勝浦に住んでいる65歳の女性で、とてもお肌のきれいな患者がおられます。お料理の先生で、良質な蛋白質をとり、積極的にスポーツをされていました。
何が細胞を活性化するのか。薬や手術だけでは不十分で、刺激と運動が必要です。
僕は40歳ぐらいの頃、細胞を活性化させるのは、プロスタグランジンだと思っていました。障がい者スポーツの研究をしていると、運動するPGEが増えたからです。でも、あとで分かったのですが、健常者では増えない。僕の2000年くらいの論文に、PEGが増え、それがワークファクターやエクササイズファクターだという風に書きましたが、それは違っていました。
Dr. Bente Klarlund Pedersenが2000年頃から運動筋から直接IL-6が発現し、全身の細胞をactivateする、つまり、骨格筋は内分泌器官であると主張しはじめました。その先生はノーベル賞を本気で目指していて、2016年の久保先生が会長をされた第53回日本リハビリテーション医学会学術集会でも講演され、Cellに報告したばかりの最新のデーターを披露されました。その論文によると、運動したときに筋肉から出るIL-6、Natural killer cell、そしてnoradrenalineが協働して、癌の伸展を抑制するというデータでした。

花香・清水:すごい話ですね。

田島:そうです。この先生の2000年の論文で、大腿四頭筋を片方だけ運動させたら、そこからだけIL-6が出ると報告されました。IL-6って、炎症性サイトカインで、悪物のイメージがあり、内分泌物質というイメージが湧きませんでした。でも、それは違っていて、しかも、筋繊維から直接、IL-6をつくるメッセンジャーRNAが発現していることが免疫染色のデータで分かっています。
彼女は2007年からマイオカインmyokineと呼んでいます。IL-6 は持続して出続けた場合は良い影響はなく、リウマチなどの状況にあたります。ですが、一時的に上がって下がるパターンが重要で、上がった瞬間に全身の細胞を刺激する。つまり、運動により高脂血症も糖尿病も高血圧症もよくなるという機序が一元的に説明できます。
術後の臥床状態にある人を座位・立位刺激すると、例えば、循環器系に対しては下肢への血液移動が起こり、心拍出量が低下します。その結果、総末梢血管抵抗と心拍数が充分に補償しなければ血圧も低下し、それが全身を刺激し、末梢交感神経、ADH、レニンアンギオテンシン系等が賦活化します。これらの循環器系、自律神経、内分泌系に対する刺激だけではなく、体全体の細胞を活性化するという効果があると考えられます。ふだん診療していると、そうとしか思えないケースは本当に多く経験します。とにかく立たせ、歩かせる、運動療法をしっかり行うこと。そうすると、最後には歩いて帰ることができる患者は驚くほど多いです。

田島:最近、BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)の話題がよくでますが、動物実験で運動を負荷すると、運動しているネズミの海馬のところに発現します。例えば、どの親御さんも、子供に勉強だけではなくて運動もするように教育する事は、脳の発達に対しても合理的かもしれません。

花香:どれくらいの運動が必要ですか?

田島:温泉や、高温環境下で運動すると、20分でBDNFは出てきます。温度はそれなりにあげないといけませんが、今、研究中です。

清水:温泉に入りながら運動するということですか。心拍数を上げる必要はありますか。

田島:あります。普通の運動では40分くらいは必要です。例えばIL-6だけでいうと、脳卒中の患者では、1時間歩行訓練すると有意に上がる。健常者では歩行くらいではなかなか上がらないですね。安保先生とした実験ですが、単なる歩行ではなく、ゴルフだと上がります。脊損者では、IL-6、NK cell activitiesが、車いすハーフマラソンで有意に上がる。健常者では、エルゴメーターを少しきつい程度の負荷で20分間したら、白血球は1万を超えます。さっきみていただいた訓練室で、化学療法やっている患者を歩かせたり、自転車をこがせたりしていましたよね。血小板さえ確保できていたら、免疫機能改善効果も期待しています。

清水:今、ハーフマラソンとフルマラソンとでは差がありますか?

田島:フルマラソンでは、オープン・ウィンドーの法則というのがあって、負荷が強すぎるとNatural Killer Cell活性は下がってしまいます。ただ2時間で戻りますけどね。だから、フルマラソンに出たあと2時間くらいはウィルスや病原菌に気を付けたほうがいいですよ。マラソンされていますか?

花香:はい。ハーフマラソンにでては、よく走っています。

清水:私もマスターズに出始めました。

司会:田島先生はいかがですか?

田島:僕は今、筋トレしています。腹筋100回、腕立て伏せ30回とか。家内とします。それが、家内は以前、1回も腹筋ができなかったけど、今、一緒に100回できるようになりました。

 

運動は、中枢神経へ影響を与える。

花香:運動時のIL-6の上がり方についてですが、筋トレみたいな運動とジョギングみたいな運動と、どっちが上がりますか?

田島:両者とも上がります。筋トレタイプの抵抗運動でも上がりますけど、ただ、血圧があがってしまう。循環応答における運動様式による違いは2種類しかなくて、スタティックエクササイズか、ダイナミックエクササイズかです。筋トレは、筋緊張を持続するから、グーッと力を入れている間、筋繊維の中に血流が入りやすくなります。だから、この運動時の循環調節は脳からの中枢性の調節と、末梢レベルのchemoreceptorかmechamoreceptorで行っています。その情報を統合して心拍数と血管の収縮を決めています。

IL-6の上がり方に注意すれば、筋緊張と筋弛緩のある運動や自転車エルゴメーターのほうが上がりやすいです。

運動による刺激は認知機能も改善すると考えていました。10年前に、FIMの測定をみて検討しました。運動項目がよくなると思ったら、みんな認知項目がよくなって、運動は認知症に効くと確信しました。このデータを、リハビリ系の雑誌に、当時の修士課程の者に投稿させたら、「そんなことはありえない」という、一言のコメントでリジェクトされてしまいました。次出そうと思ったら、こういう話がどんどん出だし、二番煎じになりとても残念でした。

花香:先生が推奨されている運動は何でしょうか。

田島:どんなタイプであれ、筋肉の収縮があればいいですよ。続けるという意味ではスポーツですね。

司会:刺激となる運動ということですね。

田島:そうそう、患者に対しては、刺激をして、座位起立させ、運動させる。温熱でもいいし、寒冷でもいいし、刺激をするとこういう反応がでてくる。細胞レベルでいろいろなアクティベートが起きます。

司会:今日のお話では、筋肉は末梢に位置していますが、それを刺激することで、どんどん中枢の方へ影響を与えるということでしょうか。

田島:おっしゃる通りです。BDNFも筋肉を活発にさせる。
それから、神経と筋肉を離して考えないようにされると良いです。小倉リハビリテーション病院院長の梅津先生が、大学院のときにされたお仕事なのですが、神経と筋肉が発生学的にどう結びつくかを世界で初めて明らかにしました。簡単にいうと、アセチルコリンが筋肉側に発現して、それを目指して神経が伸びていくということです。それでね、筋肉を緩めようと思ったら、生理食塩液を注射しても十分効果ありますよね。

花香:入れた途端に落ちますよね。

清水:ハリ効果というのでしたっけ。

大串:モニター要らないです。入れば、ちゃんと分かりますね。

田島:そうです。生食でやっても、筋弛緩しますね。痙縮とかね、モーターニューロンコントロールとか、全部一回ご破算にして、ゼロから構築しなおしたほうがいいと思うこともよくあります。手術とか薬では代用できなくて、刺激と運動が重要です。リハビリテーション治療は大切。そして、いかにシステミックにリハビリをすすめることができる環境を作るか。脳梗塞になって、リハビリテーション治療を行う一方で、変形性膝関節症がひどくてうまく勧めることができないことがあると、本来の歩行能力を引き出せないですよね。こういうことも含めて、包括的に患者を普段から診てほしいと思います。神経筋疾患があるから膝の関節の手術はできないとか、そういうのはよくないと思っています。

司会:先ほど、刺激なら何でもいいというお話がありましたが、電気刺激はいかがでしょうか。

田島:いいですね。

清水:着用型随意運動介助型電気刺激装置とかも最近ありますね。

花香:リハビリテーション医学会でそのセッションについて聞きにいきました。頸髄損傷の話だったかと思いますが、末梢神経による麻痺があるとき、電気刺激を早めに行ったほうがよいのでしょうか。

田島:わかりません。産業医大時代は低周波を使って頚損患者に電気刺激をしていましたが、目に見えた効果はありませんでした。個人的な意見としては、電気刺激よりも、装具を装着して立位訓練を行う古典的な方法がまず必要な治療だと感じています。たとえば、先生、ちょっと立って、右側の背筋(L2傍脊柱起立筋)を触って、そこを動かしてみてください。できるかな?できないでしょう。

花香・清水:はい、確かに。

 

どこの筋肉をきたえるべき?

田島:ペンフィールドの脳地図の中には背筋はほとんどありません。一説によると体中の骨格筋のうち、錐体路で動かすのは50%以下で、ハムストリングスは、随意筋で動くモーターユニットは、全体の半分もないとも言われています。腓腹筋も、半分しか錐体路で動かせないです。ハムストリングスやアキレス腱を運動したとき、体重が過度にかかって、姿勢反射などで張力がかなり出て、それで切れてしまう。ハムストリングス、腓腹筋、背筋など、運動をさせて大きな筋力を稼ぐためには、その錐体路だけではなくて、錐体外路を活用した、例えば、姿勢制御も導入したトレーニングも考えます。例えば、座ったままではあまり動かなくても立った方が傍脊柱起立筋は動くので、患者にハンドエルゴメーターを立ってやってもらいます。とにかく筋肉をたくさん動員したいと思ってのことです。

そうそう、年に一回、一般の方を対象にお話しをすることがあります。マイオカインの話もします。鍛えるのであれば、中殿筋、大殿筋、腸腰筋、大腿四頭筋、背筋を対象にやらないといけないです。ウエストが太いと、スタイルが悪いと思っている人は多いと思うけど、中臀筋が発達していると実は恰好良いですよ。

清水:はい、トレーニングやっています。

田島:たとえば、ウエストが太くても、中殿筋さえしっかりしていれば、すごくかっこよく見えますね。あとは、大殿筋も大切です。大殿筋、中殿筋が発達していると、スタイルがいいですよね。スピードスケートの選手は、ハムストリングスがはっていますね。フルの屈曲から、屈曲30度までのこの動きはハムストリングスだから、そうなるのですね。股関節屈曲30度から伸展30度までがは、大殿筋が働きます。我々は二足歩行するから、鍛えるべきは大殿筋です。
僕らのDNAでは、大殿筋と中殿筋が発達している人を見るとかっこいいと思う。だから、水泳の自由形の選手を見たら、かっこいいと思わないですか?

花香・清水:たしかに、そうです。

田島:でも、自転車の選手とかスピードスケートの選手のスタイルとはまた違いますよね。
ハイジャンパーはかっこいい。ランナーもかっこいい。どうですか?

清水:実は私、走るのが遅かったのですが、陸上を大学から始めて、100m走が1年間で3秒速くなりました。

花香:すごいですね。

清水:いつもどうやったら速く歩けるか、速くなれるかとずっと考えていました。歩くときは臀筋を使って、ヒップ伸展させようと常に考えています。そしたら、この間マスターでたら、案外維持できていました。

田島:うん、なるほど。つまり、リハビリテーション治療で活動性を良くするためにはPT、OTの先生方もこれを意識すべきなのですよ。当科でも、マットを使ってリハビリはしているけど、モミモミをしている人は一人もいないですよ。マット上で中殿筋か大殿筋のトレーニングをさせています。

司会:ただ、すべてのスタッフがそのことを意識しているというわけではないですよね。

田島:ちゃんと教えられていないのです。
大殿筋と中殿筋のトレーニングがまず基本にないとダメです。そうすると、屈曲位では無理なので、絶対に立位か臥位の運動になります。

清水:HALのロボットでのリハビリをやっていて、動作解析を行っています。股関節の伸展を出そうと目標にしていますが、どうやったら出せていけるかなって、検討中です。

田島:僕らも使っていましたが、今は、下肢装具でやっています。下肢装具を装着しての歩行練習です。那智勝浦町立温泉病院で、寝たきりだった筋ジスの人を対象に入院リハで下肢装具を装着してしっかりとトレーニングしたら、歩けるようになりました。装具療法って、1000年以上の歴史を生き延びた治療法なだけはあります。長下肢装具には、細かなノウハウがあって、継手の位置、骨格そのものの位置とか強度、本当にたくさんのノウハウが蓄積しています。

清水:HALでの練習では、患者さんのモチベーションは上がりますね。HALを使って何をするかと考えながら検討しています。脊損の患者さんとかで、車いすレベルだけど、少し歩行とかできる人の場合には効果があるかと思います。あとは、膝の屈曲硬直がある小児の患者さんでも検討中です。

田島:ロボット療法が話題になっているけど、いかに負荷をかけるかが大切です。治療としてどう使うかが、重要ですね。それと、コストパフォーマンスにおいてもやはり装具療法は良いですよ。

清水:おっしゃる通りです。装具が良い点は、ノウハウがありますし、誰でも使えます。HALは特定の施設に行かないと使えないし、家では使えないから、生活の場での応用が難しい面があるかもしれませんね。

田島:例えば、さっき訓練室で見てもらいましたが、両下肢に長下肢装具を装着し、酸素投与しながら歩行練習をしていました。ああいった歩行練習はスキルだとおもいますね。ぼくには技術がないからできません。

大串:巧みの技っていうか。セラピストの腕ですよね。

田島:うん、下手なセラピストには絶対にできないですね。我々は、医者として、過酷な訓練にも患者さんが絶えられるようにしっかりと治療をしないといけないです。急性期ICUにいて、救急科からリハビリ科に転科の際、きちんとした輸液管理、呼吸管理、循環器系の管理ができないとダメです。ちなみに、僕自身は、体液調節はけっこう得意なのですよ。学位は循環機能と腎機能に関する研究で取りました。

 

研修について・・・和歌山医大では、臨床と研究を並行して行う。

司会:いちばん最初に学位を取られたときっていうのは、リハビリテーション科に所属されておられたのでしょうか?

田島:そうです。僕、卒業と同時にリハビリテーション科に入局しました。産業医大は義務年限があり終わらせるのが大変ですね。全国の労災病院に行かないといけないから。中村健先生も義務年限終了後、卒後12年目に和歌山に来たのかな。彼の研究業績はその時からはじまっています。

司会:先生の腎臓の論文は、動物実験でしょうか。

田島:動物実験の論文にも名前は入れてもらっていますが、人を対象とした研究が中心です。だから、ICUで、かなり状態が悪く、全身管理しないといけないような患者の病態生理が判るようにトレーニングされてしまいました。その患者に対して、積極的なリハビリテーション治療に取り組もうというのは、とても興味があって、どれほど良くできるだろうと考え、わくわくします。

司会:先生がリハビリ―テーション科に入局しようと思われたきっかけを教えてください。

田島:簡単にいうと、産業医大は新設で先輩もいないし、とにかく、患者を良くして、楽しそうじゃないといやだと思っていました。だったら、リハビリテーション科しかないですよね。

大串:他の診療科にはなかったわけですね。

田島:そうです。リハビリテーション科では全身を診ないといけないけど、活動性をよくするという目に見えた効果があります。だからこそ、面白いと思いました。女性医師向けのページも作っています。女性のほうがリハ医に向いていると、僕は思っています。

僕はスポーツとか全然したことがなくて。家が米屋で、学校が終わるとすぐに家に帰って、精米、店番、配達をしなければいけなくてね。母は私が12歳の時に妹を出産しましたが、陣痛がはじまるまで働き、また、出産後すぐに店にもどっていました。私自身、少しでも母の負担を減らすために店を手伝いました。だから、出産育児の負担を女性にだけ押しつけてはならないと思っています。といいながら、すべて家内に押しつけていますが・・・。

福岡伸一先生の「できそこないの男たち」という本を読んだことがありますか?
是非読んでみてね。
リハビリテーション科は「出産育児期に合わせ、無理なくキャリアを積める環境を構築出来る!」と考えています。
当科入局後では、図のような進め方をしている女性医師がいますよ。これだと、臨床と研究と同時に行うことができますよね。

リハ科の役割ですが、中央診療部門の医師としての役割は重要です。いろんな科からコンサルタントを受けます。ここでは、転科のシステムもあって、主治医としてもみますけどね。

清水:転科っていう選択肢があるのは羨ましいと思います。
たとえば、義足の患者さんとかは、傷は形成外科が診て、こっちでやるっているよりは、転科してしまって、傷も自分が診ることもやりたいなと思います。

田島: コンサルタント業務が多いかもしれないですね。ただ、出産、育児のときはコンサルタント的に中央診療部門の医師でいたら、夜間、緊急もないし、当直もありませんよね。

これがソリューションで一番いいと思わないですか? うちの男性医師は、女性は育児があるから当直免除って言っても、誰も文句言わないよ。さっきの図のように、並列にして考えれば、女性医師でのキャリアの問題も解決されると思っています。

司会:先生のお話を聞いて、なるほどと思いました。直列ではなくて並列で考えたらいい、確かにそうですね。いろいろな場面でそうだろうと思いました。

田島:ありがとうございます。

司会: 臨床だから、臨床ばかりしているというわけではなく、そこにはいろいろな研究も含まれているわけですし。そこは常に並列ですよね。

田島:女性って、いっぺんにいくつものこと、考えられると思いますよ。

司会:実際に皆さん、そうしておられるかもしれませんね。

清水:実際、マルチタスクは確かに女性のほうがうまいかもしれないなって、思います。

田島:コンピュータのCPUで例えると、マックだと、マルチタスクになるんだけど、あるCPUは、割り込み処理をしています。一つしか演算の経路がなくて、なんか途中でマルチに仕事しているように見えても一回全体を止めて、そこに入れ込んで、もう一回計算、演算して、それが終わったら、もう一回、続きを始めるっていうね。それは男型だと思います。
でも、女型は、同じCPUの中にも回路がいくつもあるような印象があります。柔軟ですよね。

司会:先生方のほうからは、質問はありませんか?

清水: 先生、一つ質問してもいいですか? 骨転移のリハビリに非常に悩んでいまして。骨転移患者さんのリハ依頼がけっこうあるのですけど。主治医が骨転移を把握してないことがけっこうあって。

田島:しょっちゅう!ですよ。

大串:負荷量も自分で決めないと。

田島:うん、負荷量どころか、その先も含めてリハビリ処方しています。和歌山医大の外科では、術前からリハビリを依頼することは当たり前になっていますよ。リハビリエーション医学の可能性はどんどん広がっていっています。町おこしだってできますからね。

司会:本日は、お忙しい中、本当にありがとうございました。

 

田島先生へのインタビューを終えて・・・・

インタビューを伺いながら、同時に多くのレクチャーしてくださいました。そして、リハビリテーション医学に基づく治療を行うことの大切さを改めて教えていただきました。多くのアイデアをもち、積極的な治療を行いながら、科学的な視点も持ち合わせるといった姿勢を、医療者は忘れてはならないと感じました。
病棟や訓練室での見学では、多くの学習をさせていただき、大学病院から出て、サテライトとして診療できるクリニックも見学させていただきました。そこでは、スポーツジムのような施設や実験施設もあり、リハビリテーション医学の研究の幅を感じました。田島先生ならびに、ご教室の皆様においては、ご多忙のところ今回のような機会をいただき、本当に感謝しております。心よりお礼申し上げます。
ありがとうございました。

文責:中馬孝容