<特集:リハビリテーション科専門医の開業−現状と未来−>

栃木県大田原市 
だいなリハビリクリニック

近藤 健


 私の開業してからの7年間の経験、試行錯誤を出来るだけ具体的に書きます。自分の行っていることが結果的にリハ科専門医の生きるモデルとなって欲しいと思いますが、その確信はありませんし、ただ、医療・介護保険制度の中で精一杯、大いなる那須の大地で自分の出来ることを実践したいと思っています。当法人のホームページhttp://dyna.gotdns.com/も参考にしてください。

開業をなぜ決意したのか?

 私の出身は大分県で、1985 年に慶応大学医学部を卒業し、リハ科に入局し旧国立塩原温泉病院に 5 年間ほど勤務していた関連で、その近くの栃木県北部の大田原市に 1998 年 5 月に開業しました。開業の決意をすることが何よりの律速段階でした。長期的なビジョンを持ち大志を抱いて開業したというより、極めて個人的な理由が大きく、開業によってリハ科専門医である妻と 2 人で 4 人の子育てをしながら、なんとかリハ専門性を活かせればいいなと思っていました。

経営的に成り立つのか?

 開業時の自己資金が約 1000 万円しかなく、最初は在宅医療専門で開業も考えましたが、大田原赤十字病院(550 床)の近くの廃業した築 35 年の内科診療所を月 35 万円で賃借することができ、両親(小さな開拓農家)から 2000 万円を借り、内部を改装し、PTを1人雇用し理学療法 III (45 m2)の施設基準をとり開業しました。開業してすぐに外来患者は1日 30 人程度になり、順調に増加するかと思いましたが、全く期待はずれでした。また、理学療法 III での外来リハではPTの人件費にもなりませんでした。しかし、訪問診療は患者が確実に増えて、訪問リハ、訪問看護なども行い診療報酬が高く経営的には軌道に乗り、2年目には5000万円以上の収益となりました。医師 2 人で、夜も昼も 365 日拘束され、深夜も往診し、経営上のリスクを負って稼いだものですから。これが多いか少ないかは読者の判断に任せます。 2000 年は介護保険が始まった年で、介護保険事業を行うために医療法人を設立し、空き倉庫を賃借し、デイケア(通所リハ)、居宅介護支援事業所、訪問介護事業所、訪問看護事業所を開始し、2003年6月に入院 19 床と 12 床の短期入所生活介護(ショートステイ)のリハ専門の有床診療所を開設し、2004 年にバブル期に倒産したマンション(部屋数55戸)を競売にて購入し、1階にデイサービスを開設し、高齢者に入居していただき住居、医療、介護サービスを提供する事業も開始しました。 リハ専門の有床診療所では、土曜日曜、祝祭日も休まずリハを行っていますが1人1日当たりの診療報酬の平均は 18,000 円程度です。診療も看護もリハも薬も処方も必要ない介護保険のショートステイでも1ベッド1日 15,000 円程度の収入で、差がほとんどない状況です。悪くいえば患者囲い込み、よく言えば退院後も一貫した介護保険サービス提供を見込まなければ残念ながら単独では経営は成り立ちません。診療報酬点数が上がり有床診療所単独で経営が成り立ち、有床診療所での入院リハが普及するようになってほしいと願うばかりです。 現在は、医療法人の全従業員が 100 人を越え、昨年度の収入は、約 4億6千万円で利益が約 5000 万円ほどです。介護保険による収入が医療保険による収入より大きくなっています。しかし、借入金 4 億円ほどの返済もあり、将来診療報酬、介護報酬の改定で突然 10%以上減ることも十分にあり得ますので安穏としてはいられないのが現状です。

リハ専門性を活かせるか、やりがいはあるのか?

 小さいながら有床診療所で回復期のリハ患者を引き受け、在宅リハ、在宅生活、在宅介護へつなげ、看取りまでの総合的な医療、介護サービスを地域に密着して自前で提供できるシステムができつつあります。開設から昨年12月までの1年7カ月間に当院に退院した患者について調査した結果は、延べ人数は 226、平均年齢 77.4、平均入院日数 40.6、疾患別では、骨折・整形外科的術後 84、脳血管疾患 64、内科的疾患 27、入院後廃用 22、自宅療養廃用 19、腰痛膝痛など 5、頭部外傷 5 でした。入院元は、大田原赤十字病院 154、自宅 65、その他の医療機関 7、退院先は自宅 198、他の医療機関 13、老人保健施設 5、その他 10 でした。入院時と退院時 ADL の FIM は、入院時平均 81.5、退院時平均 96.8 でした。回復期リハ病棟に負けないリハを行っていると自負しています。 数カ月間寝たきりで、訪問診療、訪問リハ、訪問看護で徐々にADLを改善し、デイケアを利用できるようにした患者が何人もいます。年に 10 人ほど在宅で看取っていますが、癌の末期や看取り直前までリハを行ったこともあります。患者にとってのゴールは医療提供者側が設定した退院時のADLではなく、看取ったときが患者のゴールだと思っています。そのゴールまでADL、QOLを高めることに貢献でき、やりがいは十分あります。介護保険にも今以上にリハの理念を導入すれば社会貢献できることがたくさんあります。ことばで大衆を啓蒙するリハ医も、リハ医学発展のための研究するリハ医も必要ですが、地域に密着しきめ細やかにリハを実践するリハ開業医が必要です。今後20数年間は日本の老人が増え続けます。鍬を手にとって泥にまみれてリハ科専門医が開拓すべき大原野が、眼前に遥かに広がっているのが私には見えます。
(リハニュース25号:2005年4月15日)