●報 告● 日本リハビリテーション医学会

 

平成16年度リハビリテーション医学に関連する社会保険診療報酬等の改定について

日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会
担当理事 石田  暉
委 員 長 本田 哲三
担当委員 田中宏太佳

はじめに

 平成16年度の社会保険診療報酬等の改定は,患者中心の,質がよく安心できる効率的な医療を確立し,医療の安全・質の確保,具体的には,DPC,小児医療,精神医療等を重点的に評価し,改定率は±0%とするなどの基本的な考え方に沿って進められた.この改定に向けて,日本リハビリテーション医学会は厚生労働省・日本医師会・内保連・外保連を通じて数々の要望を行ってきた.以下に主な改定の内容を示す.

 1. 「急性発症した脳血管疾患等の疾患の患者」に対する定義の拡大

  従来は脳血管疾患,脊髄損傷等の脳・脊髄(中枢神経)外傷,大腿骨頸部骨折,下肢・骨盤等の骨折,上肢骨折または開腹術・開胸術後の患者であったが,当委員会の椎野泰明委員が中心になって定義の拡大内容をまとめ要望した結果,脳腫瘍などの開頭術後,急性発症した脳炎・ギランバレーなどの神経筋疾患,脳性麻痺,四肢(手部・足部を含む)の骨折,切断・離断・腱損傷,脊椎・肩甲骨・関節の手術後,四肢の熱傷(U度の熱傷では体表面積15%以上,V度の熱傷では10%以上),気道熱傷を伴う熱傷,多発外傷,植皮術後および15歳未満の先天性股関節脱臼の手術後などが加えられた.また,他学会と共同提案として要望した高次脳機能障害患者のリハビリテーション(以下,リハ)の保険診療算定化については,「高次脳機能障害診断基準」に基づいた診断がなされた日をもって「急性発症した脳血管疾患等の疾患の患者」とみなされることになった.

 2. リハ実施計画書および総合実施計画書の改定

  早期リハ加算を算定する要件として作成することが義務づけられたリハ実施計画書,およびリハ総合計画評価料と回復期リハ病棟入院料を算定する要件として作成することが義務づけられたリハ総合実施計画書の平成14年度の診療報酬改定で提示された書式については,その項目や用語について,会員から日本リハ医学会に多くの修正意見が寄せられた.当委員会の高橋紳一委員が中心となり,それらの意見をまとめて新しい書式を提案し,平成16年度の改定で採用された.特に活動の欄におけるADLの評価に関して国際的に使用されているBarthel IndexやFIMを使用することが勧められたことは,評価の標準化という面から有益であると思われる.

 3. 言語聴覚療法の見直し

 「急性発症した脳血管疾患等の疾患の患者」に対する早期リハ加算が言語聴覚療法に関しては対象となっていなかったが,現実には脳血管疾患等の多くの患者に言語聴覚療法が実施されている実績が評価され,理学療法や作業療法と同様に加算を算定することが可能となった.
 また,言語聴覚療法Vが新設され,非常勤の言語聴覚療法とその治療室は言語聴覚療法実施時のみに専用とすることが認められた.また今までの施設基準において,16平方メートル以上の集団療法室が必須条件であったが今回の改定では緩和された.
 在宅訪問リハ指導管理料の算定要件に,言語聴覚療法士の訪問が追加された.

 4. 逓減制および算定制限の見直し

 集団療法については患者1人につき1日2単位,かつ,1カ月合計8単位の算定に制限されていたが,早期リハ加算の対象者と同様の状態にある患者で発症後180日以内のものについて,月内算定回数の上限を12単位に引き上げられた.消炎鎮痛処置の逓減制も同様の条件の下に5回目から7回目に緩和された.

 5. その他

 肺機能訓練は,理学療法の「集団療法」での点数により算定することになっていたが,「個別療法」での算定も可能となった.
 心疾患リハ料の算定は従来特定集中治療室管理または救命救急入院の届出を受理された医療機関に制限されていたが,その施設基準届出施設数を促進するために,循環器科もしくは心臓血管外科を標榜し当該診療科の医師が常時勤務しており,緊急手術や,緊急の血管造影検査を行える体制が確保されていればよいことに緩和された.
 介達牽引は,平成14年度の改定で消炎鎮痛処置として整理されたが,独立した技術として評価するために新設区分として復活した.
 亜急性期入院医療管理料が新設された.これは亜急性期医療を必要とする患者について,一定の期間に在宅復帰を目指して実施する入院医療管理を評価するもので90日を限度に算定が可能である.1日につき2,050点の包括報酬であるが,リハ料は地域加算などの一部加算や手術料・精神科専門療法などとともに出来高払いで算定が可能である.

 まとめ

 今回の改定で,早期リハ加算対象など臨床現場の実状にそぐわなかったいくつかの項目が改善された.しかし,1日あたり個別療法の算定単位の緩和など多くの会員が希望していた項目は改善されなかった.
 今後の診療報酬は,医療技術の評価・再評価に基づいて改定が行われることが予想され,リハ医学領域における新しい技術はもちろん現在行われている診療行為も含め,根拠に基づいた有効性を示すことが要求されるであろう.例えばリハ科医師の専門技術としてのリハ処方箋の作成や,適切なチーム医療を促進するために行っているリハカンファレンスが社会保険診療報酬に馴染むかどうかは,その科学的な有益性の根拠が示されてはじめて議論の俎上に載せることができるのである.
 また,平成18年度の診療報酬改定においては,急性期医療へのDPCの広範囲な導入は避けて通れないことが予想される.この制度に対してリハ医学がどのような関わりを行うかについて充分によく検討する必要がある.
 リハ医学が患者サイドに立った良い医療制度を提示できるための診療報酬体系が構築されるように,当委員会は活動を続けて行く予定であるので,学会員諸氏の忌憚のないご意見を賜ることをお願いする.

リハ医学 41巻5号掲載