Q 高次脳機能障害という用語に明確な定義がありますか? (静岡 AK)
A 高次脳機能障害という語は,すでに20年近く前に,リハ専門誌の論文名として現れている.ただし,その場合の対象は,主として脳血管障害に伴う失行・失認・失語・記憶障害などの症候であった.
ところが最近,高次脳機能障害という用語がメディアや行政にも取り上げられている.この場合の症候は,失行・失認なども含まれるが,記憶・注意・集中力の低下と共に,人格変化や情緒・行動の障害が問題とされる.疾病としては,脳外傷,低酸素性脳症,脳炎など,脳損傷部位がびまん性,広範囲に及ぶものが多い.身体障害を合併しない場合,高次脳機能障害は外見から存在が分かりにくいので,保障や医療・福祉サービスの対象となりにくい.これがメディアや行政が注目している理由である.
このように高次脳機能障害は,学術用語としてだけでなく一般用語になりつつあるが,一般用語として定義が定まっているわけではない.
ところで学術的あるいは学際的に,高次脳機能障害に定まった定義があるかというとそうでもない.
鈴木は,高次脳機能を以下のように説明している.人や動物において,感覚系から入力された情報は分析・統合されたのち記憶として脳内に貯蔵される.この貯えられた情報に基づいて行動を計画し,実行する脳の働きが高次脳機能である.これには,知覚,注意,学習記憶,概念形成,推論,判断,言語,および抽象的思考などが含まれる.さらに高次機能を営んでいる脳の構造は,大脳皮質運動野と感覚野間に介在する連合野であると説明している.
一方,高次脳機能障害について,上田らは,全般的障害と部分的障害があるとし,全般的症状のうち脳の急性期侵襲によるものを意識障害,慢性期侵襲によるものを痴呆としている.部分的障害として,失語,失行,失読,記憶障害,注意障害などがあるとしている.
ところで高次脳機能障害は,higher brain dysfunctionに対応する和語と考えられる.しかし上田は,高次脳機能障害に対応する洋語としてhigher cortical dysfunctionを示している.このように高次脳機能に類する和語・洋語には,高次皮質機能,高次神経機能higher neural functionなどがある.これらが同義であるのか,それとも何かの理由があってそれぞれを区別しているのかは明確でない.高次脳機能障害リハと同様の問題を扱っている語に,認知リハcognitive rehabilitation:あるいは神経心理学的リハneuropsychological rehabilitation がある. (神奈川リハ病院 大橋正洋)
参考文献
1) 上田 敏: 高次脳機能障害とリハビリテーション医学. 総合リハ 1983; 11: 605-608
2) 医療ルネッサンス: 読売新聞1999年11月6日, 7日
3) 鈴木寿夫: 序論 高次脳機能の生理学(鈴木寿夫,酒田英夫 編). 新生理科学大系12. 医学書院, 1988; pp1-5
4) 上田 敏,大川弥生 編: リハビリテーション医学大辞典. 医歯薬出版, 1996; p177