<2007/April/15 updated>
●報告●日本リハビリテーション医学会

障害保健福祉委員会活動報告

日本リハビリテーション医学会障害保健福祉委員会

担当理事 蜂須賀研二
委員長 小池 純子
委員 伊佐地 隆,樫本  修,鈴木 恒彦
陶山 哲夫,飛松 好子,柳原 幸治


障害保健福祉委員会では,“地域リハビリテーション支援システムのあり方”を活動計画の一つとして取り上げ,平成12年度から開始された地域リハビリテーション支援体制整備推進事業の進捗状況と成果を調査し,どのような形の地域リハビリテーション支援システムが望まれるのかについて各年度ごとにテーマを決めて調査を行ってきた.平成18年3月,国の地域リハビリテーション支援体制整備推進事業が終了したため,現時点までの調査結果を「中間報告」としてまとめ報告する.


「地域リハビリテーション支援システムのあり方」
中間報告

平成19年1月27日

障害保健福祉委員会

担当理事 蜂須賀研二
委員長 小池 純子
担当委員 柳原 幸治,鈴木 恒彦

I.まえがき

平成12年,介護保険制度の施行と同時に,いわゆるリハビリテーション(以下,リハ)前置主義に基づいた地域リハビリテーション支援体制整備推進事業が開始された.地域リハビリテーション(以下,地域リハ)といっても,対象者を介護保険制度の被保険者としていたこと,この事業の主な実行機関である広域支援センターの7割以上を医療機関,すなわち病院が担ったことから,地域リハの推進は医療機関のリハ関係者(医師,理学療法士:PT,作業療法士:OT)を中心とした活動に任されることになった.当初厚生労働省は,地域リハ支援体制として,都道府県の地域リハ協議会の下に都道府県地域リハ支援センター,二次医療圏毎に地域リハ広域支援センターを設置し,業務を分担するという枠組みを想定していた.事業の開始に先立ち,平成11年に示された地域リハ支援活動マニュアルにおいて広域支援センターの業務内容は,マル1地域のリハ実施機関への支援,マル2リハ施設の共同利用,マル3地域のリハ施設等における従事者への援助・研修(施設に出向いて行うリハ従事者への援助,リハ従事者に対する研修),マル4地域レベルの関係団体,脳卒中友の会,リハビリクラブなどからなる連絡協議会の設置・運営,などである.しかし,実際に行われたのは研修会と技術指導・支援が最も多く,かつ,その内容は脳卒中のリハを中心に据えたものがほとんどで,地域によっては転倒予防,体力向上など介護予防に焦点を絞った内容の所もあった.限られた予算,マンパワーのなかで地域リハ概念の普及のためには,研修会開催が最も容易に取り組みやすい事業であったためと思われる.一方,一口に二次医療圏といっても,リハや医療そのものの過疎地域もあれば,人口密集地で医療機関も数多い地域もあり,地域における高齢者の比率も異なるために広域支援センターの活動状況は実に様々であった.本委員会では「地域リハ支援システムの問題点と今後のあり方について」検討する目的で,各種学会や書籍,ホームページで各地域の活動報告を調べ,日本公衆衛生協会のアンケートも参考にして検討を加えた.その結果から地域リハ推進事業の先進あるいは独自的地域といわれるものを類型化すると,次のようになる.

II.地域リハ支援推進体制の具体例

1.大都市型

大都市周辺で,人口も多く,急性期医療機関は充実しているが,それに比してリハ施設が不足しているという特徴があり,急性期病院,あるいはリハ病院が中心となり,病病連携,病診連携を進めた地域である(大阪,名古屋,特に大阪豊能地区が代表例).典型的には急性期病院主導で,急性期と回復期の病病連携を進めているところが多い.シームレスなリハの実施のために,受け入れる側の入院待機期間,入院不適応とされる条件等の情報公開と,患者情報の共有化のために,患者情報の引き継ぎを様々な形で行っている.都市型のもう一つの特徴は情報のIT(情報技術)化であろう.病院機能の公開は比較的容易だが,患者情報は個人情報保護の問題があるが,動き始めているところもある.
患者情報の共有化は,回復期病院を超えて維持期の介護保険事業にまで及び,維持期リハの連携に進展した所もあるが,各施設での患者像の検討をリレー形式で行う症例検討会などに留まっているところも多い.急性期病院と異なり,維持期の施設や介護支援専門員は数が多く,退院前の合同カンファレンス開催も患者毎にケアマネジャーが異なる場合が多く,各員の時間調整は困難で,ほとんど実施不可能である.また,急性期病院が主導であるところは,介護予防事業などへの協力も二の次とならざるを得ない.今後,行政施策と連動した地域リハのシステム化にまで至ることが期待されている.

2.地域完結型

熊本に代表される地域で,この型の特徴は圏域内の連携の良さと,圏域間でもある程度足並みがそろっていることにある.もともとリハ活動,地域住民への啓蒙も盛んな地域で,さらに地域リハ支援事業開始前から地域リハ協議会に相当する活動があり,構成員もほとんど全ての行政や医療保険福祉関係団体がそろい,県支援センターや広域支援センターへの指示も具体的で実行力がある.また,地域リハ協議会主導で広域支援センターの報告会を行わせるなど,広域支援センター同士が他の施設の活動を見て参考にするなどの工夫がなされている.
この地域のさらなる特徴は介護予防事業を中心とした活動(運動機能向上,口腔ケア,認知症への取り組みなど)を協同で行うことで連携がなされていること,さらにこの活動を地域住民に直接敷衍化することに広域支援センターが中心となって取り組んでいることである.市町村,保健所や老人クラブなどと連携を取り,住民の中に指導者,ボランティアリーダーを養成するなどで活動の敷衍化がなされている.大都市型の連携とは異なり,時系列と言うより,維持期以降,あるいは予防期での横のつながりが今後の地域リハを発展させる上での大きな力になると思われる.
より小さな単位として,尾道方式と呼ばれる,医療を多職種からなる地域のチームで支える形の連携も存在する.

3.広域,点在型

北海道,茨城など,医療資源の偏在化が激しい地域がある.こうした地域では施設,人材が都市部に集中し,多くの地域でリハ医すら存在しない地域があり,少ない人材で効率的に地域リハを推進することが求められている.
研修会向けの講師バンクを作成し,派遣することや,機能訓練事業,介護予防事業も含めて医師,PT,OTを派遣するなど,あるいはテレビシステムを使用し県内数カ所で居ながらにして研修会を受けることができるようにしたり,卒後教育システムを作って,広域支援センターレベルで初任者研修,県支援センターでは中堅職員の人材育成に努め,過疎地域のスタッフが安心して働け,人材の流動性を高めて連携をはかることなどが行われている.

III.今後の課題

広域支援センターの活動報告のそれぞれは,数字にしてしまうと研修会開催が何回,福祉相談が何回などと,どの地域も同じような活動をしているように見える.しかし,実際はかなり地域差,温度差があり,医療からリハへの連携を中心にしているところもあれば,介護予防に関して地域活動を中心としているところもある.それ以前の所もある.地域リハ支援システムといっても,一つのシステムが良いとは限らない.その地域のリハ関連施設や人材,高齢化率,地域の広さなどの社会事情,医療事情を反映させたシステムでないと実効性が薄いと思われる.平成17年度で地域リハ支援体制整備推進事業は終了し,都道府県レベルでの予算化が行われ,広域リハ支援センターは存続することとなった.国の動きは生活習慣病(とりわけメタボリック症候群)の早期発見・早期治療から,特定高齢者の健康推進・予防へと移行し,地域リハ支援事業で構築された連携システムを今後は介護予防に役立てるべきとされているが,介護予防だけが地域リハとはいえない.そもそも地域リハとは何か.障害者全体を包含し,地域の事情を鑑み,何を目指して地域リハシステムを構築するかを明確にしていかなければならない.地域リハ支援体制を第一線で実践しているのはリハ医療関係職種だけではなく,介護保険や自立支援法を駆使して高齢者・障害者に関わっているかかりつけ医,福祉,保険の関係者である.また,どのようなサービスが必要とされるにせよ,高齢者・障害者の自立を支援できる効果的かつ効率的方法は,リハの概念の導入をおいて他にないはずである.従って,どのような段階・地域にあっても,地域リハシステムの構築には障害を多面的に評価し,ノーマライゼーションを実践できるリハ医の参画が求められている.

IV.まとめ

地域リハ支援体制整備推進事業で行われた広域支援センターの活動内容は,大きく大都市型,地域完結型,広域・点在型に分類できる.一つのシステムが優れているのではなく,地域の実情に合わせた効果的,効率的システムが必要であり,その構築のために今後のリハ医療関係者の参画が期待される.