診療報酬改定―その後
リハビリテーション医療の後退を憂う
―診療報酬改定の影響について―

日本リハビリテーション医学会 社会保険等委員会 担当理事
石 田  暉(東海大学医学部リハビリテーション学) 


 今回の診療報酬改定の結果に対し,リハビリテーション(以下,リハ)医療に携わる者は一様に驚きと不満・不安を隠せないでいる.小泉改革の流れ,2.7%の診療報酬削減等の報道から,ある程度の減収は覚悟していた.しかし,中医協の答申に盛り込まれた「早期リハ」「回復期リハ」を評価するという内容に僅かの望みを託していたのも事実である.しかし,フタを開けてみるとその期待は見事に打ち破られ,関連医療機関から報告されるリハのデータは2.7%減どころかその10倍以上の減収はざらという結果になっている.
 我々の大学病院(東海大学)はリハの総合承認施設(PT 16人,OT 6人,ST 3人)をとり,早期からインテンシブなリハを行ってきた.これは急性期病院における1つのモデルとして,厚生労働省が求めている内容に沿ったものとの自負があった.しかし4月以降の診療点数のデータでは,入院で昨年同月比10数%減,外来では40%を超える減収になっている.
 さらに,当院での数字はまだ良い方で,理学療法U単独の施設あるいはVないしWの施設,すなわち理学療法主体の施設の中には50%以上の減収となったものもあると聞いている.


 リハ医療は従来から「不採算部門」と言われ,現場の者として病院(経営)側に対してはいささか肩身の狭い思いを持っている一方で,多くの患者さんからは支持を受け,それを励みに診療を行ってきた経緯がある.この間,ゆっくりではあるが着実に診療報酬面での改善がなされ,それに支えられるように大都市から地方,さらには過疎地にリハの施設が広がり,従来リハの恩恵に浴して来なかった人たちにも,十分ではないが確実にリハは拡がって来た感があった.
 しかし,急性期の医療機関,国公立病院,大学病院(私立を除く)ではまだまだリハスタッフの絶対数は少なく,入院患者に対するスタッフの比は欧米と比べ著しく低下している.この結果として急性期に十分なリハを受けないまま在宅あるいは療養施設へ移る人も少なくないのが現状である.今後急性期病院での入院期間が更に短縮すればこの傾向が加速されることは間違いない.
 また,急性期医療機関からの受皿として前回の診療報酬改定時に作られた回復期リハの整備はまだ十分でなく,学会が行ったアンケート(結果は学会誌リハ医学39巻7号359-361頁に掲載)にも改善に対する数々の要望が寄せられている.急性期病院から,より早期に重症な患者が移った場合の医師を含めたスタッフの充実等早急な対応が求められている. 


 リハ維持期の多くは医療保険の取り扱いではないが,前述のように急性期・回復期で十分なリハがなされない,すなわちリハ前置主義が徹底されないままで介護保険に移行すれば,医療のなかで到達できなかった診療の「つけ」が,ただ単に介護保険に回されるだけになり,社会的コストは一層膨らむ結果になる.
 今回の改定が公表された後にPT, OTの養成校のいくつかで採用のキャンセルがあったと聞いている.公立病院でなんとか増員要求にこぎつけたものが白紙に戻ったり,国公立の大学ではリハスタッフの増員要求がしづらくなったとの訴えがある.また急性期の病院の中には入院期間の短縮傾向により,「どうせ早期に転院するのだからリハよりもっと緊急度,収益性の高いものに投資した方が良い」というふうに考えるものもある.これらの流れは我々がかねてから訴えてきた「良質なリハ」を提供する基盤が揺るぎ始めていることを示し,今回の改定が,欧米に比べて立ち遅れ,更なる充実が求められているリハ医療の発展にブレーキをかけるのは確実である. 


 以上のようなリハ医療の厳しい局面に対し,社会保険等委員会として今後如何なる取り組みをしていくべきかについて幾つかの要点を以下に述べる.
 1) 関連団体(理学療法士協会,作業療法士協会,言語聴覚士協会,義肢装具士協会ほか)と協力して今後改定の影響を様々な視点から捉え,調査を行い,実態を明らかにしていく.
 2) 外保連,内保連を通じて改善を要望する.
 3) 緊急アンケート(会員の所属する医療機関の比率に応じて約400の施設を抽出して行う)を6月中に行い,4〜5月の実績を基にデータを作成し,厚生労働省,日本医師会に要望書を提出する.
アンケートの主な項目として
 (1) 入院あるいは外来リハの減収内容
 (2) 療法士の1日あたりの単位数の上限設定の影響
 (3) 早期加算対象疾患の範囲拡大
 (4) 療養型病棟機能訓練の包括化の影響
 (5) 実施計画表の妥当性
 (6) 今後のリハ医療への影響
 (7) その他
等を予定している. 


 最後に,言語聴覚療法料の増額,作業療法の早期介入が可能,特定な疾患では合計2時間(6単位:米国の3時間ルールに近づく)まで可能など一部評価できる点は存在するが,それ以上に減額の割合が多く,殆どの医療機関ではコメディカルの人件費すらカバーできない状態となっている1).リハは「おもて」に現われた診療点数だけでなく,入院期間の短縮,患者の満足度,QOLの向上等目に見えない貢献をしている.しかし,病院(経営)サイドの評価は残念ながら「おもて」に出た数字がすべてであり,昨今の厳しい医療情勢からは,収支均衡あるいはいくらかでも収益性が示されなければリハの増員や施設の充実化にはつながらない.そればかりか採算性が悪いという理由で切り捨てや縮小化が行われないとも限らない.そういう意味で今回の改定は時代の流れに逆行し,ようやく一人立ちできそうに見えたリハに対し,その発展に水を差すものになったことは否めない.
 会員の先生方からの率直なご意見を当委員会に頂ければ幸いと考える. 


1) 椎野泰明: 急性期病院における診療報酬改定の影響. 臨床リハ2002; 11(6): 526-631
(リハニュース14号:2002年7月15日)