<特集:社会福祉に関する諸問題の動向-1>
社会福祉基礎構造改革の背景と概要
日本リハビリテーション医学会 理事 竹内 孝仁
社会福祉基礎構造改革は,1990年代に入って少子高齢化という社会変動を基盤にしつつ,保健・医療・福祉(介護)・年金など21世紀の社会保障制度全体の再構築論議に端を発しているといってよい.この流れの中で1994年に「社会保障将来像委員会第2次報告」が公表され,特に介護問題では保健・医療・福祉を統合し,利用者の選択を重視すると共にサービス主体の多様性,競争原理による質の向上を図ること,社会保険方式の導入などが勧告され,今日の介護保険やここでの主題である社会福祉基礎構造改革(以下,改革)の骨格がつくられた.
この改革の基本理念としては「自立」および「自立支援」を根幹とし,これを実現するための「利用者の立場に立った社会福祉制度」および「福祉サービスの充実」を2本の柱としてさまざまな制度・施策が打ち出されている.
まず「利用者の立場に立った社会福祉制度」としては,@福祉サービスの利用制度化,A利用者の利益保護,B福祉サービスの質の向上を骨子としている.特に「利用制度化」はこれまでの措置(行政が行政処分としてサービスを決定する制度)からの一大転換で,利用者に「選択」と従って「主体性(利用者主体)」を可能とするものである.
「利用者の利益保護」は,高齢社会で介護問題が一般化していることや民間事業者の参入を背景とし,サービスの契約制を確立するためサービス事業者に「契約書の義務付け」を行った.またサービスに伴う苦情を解決するための制度を,具体的には事業者内部あるいは市町村,都道府県社協に委員会を設けるなどとした.これとは別に自己決定能力の低下している痴呆性高齢者などに適切な福祉サービスを保証する「地域福祉権利擁護事業」が設けられ,民法改正で設けられた成年後見制度と共に権利擁護の具体的活動が行われることとなった.
「福祉サービスの質の向上」としては,後述の社会福祉事業法によるサービス供給主体の拡大に伴い,そのサービスの質の向上を図るため,事業者自体の「サービスの自己評価」と共に「第三者評価」の施策が導入された.
もう1つの柱である「福祉サービスの充実」には,従来は厳格な規準・規定が設けられていた「社会福祉事業法」の改正により,@社会福祉事業の範囲の拡大,A社会福祉法人の設立要件の緩和,B社会福祉法人の運用の弾力化,C地域福祉の推進,が図られることとなった.
上記の「社会福祉事業の範囲の拡大」には先の権利擁護事業,手話通訳や盲導犬関連事業など従来は対象とされなかったものが含まれるようになった.また「社会福祉法人の設立要件の緩和」は,小規模事業や保有資産額の引き下げが行われ,「運用の弾力化」では経営の確立を図るため,法人会計の弾力化が容認されるようになった.これらの一連の制度改正は,民間営利企業やNPO法人等のサービスへの参入促進と共に,従来は行政サービスの委託機関として事業・運用・会計などが厳格に規定されていた社会福祉法人の規制緩和を行い,その主体性の尊重と共に他の多様なサービスと事業者の参入を促そうとするものである.
現在のところ,この改革の直接的な影響は介護保険制度,つまり高齢者ケアの領域だが,少し遅れたかたちで障害者の領域にも及んでおり,やがては障害児,精神障害者へと展開していくと考えられる.社会的リハビリテーションは一般にその時代の社会制度・施策と密接な関係があることから今後の推移を見守りつつ必要な提言を行っていく姿勢が必要だろう.
(リハニュース12号:2002年1月15日)