●報 告● | 日本リハビリテーション医学会 | ||||||||||||||||||||||||||
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支援費制度下における身体障害者更生施設の実態調査報告 |
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支援費制度移行後,身体障害者更生施設は身体障害者更生相談所の判定を受けずに直接利用できるようになったが,実際にその流れはどうなったか,更生施設のサービスはどのように変わったか,全国的な情報を収集したので報告する. 調査票の発送は全国の身体障害者更生施設(入所),95施設を対象として行った.回答は,肢体不自由者更生施設66,視覚障害者更生施設7,聴覚・言語障害者生施設1,内部障害者更生施設1の計75施設からあり,回収率は78.9%であった. 今回は,肢体不自由者施設66施設について報告する.なお,調査は平成16年3月31日現在の施設状況に基づくものである.また,本委員会が平成13年に行った「身体障害者更生援護施設実態調査1)」(以下,前回調査と略す)の結果と比較した. 1. 施設の概要1) 施設種別:支援費制度導入により,重度身体障害者更生援護施設は肢体不自由者更生施設に統合2)された.従って,今回の調査対象66施設には,旧重度身体障害者更生援護施設26,両者の併設施設13が含まれている.2) 施設運営母体:公立,都道府県市社会福祉事業団,社会福祉法人等であるが,前回の調査時に比し公立施設の割合は減少しており,規制緩和の影響が示唆された. 3) 職員体制:12施設(18.2%)が職員を増員していたが,職種は生活支援員等が多かった.1施設あたりのリハビリテーション(以下,リハ)専門職(非常勤を含む)の平均人数は理学療法士(PT)1.4人,作業療法士(OT)1.2人,言語聴覚士(ST)0.5人であった.また,PT,OT,STはそれぞれ84.8%,75.8%,28.8%の施設に配置されており,前回とほぼ同様の結果であった.ちなみに,PT,OT,STがまったく配置されていない施設が6カ所認められた. 4) 入所者の状況:平均年齢は,40,50歳代にピークがあった.障害程度区分は,A区分49.5%,B区分40.5%,C区分10.0%であった.障害の状況については,平成14年度と比較して,40%にあたる27施設は「変化なし」と回答しているが,残りは,障害の重度化,重複化,多様化が進んだとしており,旧施設種別による差はなかった. 2. 施設の利用状況平成15年度(支援費制度下)1年間の施設ごとの新規入所者数は0〜79人で,年間の新規入所者数は平均17.2人であった.調査時の入所者数に対する支援費制度導入後の新規入所者の割合は35%で,前回調査において指摘されていた入所期間の長期化および利用率の低さの問題は,今回の調査でも同様の傾向にあった.しかし,「短期間で目標を達成できるよう支援した結果,定員割れが生じている」「短期間に入所者の支援を展開するため,職員の負担が増大」「施設利用者の入退所の回転が早くなった」などの意見も多く,施設利用状況には変化が現れ始めているようである.3. 施設利用までの流れ平成15年度の入所申込者1,175名の来所経路の内訳は,表1の通りである.支援費制度の導入により更生相談所の判定が不要となった結果来所経路は多様化し,医療機関からの直接紹介が最も多くなっていた.なお,判定が不要になった分障害の発生から施設利用までの期間が短縮し,障害者に対し適切な時期にリハサービスが提供できるようになることが期待されたが,制度が変わったため以前のデータと単純に比較することは困難であった.この件に関してはさらに詳細な調査を要するが,一方,基本的な問題の解決には,@主たる紹介元である医療機関の積極的な関与,A施設利用に必要な身体障害者手帳の診断時期の短縮化,などの対策が必要である.
4. 新たなリハサービスの取り組み状況支援費制度の趣旨である「利用者本位のサービス提供,利用者の自己決定・事業者との対等な関係での契約,サービスの質の向上」という視点に立って,「重要事項説明書(施設の基本理念,運営,サービス提供等に関する情報提供書)」の作成と利用者に対する説明,「施設支援計画書(広義のリハ計画書)」の作成と交付,「施設支援計画書」に基づいたサービス提供,サービスの質の向上に対する取り組みを中心に調査した.1) 「施設支援計画書」:94%の施設が作成,68%の施設が入所者に交付していた.「施設支援計画書」を作成していない施設は4施設認められたが,いずれもPT,OT,STが配置されていない施設であった. 施設が施設支援計画書を作成する際に必要とする情報は,医師の診断,PT・OTの評価(各々90%の施設),心理検査(53%),更生相談所の意見,市町村の意見などで,リハ医学・医療に係わる評価が多い.これらの情報のうち施設側が入手困難なものは,更生相談所の意見(38%の施設)や心理検査結果(21%)などで,支援費制度の導入により更生相談所の判定が必須条件から外れたことから,総合的な支援計画が施設側に示されなくなった結果といえる. 更生相談所の判定がなくなった影響について,「診断・評価結果など支援方向に関する専門的な情報がないため支援計画を立てにくい」「評価に時間を要する」など「影響あり」とした施設は65%,「影響なし」とした施設は27%であった.影響の有無と専門職の配置状況,新規入所者の割合などには明らかな関連がなかった.また,影響の有無にかかわらず約半数の施設は,情報がうまく収集できない場合の対応について,更生相談所や専門機関に評価を依頼する,紹介医療機関や市町村に問い合わせる,評価入所を行うなど苦労している様子が窺われ,医療側からの積極的な技術支援の必要性が認められた. 2) 「施設支援計画書」に基づいたサービスの提供:支援費制度導入以前より「リハ計画書」などに基づいたサービスを提供していた施設は約半数に認められたが,支援費制度の導入により「施設支援計画書」に基づくサービスの提供は83.3%に増加した(表2).
提供するサービスのうち力を入れているプログラムは,身体機能の維持・向上(71%の施設),生活管理能力の向上(47%),社会生活スキルの向上(45%),ADLの自立(39%),APDLの自立(36%)で,福祉機器の利用(3%)や余暇活動(8%)などは少なかった.このうち社会リハの取り組みとしてみると,前回調査では90%の取り組みであったが,今回は全ての施設で取り組まれていた. 3) サービスの質の向上:職員研修,サービス評価の実施,苦情処理システムの設置等があげられ,それぞれ77.3%,83.3%,95.5%の実施率であった.サービス評価については,「第三者評価事業」まで行った施設は7施設に留まっており,その内容も施設の倫理的姿勢や態度を評価するものが中心で,リハ施設としてのサービスの提供状況,質や効果の評価については,引き続き今後の検討課題である. 5. 考 察医療保険の急性期へのシフトが進む中,身体障害者更生施設は高次脳機能障害者や比較的高齢の脳血管障害者も利用する率が高くなっており,社会・職業リハだけでなく,地域・在宅生活へ戻る障害者のリハの場として,最近,再びその機能が重視されつつある.1) 施設のリハ機能:支援費制度導入後も専門職員数など施設基準には手が付けられない中,利用者のニーズにどう応えるか,多くの施設で苦心されている様子が窺えた.しかし,個々の施設のリハ機能は施設格差が大きく,調査結果上の全体的な傾向は「入-退所の回転の悪さ」「定員割れ」等,前回調査と同様であった.一方,「利用者の支援目標を明確にし,必要なサービスを提供,過剰なサービスをなくし効率化を図っている」「入所目的,入所期間を明確にし,できるだけ短期間で目標を達成できるようにしている」との回答も多く,その結果,「利用者の自立生活に向けた支援,重度障害者の増加に対する支援体制が整っていない」等の問題も出ている.施設経営面からみた支援費制度の問題点3)についてはすでに指摘されているところであるが,厚生労働省は「今後の障害保健福祉施策について(改革のグランドデザイン案)」4)の中で,施設体系,事業体系の抜本的な見直しを進めており,今後は,施設種別ごとに区分されていたサービス体系を「施設(建物)」とは切り離し,「自立訓練事業」など,利用者個人に提供するサービスを機能別に事業化する仕組みへと移行する計画を示している(図 施設体系・事業体系の見直し). 2) サービスの質:ほとんどの施設が支援費制度の趣旨を実現すべく努力しているが,とりあえず形式的なレベルでのシステムは整ったものの,サービスの質については今後の課題である.リハサービス提供の前提となる「施設支援計画書」の作成を例にとっても,「利用者を総合的に受け止めて,支援計画を作成したいが,そのための情報が措置制度時に比べて乏しい」という意見に代表されるように,専門機関としての更生相談所の判定が無くなった影響は決して少ないとはいえず,障害の評価,ゴール設定,プログラムの作成など,施設に対し専門的技術支援を行う必要性はまだまだあるものと思われる.医学的リハ終了後の障害者がどのような福祉サービスを選択するのが適当か,障害者のニーズを踏まえた上でタイムリーな判断を下し,急性期から地域生活に至るまでのリハを設計する,これはリハ科医師の重要な役割といえよう. 追記:厚生労働省障害保健福祉部は,平成16年10月12日,介護保険の見直しに合わせて今後の障害保健福祉施策に関するグランドデザイン案4)を発表した.同案の中で示された制度改正のスケジュールによれば,「障害者自立支援給付法(仮称)」を早急に練り上げて今春の国会で審議,平成23年度末までには新体系への移行をすべて完了する予定とのことである. 政府はこれにより,戦後を支えてきた社会保障制度の枠組みを抜本的に改革する計画であり,福祉施設の有り様についても,障害者の「地域生活支援」「就労支援」といった新たな課題へ対応するため,自立訓練や就労移行支援等の地域生活への移行へ資する機能を強化する方針である. このため当委員会としては,本調査結果の分析をこれ以上深める意義は乏しいものと判断し,改めて計画を見直すこととした. 参考文献1) 樫本 修・他: 身体障害者更生援護施設実態調査. リハ医学 2002; 39: 219-2232) 障害保健福祉制度研究会監修: 身体障害者福祉関係法令通知集. 平成15年度版, 第一法規 3) 上小鶴正弘: 身体障害者福祉施設のあり方について. 総合リハ 2004; 32: 1025-1030 4) 厚生労働省障害保健福祉部: 今後の障害保健福祉施策について (改革のグランドデザイン案). 平成16年10月 |
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リハ医学 42巻3号掲載 |