<特集:リハビリテーション科専門医の開業−現状と未来−>
神奈川県横浜市
綱島鈴木クリニック
鈴木明子
整形外科開業と連携して
横浜市港北区に『綱島鈴木クリニック』を開業して 6 年半になりました。横浜市立大学リハ科医師同門会で開業したのは私が第1号でしたので、今回の原稿依頼となったのだと思います。現在クリニックは整形外科医の主人のものとなり(?)、私の外来は週に 1 回のみです。その他の仕事としては週 3 回の地域療育センターでの小児リハ科外来、年 20 回ほどの横浜市立養護学校のリハ科検診をさせていただいております。かなり変則勤務の非常勤医です。
私がこのような勤務形態にたどりついた最大の要因は、子育ての事情にありました。私は一男一女の母親ですが、長男は自閉症です。彼が診断を受け、専門的療育が必要となってから、私なりに仕事を、しかも生意気ですがリハ科専門医としての仕事を続けられる方法を模索してきたように思います。横浜という土地柄にも助けられ、自分に興味のある小児リハ科の非常勤の外来や養護学校のリハ科検診の口があったことも幸せでした。
クリニック全体でみると、主な患者さんは、腰痛・膝関節痛などの骨関節疾患ですが、それでも一般の整形外科開業医と比べ、重度障害による福祉医療での受診がかなり多いと思います。クリニックの設計に際しては、駐車場、車椅子でのアクセスや、待合室、トイレなどのバリアフリー化に工夫したつもりですので、ハード面を評価して来院してくださる患者さんもたくさんいらっしゃいます。
クリニックでの週 1 回の私の外来は、ほとんどが障害者手帳を持っている患者さんですが、受診される方のパターンは大きく
3 つのグループに分けられます。すなわち、[1] クリニックがリハ科主治医となっている場合、[2]
別にリハ科主治医はあるが、リハ科のセカンドオピニオン、または装具作製や診断書など特定の要望のために来院する場合、[3]
障害をもつ患者さんが外傷や内科疾患で来院する場合で、[3] には往診の希望も多く含まれます。
理学療法士はおりませんので、訓練を処方することはなく、診察と情報提供のみですが、簡単な機能評価すらも受けるチャンスのなかった方も多く、[1] の場合ではその後ずっと当クリニックがリハ科主治医として継続診療を行っています。
[2] の場合は、大病院ほど待たずに診療を受けられる、診察時間帯の融通がきくなどの点が患者さんにメリットが大きいようです。土曜日しか来院できない患者さんやご家族は決して少なくありませんし、予定通りに受診できる方も限られていますから、外来は予約なしでいつでも受け付ける態勢をとっております。補装具の業者さんは毎週きてくださるので、込み入ったものでなければ作製可能ですし、主人も横浜市大リハ科の研修をしておりますので、彼の外来日でも身体機能障害に関する診療は可能です。
[3] の場合は、残念なことに、障害をもつ人のちょっとした外傷の治療などが、他の開業医で断られたというケースを耳にします(卒前教育の不足でしょうか)。念のためにレントゲンを撮るだけなのに、遠くの主治医まで車を走らせなければならなかったとか、知的障害をもっていて待ち時間に騒いでしまう、あるいは医療行為が受けにくいということから、病院への受診を躊躇していた患者さんの来院も増えています。待合室ではいろいろな騒動も起こりますが、今では職員も、来院されている他の患者さんも騒動に慣れてきています。私自身も長男の経験があり、他人事ではありませんので、この分野はこれからもずっと取り組んでいきたいと考えています。
身体障害をもつとリハ科のある大きな病院にしかかかれないというのでは患者さんに負担を強いるだけになってしまいます。患者さんが、様々な選択肢の中から自身の判断でかかりつけのリハ科医を選べる環境が早く整って欲しいと思います。
幸い当院では、横浜市総合リハビリテーションセンターの医師やケースワーカーから、また区役所の保険福祉担当者からもリハ科専門医ということで患者さんをご紹介いただきました。それまでの私の経験にはない、リハ医学の非典型例が多く、どれだけ役に立てているのやらという感じですが、領域と領域のはざまの障害、ごく軽度の障害、障害をもつ人の一般内科的問題や整形外科的問題などもリハ科開業医の役割として積極的に関わっていきたいと思います。また、障害に対する捉えかたも社会情勢の変化の中で刻々と変化していきますが、開業医という医療の外堀でそれを感じつつ、リハ科医として社会的役割を果たしていきたいと思っています。(リハニュース25号:2005年4月15日)