特 集 | 新医師臨床研修制度・後期臨床研修への対応 |
日本リハビリテーション医学会の対応―教育委員会として
日本リハビリテーション医学会 教育委員会 委員長 出江 紳一
教育委員会の役割
教育委員会は、教育大綱(研修手帳6ページ目を参照)に謳われたリハビリテーション(以下、リハ)医学教育の理念・目標を実現するための活動をしています。教育は社会情勢の影響を受けるとしても近視眼的に制度や体制を変えるべきではなく、一定期間の成果を評価した上で改訂を進めるものだと思います。本稿では新医師臨床研修制度・後期臨床研修への教育委員会の対応について述べますが、それは本研修制度への臨時的な対応ではなく、5年以上前からの一貫した活動であり、表現型として外的要請に合わせたものであるということをまずお断りしておきます。
外的要請への対応
外部からの要請には、専門医認定制機構からの要請、つまり国民からみて専門性が分かりやすく、質の維持・向上を担保する仕組みがあること(#1)、そして今回の臨床研修制度の改革(#2)、さらに卒前教育の枠組みであるモデル・コアカリキュラム(#3)などがあります。これらの要請に柔軟に対応しながらも、リハ医学は、原因疾患の種類を問わず活動に影響する障害を扱う学問であり、診断と治療の体系であるという立場を通してきました。
まず、#3については、モデル・コアカリキュラムの改訂に向けての提言文を作成しました(表1)。疾患各論に、専門医制度卒後研修カリキュラム(以下、研修カリキュラム)と整合性を取る形でリハを追加することも主張していますが、リハの総括項を重視した提言内容となっています。
表1 モデル・コアカリキュラム改訂に向けての提言(要旨のみを引用)
◎ | リハ医学は多くの疾患・外傷に関連し、プライマリーケアとして必須の領域であるとともに、高齢化社会にあって介護保険サービスとも関連し、すべての医師が知らなければならない内容を多く含むことから、医学教育の中では重視すべき領域である。 |
◎ | リハ医学は臓器別縦割りに医学が再編される中にあって、数少ない横断的な医学領域であり、その意味で「基本的診療知識」の「リハ」の総括項を重視して、廃用症候群、障害評価・リハの具体的内容、運動療法のリスク管理などを追加したい。 |
◎ | 従来、脳血管障害、頭部外傷、脳性麻痺、脊髄損傷、骨・関節疾患、関節リウマチの各論の中にリハ概説が取り上げられているが、筋ジストロフィー、慢性閉塞性肺疾患、末梢神経損傷、心筋梗塞、老年症候群の各論の中でも取り上げたい。 |
#1と#2に対して専門医を育成するための研修カリキュラムの作成と手帳の発行を既に行いましたが、現在はカリキュラム運用方法の検討、指導医マニュアルの作成を進めています。研修カリキュラムはホームページ上に公開され、ダウンロード可能ですので、お役立ていただきたいと思います。表2に後期研修の指導方略(案)を示します。あくまで暫定案であり、今後他学会の動向をみながら専門医会などの意見も取り入れて改訂していく予定です。
表2 後期研修の指導方略(案)
1) | リハ科専門医試験受験資格に照らして、当該研修施設においてリハ指導医が指導する期間と内容を研修者とともに確認する。 |
2) | 当該施設における週間・月間スケジュールを提示し、研修者の義務を明確化する。その際、可能な限り、以下の内容が含まれるように配慮する。 |
(1) | 入院患者の診察と療法現場の視察 |
(2) | 指導医との回診 |
(3) | リハカンファレンス |
(4) | 検査(神経伝導・筋電図、嚥下、尿路画像、膀胱機能) |
(5) | 補装具適合チェック |
(6) | 訪問家屋評価 |
(7) | 抄読会・勉強会 |
3) | 当該施設における研修者の行動目標を提示する。以下はその例である。指導医は各行動目標について、定期的に達成度をチェックし、研修者にそれを確認する。 |
(1) | 主要な疾患・病態における障害の構造を理解し、診察を通して、機能障害・能力低下・社会的不利を評価し、機能予後を判定することができ、リハ計画と処方ができる。 |
(2) | 主要な疾患の病態・特性、リハに際しての医学的リスク、廃用症候群の重大性を理解し、これらをリハ処方に反映できる。 |
(3) | 診察の場面において、障害者への配慮ができるとともに、患者・家族に対して、障害受容のレベルに応じた医療面接をするとともに、またリハについてのイン フォームドコンセントをとることができる。 |
(4) | 急性期-回復期-維持期の病床役割分担を理解して、各病床群におけるリハ目標の違いをリハ計画・処方に反映できる。また、維持期に対しては介護保険サービス導入のためのアレンジができる。 |
(5) | 補装具支給のための医療保険や公費による助成制度を理解し、また適切な補装具処方と適合判定ができる。 |
(6) | リハカンファレンスの司会を行い、コメディカルの意見をまとめ、治療方針を修正することができる。 |
(7) | リハ室における医療事故の特徴を理解し、事故防止のための行動がとれる。また、リハ室を院内感染源にしないための配慮ができる。 |
(8) | 社会福祉の一環としての身体障害者認定、難病認定、介護保険要介護度認定、障害年金受給のための手順を理解し、患者・家族に対して適切な助言ができる。 |
(9) | 日本リハ医学会関連の学術集会において、症例報告などを最低、2回行い、何れかについて筆頭著者として論文を執筆する。 |
4) | 当該施設における研修者の経験目標を設定する。指導医は経験した症例のサマリーをチェックし、それを研修者にフィードバックする。以下は3年間の経験目標の1例である。 |
(1) | 脳血管障害50例:高次脳機能障害(失語症、半側空間無視、身体失認)、嚥下障害、神経因性膀胱、肩手症候群、視床痛 |
(2) | 外傷性脳損傷5例:遂行機能障害、注意障害、記憶障害 |
(3) | 脊髄損傷5例:自律神経過反射、異所性骨化、神経因性膀胱、重度痙縮 |
(4) | 二分脊椎2例:脊柱・下肢変形、水頭症 |
(5) | 関節リウマチ10例:発症早期例、若年性関節リウマチ、その他の膠原病 |
(6) | 骨関節疾患10例:肩関節周囲炎・腱板断裂、腰痛・脊椎疾患、変形性股関節症、変形性膝関節症、骨折・骨粗鬆症(大腿骨頸部骨折・脊椎圧迫骨折など) |
(7) | 脳性麻痺5例:痙性両麻痺、四肢麻痺 |
(8) | 神経筋疾患10例:パーキンソン病、脊髄小脳変性症、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、多発性神経炎、ポストポリオ症候群、末梢神経損傷、筋ジストロフィー |
(9) | 切断5例:義足、義手、幻肢痛 |
(10) | 慢性肺疾患2例:慢性閉塞性肺疾患、誤嚥性肺炎 |
(11) | 循環器疾患4例:心筋梗塞、慢性心不全、末梢循環障害 |
(12) | その他4例:悪性腫瘍、熱傷など |
5) | 研修目標に関連する内容についてリハ医学の参考書を提示するとともに、文献検索などEBMに基づく医療の実践を習慣化させる。 |
リハ科医の育成
教育委員会ではこのような外的要請への対応を進めていますが、最初に述べましたように、障害の原因となる全ての疾患に横断的に対応できる医師の育成を目指すことが本務と考えています。そのようなリハ科医の専門性をより高め、そして国民に広く理解して戴くためには、疾患ごとのサブスペシャリティを深めていくことと、それぞれの疾患を診療するリハ科以外の医師との連携を拡げていくことが大切であると思います。実習研修会ならびに一般医家向けの研修会はその重要な方略と位置づけられます。
表3に、平成18年度総会で承認された実習研修ガイドラインを示します。このガイドラインに基づいて、既に各大学や病院で開催されている勉強会が実習研修会に発展していくようになれば、学会員にとって大きな利益となることでしょう。
表3 日本リハ医学会実習研修ガイドライン
1.目的
日本リハ医学会認定臨床医(以下認定臨床医)、リハ科専門医(以下専門医)には、多岐にわたる疾患・障害に関する臨床経験と種々の医療技術の習得が必要である。しかし、指定施設における研修のみで幅広い領域の全てにわたり十分な経験をすることが困難な場合も少なくはない。そこで、臨床知識のみならず技能の修得ならびに向上を図るために実習研修を設ける。このガイドラインは、教育委員会が、教育大綱に基づいた卒後研修の一環としての実習研修を、企画・実施するための指針について定める。
2.内容(領域)
実習研修は、リハ医学に関係する疾患・分野やリハに関する技能のうち、実習研修としての企画が有用であると考えられる領域 について行なう。企画は、本医学会が定める専門医卒後研修カリキュラムに基づき、教育委員会がこれにあたる。
3.概要
1) | ここでいう実習研修とは、講義および実習、試験より成る、2-3日程度の研修会を指す。 |
2) | 充分な症例数の実習または時間数の技能の実習を行なうものとする。 |
3) | 実習研修には、次の2種が含まれる。 |
ア. | リハ医学に関係する教育機関、施設、各種団体が企画する研修会のうち、共催の申し込みのあったものについて、リハに関する技能の修得を目指すに相応しい内容を包含するものを教育委員会で検討し、共催としての企画とする。 |
イ. | 必要と思われる分野については、教育委員会が企画から協力して、相応しい内容・指導者による新規の研修会を実現させる。 |
4.実施
実習研修は、別に定める「日本リハ医学会実習研修実施要領」に基づいて実施する。
5.資格・単位との関連
本医学会の認定臨床医ならびに専門医受験資格としての位置づけ、及び、生涯教育単位としての認定などについては、認定委員会など関連部門と検討の上、一定の単位を付与する。
また平成18年度から始まった「一般医家に役立つ骨・関節疾患のリハビリテーション研修会」、「一般医家に役立つ呼吸・循環疾患リハビリテーション研修会」(「一般医家に役立つ脳血管疾患リハビリテーション研修会も開催予定)はそれぞれの疾患領域の専門家医師との連携を深めるとともに、専門領域を超えて横断的にリハ医学を学ぶ機会を提供すると期待されます。
◎
以上、教育大綱を軸に教育委員会の役割と外的要請への対応、今後の展望、とくに実習研修の発展・充実への期待を述べました。これからも教育委員会として学会員の皆様の提案・要望を歓迎いたします。
研修手帳について:全会員に配布しております研修手帳(第1版第1刷)のカリキュラムに印刷上の誤りがございました。詳細につきましては学会ホームページ教育委員会のコーナーをご参照ください。