<特集◎リハビリテーション医療をとりまく保険制度の動向>
最近の医療保険の動向―DPC(診断群分類)導入とリハビリテーション医療の変化―
社会保険等委員会 担当理事 石 田 暉
本年4月より(準備が間に合わない施設は7月導入まで猶予される)特定機能病院を対象にDPC(diagnosis procedure combination)が実施されている.これは米国を中心に行われている診断群類別支払い方式(DRG/PPS)の日本版にあたるもので,後者が1回入院あたり(per admission)の包括化に対し,DPCは1日あたり(per day)の包括化と内容はいくらか異なるが,急性期医療の一部に包括化の流れが入ってきたことには違いなく,わが国の医療保険制度における一大変化といっても差し支えない.来年以降,特定機能病院から大学病院の分院,地域中核病院へと対象が拡大されると急性期医療全般に影響が生じてくることは間違いない.このDPCの導入によりリハビリテーション(以下,リハ)医療に幾つかの変化が生じることが予想され,それぞれに対していかなる対応をすべきかについて私見を述べたいと思う.
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まず第1は,今回導入されたDPCでは疾患ごとに決められる診断群分類係数があるが,これに施設ごとに異なる係数(医療機関別係数)を掛けて診療報酬が決められることである.この係数が大きいほど同一疾患でも施設に支払われる報酬が大きいことになる.この係数を決めるにあたって考慮されるのは,在院日数,紹介率,重症患者の受け入れ実績,救急患者の受け入れ実績,その他地域医療との連携の実績などである.当然係数を大きくするために,在院日数を短縮したり,紹介率を上げるなど努力がなされる.中でも在院日数短縮が最も係数上昇に強く反映するとして,各病院において(特に私立大学で)一層の在院日数短縮競争が始まることは間違いない.リハにおいては一人の患者の入院日数が短くなれば単純にリハ施行日数は減少し,1入院当たりのリハの効果は減少することになる.しかし,DPCではリハは包括化の枠外で出来高払いとなっており,より治療効果を高める目的や在院期間の短縮で得られた余力が早期患者に振り分けられることになり,各疾患(特に急性期加算のある疾患)の早期リハがさらに加速することが予想される.そのため各種疾患におけるリハが組み込まれたクリニカルパスの作成や早期リハに対応するシステム作りが必要になってくる.
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第2の変化は診療報酬の査定が厳しくなることである.包括化により検査,投薬,画像診断など従来査定の対象とされていたものが対象でなくなり,数少ない出来高であるリハ料の査定に精力が費やされることが予想される.現在でも査定の基準が曖昧でルール通りにリハを施行しても査定される状況から,早急の対応策が求められる.リハ対象疾患それぞれにしっかりとしたリハ治療ガイドラインを作成し,標準化のもとで査定に主観が入らないような対策が求められる.それには今回本学会に設立された「ガイドライン委員会」における各種疾患のガイドライン作成と社会保険等委員会との協業および行政への働き掛けなどにより一切査定の余地が生じない土台を作り上げていく必要がある.
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第3の変化として,米国でDRG/PPS導入後に起こったことであるが,在院日数の短縮が後方病院としての亜急性期病院,リハ病院の需要を掘り起こすことである.米国ではリハ病院のベッド数を増やす前にDRG/PPSにより急性期病院の入院を短縮したため,一時転院先を見つけることが著しく困難な時期があった.厚生労働省はそれを知ってかどうか,まずリハの受皿をしっかり作ってから急性期病院の在院日数の短縮を図ろうとしている.そのため回復期リハには現在いくらかの診療報酬上のインセンティブが与えられ,すでに回復期リハの設立ラッシュが始まっている.急性期病院の包括化が進めば在院日数短縮の圧力から回復期リハ病棟の需要はますます増えるものと思われる.回復期病棟といえども急性期を脱していない患者を受け入れる必要があり,プライマリーケアの心得があるリハ医および看護師の確保が求められる.リハ医学会としても卒後研修の中でそれらに対応できるカリキュラムを組み入れていく必要がある.さらにこの8月の一般病院と慢性期病院の選択の中で中間の存在として駆け込み寺のように回復期リハ病棟が作られ,中にはリハの理念には程遠いものがあり,今後どのようにこれらの質を高め,維持していくかについても学会として真剣に考えていかなければならない.一つの方策として第3者機関による調査を含めた治療内容への積極的な介入についても検討を始めるべき時期にきていると思われる.
(リハニュース18号:2003年7月15日)