<質問箱>

EBMとは?

評価・用語委員会
豊倉 穣


Q  EBMとは? (大阪 MS)

A EBMはevidence-based medicineの略であり,日本語では「証拠(根拠)に基づく医療」と訳される.もともと医学・科学文献の批判的検証評価法を発展させたものとしてカナダのMcMaster大学で提唱されたものである1).EBMは,従来の医療(治療)が多分に熟練者の「経験」に基づく判断によって行われることへの反省から,さまざまな情報の中から正しい手続きで妥当性のある根拠を見い出し,それに基づいて患者の治療を行うという医療方法の概念を指す2).今日,「患者の知る権利」「インフォームドコンセント」など医療に対する考え方が大きく様変わりしている.このなかで,EBMは医療を科学としてとらえた厳格な診療実践方法であり,全世界で急速に浸透しつつある.

EBMセンターのSackett教授によるとEBMは以下の5つのステップで構成される1)
@情報の必要性を解答可能な質問の形に変換する.
Aそれらの質問に答えるための最良の根拠(診察,検査,文献その他の情報源)を最も能率的な方法で追求する.
B根拠の妥当性や有用性について批判的に検証評価する.
Cこの検証評価の結果を臨床業務に応用する.D実行したことの事後評価を行う.

具体例を示す.ある症例の治療に対していくつかの方法が考えられる場合,まずそれぞれの治療効果やその比較に関する研究成果を種々のデータベースから抽出する(ステップA).次にこれらの情報を,理論的モデルに基づいているか,対照群の設定は適切か,客観的な評価に基づいているか,バイアスはないか,統計手法は正しいか,など多くの視点から批判的に検証し,研究結果の妥当性を吟味する(ステップB).その上で,抽出された「証拠(根拠)」に基づいて実際の治療を行う(ステップC)ものである.

この過程で最も重要なのはステップABであるが,近年のコンピューター通信技術の発展により,多くの情報が手軽に入手できるようになっている.MEDLINEなどはデータベースとして定着しているが,近年,EBMの概念に則って系統的レビューを行ったコクラン共同計画3,4)の成果もCD-ROM化されている.また,このCochrane Libraryを1つの情報源として発展させ,ネットワークで入手可能なOvid社のEBMR(Evidence-Based Medicine Review)(詳細は文献5,またはe-media@usaco.co.jp)も紹介されている.一方,文献の批判的検証の手続きについては実践的なワークブックも出版されているので参照されたい(文献1).

参考文献
1) 野崎定彦・他(訳): EBMワークブック. 医歯薬出版, 1999
2) 里宇明元: EBM(evidence-based medicine). 臨床リハ1999; 8: 1100-1110
3) 津谷喜一郎: コクラン共同計画とは. 医学図書館1996; 43: 119-120
4) 別府宏圀・他: コクラン共同計画資料集. サイエンティスト社, 1997
5) 角田亮子: Ovid evidence-based medicine reviews. 医学図書館1998; 45: 484-486