特 集 | 新医師臨床研修制度・後期臨床研修への対応 |
市中病院の立場から―聖隷三方原病院の場合
聖隷三方原病院リハビリテーション科 藤島 一郎,片桐 伯真
聖隷浜松病院リハビリテーション科 高橋 博達
はじめに
当院は急性期から慢性期の患者を扱う重装備の総合病院である。日常的にドクターヘリを稼動させ1次から3次救急に対応する急性期病院であるが、その一方でリハ科やホスピス科・精神科・結核性疾患の専門病棟を持ち、慢性期医療にも力を入れている点が特徴として挙げられる。リハ科は昭和62年に専用ベッドを所有して以来、超急性期から回復期・維持期のリハを展開しスタッフも年々充実してきている。新臨床研修システムの単独型研修病院である当院における現状と、後期臨床研修への対応を述べる。
施設の全体像と特徴
764床(一般613床、精神104床、ホスピス 27床、結核20床)http://www.seirei.or.jp/mikatahara/
当科では、総病床数の5%を越えるリハ科専用の病床を持ち、急性期のベッドサイドリハから回復期・維持期・在宅に至るまでの一貫したリハ・アプローチを行うための、ハード面とスタッフの両面を備えている。これらによって、いわゆるリハセンターとしての機能を発揮し、院内他科から週30例以上の症例の紹介を受け、リハ医療を展開している。また、摂食・嚥下障害に対するリハアプローチに関しては特に積極的に取り組んでおり、国内外におけるトップクラスのレベルであると自負している。リハ科43床のうち8床は摂食・嚥下障害患者を扱う嚥下センターとして活用している。なお、歯科医師、歯科衛生士は嚥下障害を中心とした診療(嚥下歯科)を行っているため組織上はリハ科に属している。施設基準、スタッフ構成などは表4に示した。ほとんどすべての診療科を有し救急科はドクターヘリと連動した救命救急センターの認定を受けている。病院評価機構の認定も受け、平成16年6月には新たに地域支援病院の指定も受けている。
表4 聖隷三方原病院リハ科の概要
施設基準 | 脳血管疾患等リハ料(T),運動器リハ料(T),呼吸器リハ料(T) 病床43床(内 嚥下センター8床) 日本リハ医学会認定研修指定病院 |
スタッフ構成 | (平成18年7月1日現在) リハ専従医師6名(内 専門医2名)、理学療法士(PT) 27名(+ 無資格者1名)、作業療法士(OT)17名(内 精神科2名)、言語聴覚士(ST)5名、鍼灸士2名、臨床心理士3名、歯科医師2名、歯科衛生士3名 |
新臨床研修システム
平成15年度から始まったこのシステムはリハ科にとって追い風になると我々は考えている。医学部の学生が研修病院選定のために一般病院を見学し、その際に初めてリハ科の存在に気づいて、見学を申し出てくれてさらには将来の後期研修を希望してくるという現象が見られている。これはリハ医学を専攻したいと思う医師や医学部学生の現状に比して、その受け皿となる大学(特に国立大学)のリハ科医局が少ないことが一因と考えられる。そんなニーズを持つ多くの医学生や若い医師が一般病院のリハ現場にふれて、そのニーズを再認識し、興味を深め、進路として選択してもらう絶好のチャンスと考えている。これまでのところ初期研修採用の際に後期研修でリハ科を希望する医師を採用し、そのまま後期研修につなげるシステムを実施している。また、将来他科を希望する医師に対しても選択科としてリハ科をローテイトしてくれるように働きかけると共に、内科で脳卒中や嚥下障害、廃用症候群の患者を担当し、リハ依頼する過程で当科の仕事内容を知ってもらうように努めている。これらが若い医師たちへのアピールとなり、後期研修を希望する研修医の獲得に好影響となっている。
リハ科の研修システム
表5にその研修システム内容を示す。
表5 当院のリハ科研修システム
1. | 新卒者は6年間でほぼ全ての疾患に対する急性期から慢性期にいたるまでの全身管理とリハ臨床をマスターし、日本リハ医学会の認定臨床医、専門医取得、学位取得を目標とする。卒後数年を経た他科の医師でもリハ医療に興味のある医師を受け入れる(期間は短縮)。 |
2. | カンファレンス:毎週医師のカンファレンスで症例の検討会を行う。毎週コメディカルとのカンファレンスも行う。このカンファレンスを通じて医師の指導力を培い診療方針、ゴールなどを適切に設定することを学び、PT、OT、ST、看護師、ソーシャルワーカーなどの役割と視点を身につける。抄読会、勉強会は医師間だけでなく、コメディカルとも共同で行う。 |
3. | 研修病院:主に聖隷三方原病院で研修を行うが、聖隷浜松病院とも連携して研修を行う。その他希望により、他大学病院での研修、小児疾患の研修、リハ専門病院(脳卒中、リウマチ疾患、脊髄損傷、神経筋疾患など)での研修、スポーツ医学の研修なども可能なように配慮する。 |
4. | 当院でのリハ研修の特徴 |
・ | 医療と保健・福祉の総合施設であり、三方原地区の多くの施設での研修が可能。 |
・ | 患者の経過を長期にわたって把握できる。 |
・ | 急性期脳血管障害、高次脳機能障害、特に嚥下障害に関してはトップクラスの診療レベルをもち他では経験できないような臨床例を多数経験することが可能。 |
・ | 脳血管障害と頭部外傷に関しては発症当日から在宅に到るまでの管理、指導が可能。神経救急当番医として、救急搬送時点からの診断・治療対応が習得できる。 |
・ | ホスピスにおいてもターミナルケアの一環としてリハを行っている。 |
5. | 研修終了後:リハ医療をリードできる専門医として当院関連施設以外でも全国各地で活躍する場を紹介する. |
リハ科研修医師の受け入れ実績
過去に2カ月から4年にわたり25名の研修を受け入れている。そのうち当院在籍中に4名は日本リハ医学会認定臨床医を取得し、2名は専門医を取得している。専門医コース別(1:脳卒中、その他脳疾患、脳外傷、2:脊髄損傷、その他脊髄疾患、3:リウマチを含む骨関節疾患、4:脳性麻痺を含む小児疾患、5:神経筋疾患、6:切断、7:呼吸器疾患、8:循環器疾患、9:その他)では全ての疾患を研修できる。特に1、2、5、7は症例が多い。また嚥下障害に関しては病院全体から依頼があり、専門の嚥下チームを有していて有意義な研修が可能である。
平成13年度より研修医の全国公募を開始し、平成15年度3名(現在後期研修中)、平成16年度1名(現在後期研修中)平成17年度2名、平成18年度1名の研修医を初期研修から採用している。
以上、当院リハ科における新医師臨床研修制度・後期臨床研修への対応を簡単に解説した。若い医師にとって魅力あるプログラムを提案し、それを実践することが次の医師を獲得する最良の方法と考えている。