<特集◎診療ガイドラインの動向と課題>

呼吸リハビリテーションガイドライン策定委員会

委員長

里宇明元


●国際的な動向

 呼吸リハのルーツは、自身の肺結核の体験を通し慢性肺疾患に対する栄養と運動療法の意義を認めたDenisonにたどることができる。その後、Barachらによる呼吸訓練や運動療法の普及、Pettyらの効果研究などを経て、呼吸リハは慢性肺疾患の重要な治療の柱の一つとして考えられるようになり、1981年には米国胸部疾患学会により公式声明が出された(表2)。その後、呼吸リハに関するガイドラインが相次いで発表され(表3)、医療チームの連携によって効率的な管理を行おうとする包括的呼吸リハが、科学的根拠をもとに慢性閉塞性肺疾患(COPD)の重要な治療手段のひとつとして位置づけられるに至った(表4)。

●わが国における動向

 従来、肺結核後遺症に対する肺理学療法が中心であったわが国においても、COPDの増加とともに包括的呼吸リハのニーズが高まり、2001年に日本の現状を踏まえた呼吸リハの声明が発表され、呼吸リハは、「呼吸器の病気によって生じた障害を持つ患者に対して、可能な限り機能を回復、あるいは維持させ、これにより、患者自身が自立できることを継続的に支援していくための医療である」と定義された(日本呼吸管理学会誌2001;11: 321-330)。この声明の作成過程で、呼吸リハの実践に向けたマニュアルの必要性が強く認識され、これを受けて、呼吸管理学会の呼吸リハガイドライン作成委員会がワーキンググループを組織し、呼吸器学会ガイドライン施行管理委員会、理学療法士協会の参画を得て、2003年に「運動療法マニュアル」が出版された。ここまでの流れの中ではリハ医学会はまだ正式には参画しておらず、あくまで個人の資格で江藤文夫現理事長、里宇明元が参加し、声明・マニュアルの作成作業に関与してきた。現在、「運動療法マニュアル」に引き続いて、「患者教育・栄養指導マニュアル」の作成作業が進行中であるが、今回からは、診療ガイドライン委員会呼吸リハ策定委員会としてリハ医学会からも正式に参加することが決定され、2006年の出版に向けてマニュアル素案の査読作業が鋭意進められている。今後、呼吸リハの分野においてもリハ医学会サイドからの積極的な関与が望まれる。

表2 呼吸リハビリテーションの定義
● 呼吸リハビリテーションは、
− 個々の患者に合わせた学際的プログラムを立て、
− 正確な診断、治療、情緒的支援および教育を通じて、
− 呼吸器疾患の生理学的病態と心理的病態の双方を安定させたり、変化させ、
− その呼吸器障害や全般的な生活状況の制限という条件下で、
− 可能な限り機能を最大限に回復させようと試みる医療技術 (art)
と定義することができる。
American College of Chest Physicians (1974) , American Thoracic Society (1981)


表3 呼吸リハビリテーションをめぐるガイドライン等の歴史
世界 日本
1981米国胸部疾患学会「呼吸リハに関する公式声明」 
1985 在宅酸素療法保険適応
1990米国心血管・呼吸リハ学会ポジションペーパー「呼吸リハの科学的基礎」 
1991 厚生省/日本医師会「在宅酸素療法ガイドライン」
1993米国心血管・呼吸リハ学会「呼吸リハプログラムのガイドライン第1版呼吸リハプログラムのガイドライン日本語第1版
1995ヨーロッパ呼吸学会タスクフォース「COPDの適切な評価とマネージメント」 
1996 第一回呼吸療法士認定試験
1997ACCP/AACVPR「科学的根拠に基づく呼吸リハガイドライン」 
1999米国心血管・呼吸リハ学会「呼吸リハプログラムのガイドライン第2版」呼吸リハプログラムのガイドライン日本語第2版
2000Global initiative for chronic obstructive lung disease (GOLD) 
2001 呼吸管理学会/呼吸器学会「呼吸リハに関するステートメント」
2003GOLD update呼吸管理学会/呼吸器学会/理学療法士協会「呼吸リハマニュアルー運動療法」
2005 呼吸管理学会/呼吸器学会/リハ医学会/理学療法士協会「呼吸リハマニュアルー患者教育・栄養指導」(作成中)

 表4 呼吸リハビリテーションの効果(GOLD)
Level A ランダム化比較試験。多量のデータ
■運動能力の改善
■呼吸困難感の改善
■健康関連QOLの向上
■入院の回数と入院日数の減少
■COPDによる不安と抑うつの軽減
Level B ランダム化比較試験。限定された量のデータ
■上肢の筋力と持久力トレーニングによる上肢機能の改善
■効果はトレーニング終了後も持続
■生存率の改善
Level C 非ランダム化比較試験。観察に基づく研究報告
■呼吸筋訓練は特に全身運動トレーニングと併用すると効果的
■心理社会的介入療法が有用

(リハニュース27号:2005年10月15日)