●報 告● 日本リハビリテーション医学会

 

DPC導入におけるリハビリテーション医療への影響に関する報告書

日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会
担当理事 石田  暉
委 員 長 本田 哲三
担当委員 梅津 祐一

 

 2003(平成15)年4月より特定機能病院を対象にDPC(diagnosis procedure combination)が開始された.このDPCの導入によりリハビリテーション(以下,リハ)医療にさまざまな影響を及ぼすと予想される.今回導入されたDPCでは疾患ごとに決められる診断群分類係数が施設ごとに異なり(医療機関別係数),その係数を大きくするために,在院日数の短縮や,紹介率を上げるなど努力がなされるものと考えられる.中でも在院日数短縮が最も係数上昇に強く反映するとして,各病院において一層の在院日数を短縮する努力がなされると推測される.リハにおいて一人の患者の入院日数が短くなれば単純にリハ施行日数は減少し,リハ効果の軽減が懸念される.このたび,本委員会として特定機能病院のリハ医療におけるDPCの影響を把握すべく調査を実施し,集計・分析したので報告する.

 I. 調査結果

 回収率:82病院中47病院 57.3%
     (国立25病院,公立5病院,私立17病院)

 1. 回答病院の概要について

 DPC導入前後での病院全体の平均在院日数は図1に示すとおり,短縮と回答したのは31病院(64%),
変化なし7病院,延長が1病院であり,約3分の2の病院で入院期間が減少していた.病院全体の医療収入は約60%の病院で増加傾向を認め,減少したのはわずか2病院であった.
図1 DPC導入前後での病院全体の平均在院日数の変化(短縮64%,延長2%,変化なし14%,わからない20%) 1.短縮 31
2.延長 1
3.変化なし 7
4.わからない 10
図1 DPC導入前後での病院全体の平均在院日数の変化

 2. 回答病院リハ医療の概要

 回答病院のリハ施設基準は,約60%が総合リハ施設(AまたはB)で,残りの40%がPT II・OT IIであった.言語聴覚療法に関しては約30%の施設は施設基準なしであり,専従の言語聴覚士が不在あるいは治療設備の不備などが要因であることが示唆された.回答病院のうちリハ専用病床を有する病院は約30%であったが,回答をいただけなかった病院のほとんどは専用病床を有していないと推察される.よって,特定機能病院でリハ専用病床を有するのは15%程度と推定される.

 3. DPC導入によるリハ医療への影響

 入院患者のリハへの紹介数は図2に示すように,約40%の病院で増加と回答し,減少と回答したのはわずか2施設であった.リハ紹介患者の原疾患については23%の病院で変化ありと回答し,増加した疾患としては「胸部・腹部外科術後」「肺炎」「神経内科疾患」などが挙げられ,減少した疾患としては「脳卒中」「悪性腫瘍」などが目に付いた.

図2 入院患者のリハ部門への紹介数(増加41%,減少5%,変化なし54%) 1.増加 16
2.減少 2
3.変化なし 21
図2 入院患者のリハ部門への紹介数

 患者1人当たりの訓練時間,訓練効果については80%以上の病院で変化なしと回答し,リハの内容には大きな変化がないと考えられた.
 リハ実施患者の転帰に関しては図3に示すとおり,60%の病院で「転院(所)が増加」と回答した.在院日数の削減により,入院継続のため他院への転院が加速したものと考えられる.
図3 リハ対象患者の転帰(自宅復帰が増加3%,転院(所)が増加60%,変化なし37%) 1.自宅復帰が増加 1
2.転院(所)が増加 18
3.変化なし 11
図3 リハ対象患者の転帰

 リハへの紹介が増加した影響からか,約30%の病院でリハスタッフの増員を予定している.クリニカルパスの使用も半数近くの病院で加速したと回答しており,より効率的なリハ運営が求められている.
 休日リハ訓練に関しては実施あるいは実施予定が4分の1程度であり,リハ医療の効率化,集約化が加速している反面,労使関係や労働協約などコ・メディカルの休日労働の問題が特に国公立であるものと推察される.
 保険査定に関してはほとんどの病院で影響はないが,約10%の病院から「レセプト上,包括化の中で出来高であるリハが目立つ」「退院時指導についての査定が多い」などの事例をいただいた.
 リハ紹介患者の入院/外来の比率は図4に示すとおり,約半数の病院が入院患者の増加と回答した.そのような現状を踏まえた今後のリハ部門の対策,その他DPC導入による影響については表1,2のとおりである.
図4 リハ紹介患者の入院/外来の比率(入院が増加53%,外来が増加3%,変化なし44%) 1.入院が増加 18
2.外来が増加 1
3.変化なし 15
図4 リハ紹介患者の入院/外来の比率


表1 今後リハ部門で対策を講じようとしていることは(複数回答可)
1. 早期リハの更なる推進 32 68%
2. リハ部門での病病,病診連携の推進 16 34%
3. IT化の推進 9 19%
4. その他
リハ担当医師不足の解消
外来慢性疾患患者の他院への紹介
外来は専門疾患に限定
PT・OTのさらなる増員総合承認施設の取得
別途指導訓練の推進・充実についてクリニカルパスの充実
5 11%

表2 その他DPC導入による影響
在院日数の短縮に伴い転院が増加
早期リハが増加
一人一人に対するリハが薄くなる傾向
病名の付け方に悩む
リハ科への転科依頼の増加のため,今後回復期リハ病床数を増加する予定
リハ対象としては悪性腫瘍の患者が増加
急性期リハ患者を多く診る方針
回復期リハ病棟の開設と転棟基準がDPCによって左右される
病名登録など事務処理が増加
リハの包括化が見え隠れしている

II. DPC導入がリハ医療へ影響を及ぼす現状

 DPC導入により病院全体の在院日数は短縮傾向を認め,インテンシブケアの後転院するケースが増加している病院が多い.在院日数の削減により病院全体の診療報酬は増加した病院が多かった.
 リハ診療に関しては,訓練の実施内容や訓練時間,診療報酬,保険査定などに大きな変化は認められない.しかし,在院日数の短縮などの要因から,早期からリハへの紹介数が増加し,早期リハの算定可能な入院患者が増加している.リハ紹介患者は脳卒中が減少し,外科術後や肺炎,入院が長期化する神経内科疾患などリハ医療が在院日数削減に比較的効果の得やすい対象患者の増加が特徴的であった.リハ対象者の転帰は転院するケースが増加し,リハ医療においても特定機能病院と市中病院との病病連携,病診連携の重要性が増したと考えられた.

リハ医学 41巻6号掲載