特集:卒前・卒後教育
医学部卒前教育改革について

慶應義塾大学月が瀬リハビリテーションセンター 木村 彰男


 医学部卒前教育の改革としては,モデル・コア・カリキュラムの制定,共用試験(CBT)の導入の大きく2つのことが挙げられる.これらは卒後教育におけるスーパーローテートと連係して位置付けられており,一連の医学教育の基礎をなす部分と言える.

 1. モデル・コア・カリキュラム
 平成11年の「医学・医療の社会的ニーズの多様化に伴い,さまざまな人材の育成が必要となり,そのためには精選された基本的内容を重点的に履修させるコア・カリキュラムを確立させ,学生が主体的に選択履修できる科目を拡充・多様化することが必要である」という21世紀医学・医療懇談会第4次報告を受けて,モデル・コア・カリキュラム作成作業が開始された.その結果,平成13年3月に「医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告書に,「医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン―」が収録され,公表されるにいたった.当初の段階ではモデル・コア・カリキュラムにはリハ医学はほとんど含まれておらず,米本恭三前理事長のご尽力により,同カリキュラムにリハ医学が取り上げられることとなったことは特筆に値すると言えよう.
 このガイドラインでは,リハ医学は「診療の基本」のうちの「基本的診療知識」の一項目として,臨床検査,麻酔,介護と在宅医療,緩和医療などと同列に扱われている.その詳細は表1に示すとおりであるが,リハの基本を学ぶということを一般目標として,その到達目標としては具体的に7つの総論的な項目が挙げられている.リハ関連の各種疾患については,「人体各器官の正常構造と機能,病態,診断,治療」の中で,例えば表2に示すように脳血管障害におけるリハに対する理解の必要性が言及されている.同様に,頭部外傷,脳性麻痺,脊髄損傷,骨・関節疾患,慢性関節リウマチの各疾患においては,リハについて触れられているが,脊髄小脳変性症,末梢神経疾患を始め,リハの対象疾患の重要なものの幾つかが欠けていることは残念である.一方,リハ医学の性格上,関連する他の領域でリハの必修分野に関する項目を見い出すことができる.すなわち,ROMやMMT,四肢の解剖,筋電図,言語障害,チーム医療,問題志向型診療録(POMR)については,運動器系や神経系をはじめとするそれぞれの分野で取り上げられており,全体的にはかなりのリハ医学の領域がカバーされている.
 リハ医学に関するモデル・コア・カリキュラムで気掛かりな点は,具体的目標の多くが学部の早い時期ではなく卒業時までの到達目標として位置付けられている点である.確かにPT, OTなどは実際の臨床実習で学ぶほうが効果的であるが,障害の3相などの基本的事項も卒業時までの到達目標となっており,このような点に関しては将来的な検討が必要と思われる.

 2. 共用試験(CBT)
 モデル・コア・カリキュラムの制定に伴い,これを基に平成16年度より学生が臨床実習を始める前に実施する共用試験の導入が図られ,既に昨年度よりトライアルが開始されている.実質的に国家試験を2回実施することになるなどの批判もあるが,その運用は現段階では各大学に任せられている.実際の試験は各受験者がコンピューターの端末により,プールされた問題より受ける形で実施される.したがって受験者により問題が異なり,より客観化した試験の実施が可能となるが,問題の難度の統一など解決すべき課題も残っている.
 現時点で考えられる共用試験のリハ医学からの問題点としては,出題範囲の問題がもっとも重要と思われる.すなわちモデル・コア・カリキュラムにおけるリハ医学の各到達目標の多くが既述のごとく,臨床実習の時期に位置付けられているために,果たして臨床実習開始前に予定されている共用試験の出題範囲として,どれだけの項目が馴染むかという問題である.実際の各大学におけるカリキュラムには差があり,国公立と私学におけるリハ医学教育の内容や時間数の差も,共用試験の実施にあたっては問題になると思われる.
 その他の共用試験については,客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination: OSCE)の実施の問題なども挙げられるが,今回は省略する.
 以上,モデル・コア・カリキュラムと共用試験を中心に言及したが,日本リハ医学会としてもこれらの教育改革の流れにおけるリハ医学教育の問題点を把握し,各大学と連携を密にしての適切な対応が望まれる.

表1 モデル・コア・カリキュラムにおけるリハビリテーション

リハビリテーション
●一般目標:リハビリテーションの基本を学ぶ.
●到達目標:
1)  リハビリテーションの概念と適応を説明できる.
2)  リハビリテーションチームの構成を理解し,医師の役割を説明できる.
3)  福祉・介護との連携におけるリハビリテーションの役割を説明できる.
4)  障害を機能障害,能力低下,社会的不利に分けて説明できる.
5)  日常生活動作(ADL)の評価ができる.
6)  理学療法,作業療法と言語療法を概説できる.
7)  主な歩行補助具,車椅子,義肢と装具を概説できる.

△印のついたものは卒業時までの到達目標


表2 モデル・コア・カリキュラムにおける脳・脊髄血管障害

脳・脊髄血管障害
●到達目標:
1) 脳血管障害(脳梗塞,脳内出血,くも膜下出血)の病態,症候と診断を説明できる.
2)  一過性脳虚血発作の病態を概説できる.
△  3) 脳血管障害の治療とリハビリテーションを概説できる.
4)  脊髄血管障害を概説できる.

△印のついたものは卒業時までの到達目標


(リハニュース16号:2003年1月15日)