近年、診療ガイドライン(GL)策定の動きが加速している。この背景には、情報へのアクセスの飛躍的改善、国際標準追究の機運、説明と同意のための客観的情報へのニーズの高まり、経済情勢の変化に伴う効率的医療への指向などがあると考えられる。GLの目的は、ヘルスケアの改善、臨床の均質化、医療資源利用の最適化、臨床家への最新知識の提供と科学的証拠の活用の促進にある。リハ医学会においても、国民の健康および医療経済に与える影響が大きい脳卒中に関し、関連学会(脳卒中学会、神経治療学会、神経学会、脳外科学会)と共同して、2002年11月よりGLの策定に取り組み、2004年3月に脳卒中治療ガイドライン2004が出版された。策定作業は、日本の現状を踏まえつつ、現時点で利用可能な最良の科学的証拠に基づきGLを策定するという方針に基づき、以下のプロセスで進められた。
1. 臨床的問題の選択:GLに盛り込むべき臨床的問題を内外の教科書や総説、AHCPR Post-stroke Rehabilitation Guidelineなどを参考に選択し、項目立てを行った(
表1)。
表1 ガイドラインの項目 |
リハの流れ |
主な障害・問題点のリハ |
リハの体制 |
運動障害 |
評価 |
歩行障害 |
予後予測 |
上肢機能障害 |
急性期 |
痙縮 |
病型別リハの進め方 |
片麻痺の肩 |
回復期リハ |
中枢性疼痛 |
維持期リハ |
中枢性疼痛 |
患者・家族教育 |
嚥下障害 |
|
排尿障害 |
言語障害 |
認知障害 |
体力低下 |
骨粗鬆症 |
抑うつ状態 |
2. 証拠の収集:文献はすべてEndNoteで管理し、さらにそれをFileMakerProで作成した作業用データベースに取り込み、作業結果を蓄積・共有化した。まず、Cochrane系統的レビュー、PEDro登録のランダム化比較試験(RCT)、MEDLINEおよび医中誌検索分をデータベース化し、臨床的問題ごとに分類した。それをもとに専門医の協力を得て、漏れている研究や新たな研究を収集した。
3. 証拠のレベル分け:収集した文献を研究デザイン、統計手法、結果のバイアス、交絡因子の有無などの観点から批判的に吟味し、合同委員会基準(
表2)に従い、証拠のレベル分けを行った。
表2 エビデンスレベルの分類
(脳卒中合同ガイドライン委員会2001) |
Ia |
RCTのメタアナリシス(RCTの結果がほぼ一致) |
Ib |
少なくとも一つのRCT |
IIa |
少なくとも一つの良くデザインされた比較研究 (非ランダム化) |
IIb |
少なくとも一つの良くデザインされた準実験的研究
(コホート研究、ケースコントロール研究等) |
III |
少なくとも一つの良くデザインされた非実験的記述研究(比較・相関・症例研究) |
IV |
専門家の報告・意見・経験 |
4. エビデンステーブルの作成:書誌的事項、対象、介入、エンドポイント、結果、証拠のレベルからなる一覧表を作成した。
5. 推奨の作成:証拠のレベル、臨床的意義、日本での適用可能性などを考慮して、各臨床的問題に関して推奨グレード(
表3)を明記した推奨を作成した。一例を
表4に示す。
表3 推奨グレードの分類
(脳卒中合同ガイドライン委員会2001) |
A |
行うよう強く勧められる
(少なくとも1つのレベルIの結果) |
B |
行うよう勧められる
(少なくとも1つのレベルIIの結果) |
C1 |
行うことを考慮しても良いが、十分な科学的根拠
がない |
C2 |
科学的根拠がないので、勧められない |
D |
行わないよう勧められる |
表4 推奨の一例
−運動障害に対するリハビリテーション−(一部を抜粋) |
【推奨】 |
− |
患者層や評価時期によって効果が異なるが、機能障害および能力低下の回復をより促進するためにリハビリテーションの量を増やし、集中して行うことが勧められる (グレードB)。 |
【エビデンス】 |
− |
9件のRCT2-4)をもとにしたMeta-analysisにより、訓練強度を増すことにより、ADLおよび麻痺などの機能障害に関し、わずかではあるが、有意な訓練効果が認められている( I a)。 |
− |
2)Sivenius J et al. The significance of intensity of rehabilitation of stroke - a controlled trial. Stroke 1985; 166: 928-31 |
※
今回、策定されたGLを現場からのフィードバックおよび新たな証拠の追加を踏まえ、定期的に改訂していく必要がある。さらに、良質な証拠自体が不足しており、証拠を創出するための多施設共同研究の推進が不可欠である。また、今回の作業で蓄積されたノウハウを生かし、他の疾患・障害のGL策定にも学会が先導的に取り組むことが急務であり、診療ガイドライン委員会に課せられた責任は大きい。今後のGL策定作業に向け、学会員各位の力強いご支援を心からお願い申し上げる次第である。(委員長 里宇明元)
(リハニュース24号:2005年1月15日)