<質問箱>

?? 質 問 箱 !! ポストポリオ症候群の呼称について


 Q ポストポリオ症候群は日本語ではポリオ後症候群,ポリオ後遺症など色々な呼称があるようですが,どれが正しく,どのような状態をさすのでしょうか.


 A  1950年代のポリオ大流行世代が1980年代に二次障害(罹患後機能が回復し,一定期間の安定期の後,運動系,感覚系などに急激な増悪を生じる)に直面するようになって,Post Polio Syndrome(PPS)として概念化された.1980年以降,欧米を中心に臨床医学的研究,疫学研究が行われ,PPSの成因としては,免疫による細胞変性,部分的に回復した運動ニューロンの老化,神経再支配を受けた筋線維の脱神経など,機能的要因としては生活に起因した筋肉のover useやdisuse,misuse,加齢の影響など複合的影響が原因と考えられている.
 PPSの日本語訳は「ポリオ後症候群」と訳され一般的に使われているが,ポリオ後遺症や進行する筋萎縮に限定した場合には「ポリオ後進行性筋萎縮症(post-poliomyelitis progressive muscular atrophy)」,ポリオが原因で生じた新たな健康状態を「late effects of polio」と呼ぶこともある.
 PPSの症状としては筋力の低下や筋肉の萎縮,筋肉痛,関節痛,四肢のしびれや冷感,腰痛,異常な疲れやすさなどがみられる.筋力低下に伴ってあるいは先だって筋線維に攣縮がみられることもある.しかしポリオ罹患者すべてにPPSが発症するものではない.PPSの症状はポリオ罹患肢に現れることが多いが,非罹患肢にみられることもある.筋力低下や筋萎縮はしばらく進行するが,数か月から数年の間に進行は停止し,かなり回復することもある.厚生科学研究(脊髄神経障害性運動麻痺のリハビリテーション技術の開発研究)によると,PPSは,発症後40年を経過した頃から急激に増加し,社会参加阻害の要因となっており,自律神経障害との関連があると考察している.

Halsteadらの診断基準
1. 麻痺性ポリオの確実な既往
2. 部分的あるいはほぼ完全な機能的,神経学的回復
3. 少なくとも15年間の機能的,神経学的安定期間
4. 安定期間を経過した後に,以下に挙げる健康上の問題が2つ以上発生.
・普通でない疲労・関節痛・筋肉痛・麻痺側または非麻痺側の新たな筋力低下
・機能低下・寒さに対する耐性低下・新たな筋萎縮
5. これらの問題が,内科的,整形外科的,神経学的な原因では説明がつかない.

文献

1) 地域における三次予防の技術開発にむけた後天性脊髄性運動麻痺の疫学研究 平成13年度〜平成14年度科学研究費補助金基盤研究(C)(2)研究成果報告書(研究代表者:熊倉伸宏)
2) Halstead LS,Rossi CD: Post-polio syndrome: clinical experience with 132 consecutive out-patients. Birth Defect 1987; 23:13-26
3) 花山耕三:ポリオ後症候群−障害像とリハビリテーション−.リハ医学2003;40: 771-779
(評価・用語委員 朝貝芳美)
(リハニュース22号:2004年7月15日)