<質問箱>
<評価・用語委員会>
入院患者の筋力増強訓練
Q スポーツ医学などの本には「筋力トレーニングは、筋の破壊や再生の時間を考慮すると、連日行うよりも隔日に行うほうが効果的」と記載されているものが多いのですが、入院患者の筋力増強訓練も隔日で行ったほうがよいのでしょうか。
A 筋力強化を中心としたリハビリテーションは筋力、筋持久力、体力すべての改善を目標とします。今回の質問はこれらの中の筋力に注目した質問と考えますので、現時点では以下のように考えるのが妥当のようです。
筋力強化はやや強めの力学的負荷(4〜10RM*程度)をかけることにより得られます1)。一方、弱めの負荷を長時間かけることで筋持久力がつきます。現在まで人を対象とした多くの実験で筋力増強に関して様々な報告がなされていますが、総じて週2、3日程度の運動が効果的で、連日行うことはかえってマイナスとされています2)。実際に強い筋力強化運動を行うと、翌日は最大筋力が低下し、翌々日に筋力が強くなります(超回復といわれます)。筋肉は生きている組織ですから、常にその構成要素は分解と再生を繰り返しており、適度な運動後は筋肉内のアクチン、ミオシンなどのタンパク質合成が分解を上回り、増加します。タンパク質合成はトレーニング後、3時間後にピークとなり、その後48時間にわたってゆっくりと低下します3)。しかしトレーニング翌日に続けて運動を行うと、このタンパク質合成にどのような影響があるのか、実際にはよくわかっていません。また筋力増強には筋細胞の増加も関与しており4)、筋鞘膜と基底膜の間に存在する筋衛星細胞の分裂によるとされています。さらにこの細胞は筋細胞の壊死が起こるような強い運動後に、筋細胞の再生に大きな役割を果たし、筋力強化にもつながります。衛星細胞は筋細胞の壊死後24時間目ころから分裂を開始し、1カ月以内に再生が完了します。この機序による筋力増強と休息との関係もまだ明らかではありません。しかし実際に人を対象とした効果的な筋力増強に休息が必要なことは、多くの実験から確かなようです。
さてリハの現場を考えてみると、実際に患者さんに与えられる負荷量がこの4〜10RMという水準には達していないことが多いと考えられます。また、筋力強化が必要な筋すべてに適度な負荷をかけているともいえません。さらに、筋力は等尺性なら等尺性、等張性なら等張性、ある関節角度での運動なら、その関節角度近辺の運動時の筋力が強化されるという特徴もあり、スポーツ選手が、時間をかけ、様々なメニューで筋力強化運動を行ったとき、初めて翌日の休息が必須になると考えられます。これらのことを考慮すると、患者さんを対象としたリハでは実際上、隔日で行うべき状態とはいえないことが多いでしょう。運動療法を行った翌日、筋疲労により同じ運動量がこなせない状態の時は、その筋の休息が必要と考えてよいようですが、それでも前日、十分な負荷をかけて筋力強化が行われなかった筋の運動を行うことは効果があります。
*RM: repetition maximum の略。ある重さを何回まで反復して持ち上げることができるかということで、1RMとは1回のみ持ち上げることができる最大の重さ)
文献
1) McDonagh MJN, et al: Eur J Appl Physiol 1984; 52: 139-155
2) Feigenbaum MS, et al: Med Sci Sports Exerc 1999; 31: 38-45
3) Phillips SM, et al: Am J Physiol 1977; 273: E99-107
4)Salleo A, et al: Med Sci Sports Exerc 1980; 12: 268-273
(評価・用語委員会 森田定雄)
(リハニュース20号:2004年1月15日)