<特集:リハビリテーション科専門医の開業−現状と未来−>
広島市
はたのリハビリ整形外科
畑野栄治
午前 9 時から午後 6 時30分頃までの毎日の外来診察終了後に顔面を触ると患者さんの唾液がベットリと付着しています。この顔で入院患者さんの回診が終了するのが午後8時30分頃になります。開業が成功している証です。原稿締切日が過ぎたと催促されてからの私は、3月16日広島転倒予防研究会の幹事会、17日介護保険主治医研修会と区地域保健・医療・福祉推進連絡協議会、18日県介護実習普及センター運営委員会と県在宅介護支援センター協議会総会、19日社会保険支払い基金審査会、20日地区救急当番医、21日NPO在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク
in 広島の実行委員会、22日区地域保健対策協議会地域リハビリ専門委員会による『介護予防』冊子作成編集委員会などと地域の医療・保健・福祉分野に関連する会議が続いていました。原稿遅れの言い訳を述べたわけではありません。地域でリハ活動をしていると、このように幅広い分野と連携せざるを得ません。大学在職中よりも広く社会に向けて羽ばたいている感じがします。
開業にまつわる苦労
開業当初は当面の費用3億円を融資してくれる金融機関の確保に苦労をしました。当時はまだリハに対しての理解が少なかったので融資担当者を食事に接待して、開業目的を説明し、また高齢化社会を迎えるので経営的にも黒字になることを同伴した公認会計士に確約していただきやっと融資を引き受けてもらいました。1992年に19床の有床診療所として開業するや、クリニック院長でありかつ「福祉の区」の実現を誓約している市議会議員までが、デイケア開設に対して『患者さんを自動車で送迎して奪い取る』と大反対されました。また、その
2 年後の訪問看護ステーション開設時には、地区医師会長から 6 カ月も開設の延期を強いられ、『要援護者の医療と介護の駆け込み寺』を目指す当法人の理念は医師会とは相容れないと思いました(現在は変わってきていますが)。
病院勤務医との違い
大学リハ部にはリハ病棟がなかったので主導権は他科の主治医が握っており自分の思うような治療ができない、重責感(ノイエスを求められる研究、後継者を育成するなど)などから精神的ストレスとコンプレックスがありました。現在は、地域リハ活動の戦略や戦術も自分自身が思い描いているように実践できる醍醐味があります。また、大学在職当時に論文を書く際には恥をかかないように学術用語を駆使した内容を心がけていましたが、現在はこの原稿のように自分が実践していることを自分の言葉で自由に表現できる気楽さがあります。大学あるいは行政勤務なら上医(政策に影響を与えるような医師)になれる可能性があります。しかし、開業すると上医にはなれなくても、リハを専門にしているおかげで下医(病気だけを治癒する)になることなく、現在必要とされている中医(病気により障害されている生活機能の向上を目指す)には容易になれます。『楽しむ者に如かず』の孔子の言葉にもあるように、要援護者の生活機能の向上や社会参加促進のための維持期リハ・生活適応期リハは、患者さんの喜怒哀楽の生活状況が見えるだけに、生活状況が見えなかった大学時代よりは楽しみがあります。
日々診療活動の喜び
多くの外来患者さんが待っておられる中で、チョット顔だけを診察室にのぞかせて『先生の顔を見るだけで元気がでるのです』と帰宅されるような患者さんからの言葉に元気づけられます。ヨン様とは著しく異なる私ですが、一目見るだけで安心すると言ってくださる人生の大先輩がおられることはありがたいことです。
今後の明るい未来
現在の高齢者は人に迷惑をかけることに対してことのほか躊躇される傾向があり、そのためにリハを行って何としてでも自立したいという意欲があります。リハ科専門医認定証を待合室に掲示しているだけで、診療所の屋上に巨大な看板を掲げているのと同じような効果があると思います。リハは正に時代のニーズに即したサービスであり、来年の介護保険制度見直しにおいては、廃用症候群などの介護予防に対しての高齢者筋力向上トレーニング事業(私は生活機能・活動の向上という言葉が好きですが)などリハ専門家の出番は多くなると思います。
これから団塊の世代が高齢化社会に突入し、リハ前置主義の介護保険サービスはますますニーズが高まります。また、現在は支援費制度下の福祉サービスは近い将来確実に介護保険に包括されます。そこで、私は本年
5 月から身体障害者療護施設開設工事に着手します。建築物を街のシンボルにするために直径
2 mの大きな時計をつけます。従来のリハは主としてADLの改善ばかりにとらわれていましたが、よくよく考えてみると一日の内でADLに使う時間はたかだか
2 時間以下です。その他の時間は、テレビを見る、読書をする、散歩をする、友人と団らんする、街に買い物に出るなどの生活活動に費やされています。そこで、日常生活活動の充実や社会参加促進に焦点を当てたリハサービスを展開することにより、要援護者の自己実現やQOL向上の究極的なリハの目標にアプローチしてみたいと思っています。
(リハニュース25号:2005年4月15日)