障害保健福祉委員会のコラム |
障害があるからこそスポーツを
障害保健福祉委員会 伊佐地隆、古澤一成
私達が「スポーツをする」というとき、いきなり野球やサッカーの試合をしたり、マラソンを走ったりはしない。キャッチボールをしてちょっとノックをすれば野球をやったという気になり、ボールを蹴ってパスをしあえばサッカーになり、昔は昼休みに輪になってバレーや家族や友達同士でバドミントンもあった。
「障害者スポーツ」というと、どんなイメージが湧くだろうか。車いすバスケット、車いすマラソン、義足の短距離走……そんな競技風景が浮かぶのではないだろうか。競技スポーツばかりが障害者スポーツではない。むしろそういう人たちはごくひと握り。リハビリテーションに携わる私達はそれを知ってはいるが、その他に障害者がスポーツにいそしんでいる場面をみることはそれほど多くはない。
障害者にとっても身近なところで、手軽にできるスポーツが、レクリエーションも含めてもっともっとあってほしい。障害のための運動不足、栄養過剰からくる生活習慣病の予防や健康づくりに、障害があってもスポーツができるような環境がたくさんあってほしい。そのような喚起のために、このコラムで、気軽なスポーツ、楽しいスポーツ活動を行っている事例を紹介したい。
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【事例1】デイケア・デイサービスでもスポーツができる
プールでデイサービス(DS)を行っているところがあると聞いた。
59歳、くも膜下出血の後遺症で右片麻痺、失語症のある女性が行っていると聞き見学に赴いた。この女性が通う自宅近くのDSでは毎日午前、午後に分けて、送迎バスで利用者を近隣のプールにお連れする。利用しているのは市営のプール。ゴミ焼却で発生する余熱を利用した温水プールと浴室の他に会議室、多目的ホールも併設されていて、障害者とその付き添いは無料で利用できる。プールに行く利用者は1回数名から10名程度で、各自が個人でプールを利用する形をとっていた。DS側は送迎と付き添いとしての介助を行うという立場である。この女性は老舗の寿司屋の女将で、もともとスポーツには縁のなかった人であるが、活動不足を補うために家族がこのDSをみつけて週2回通所を始めたところ、身体を動かす楽しさを知り、毎回の診察時にはにこにこしながらプールの様子を話してくれる。
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最近は体育学系の人たちが、高齢者や障害者の体育、スポーツ(または身体活動)に関わることが増えている。「健康科学」という分野の学科や専門学校も増えている。介護保険での介護予防の呼びかけはそれを促進している。
体育学部を卒業後、さらに障害やリハを学んで専門的な活動ができる人材を育成するコースが、国立身体障害者リハセンターにある。「リハビリテーション体育学科」である。最近ではこの卒業生も老人保健施設や通所リハ、通所介護に入るようになり、入所者や通所者に対して、スポーツ活動を取り入れたメニューを行っている。
立てなくても歩けなくても、いす座位で車いすでスポーツの要素を取り入れた身体活動はできる。投げる、キャッチする、打つ、入れる……ゆっくりした動きならば風船、ビーチボール、メディシンボール、通常のボールとなれば動きは順に速くそして重くなり、ピンポン、新聞紙を丸めたもの、テニスボール、ラグビーボールなど大きさも形もさまざま。動く物を目で追う、しかも空間を上下左右に予測不能に動く物を追わなければならない。移動を伴えばよりダイナミックになる。ルールを決めれば、頭も使う。点数がつけばいい点を出したいと意欲が湧く。チーム対抗になればメラメラと競争心が生じてくる。作戦を立てることも。勝負で盛り上がれば精神面心理面の刺激は、度が過ぎるほどにもなる。勝っても負けても、楽しかったね、とさりげなく流す配慮をしたり上手に仕向ければ、知らず知らずのうちに体の動きがよくなり、活気も上がる。
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先日、このようなスポーツの要素をデイケアなどの活動に取り入れるためのセミナーが、神奈川県相模原市(北里大学)で開かれた。医療体育研究会が主催、全国老人保健施設協会が後援し、4回目の今回は神奈川県の施設を対象に行われ、県内の老健やデイケアの職員が集まった。過去3回は東京、埼玉、茨城で行われた。スタッフの一人でリハ科専門医の立場で講義をした大仲功一医師(茨城県立医療大学)は「一人ひとりの障害の特徴を把握し、安全にスポーツを楽しめるように配慮していただきたい」と話していた。
特別な障害者スポーツセンターでなくても、一般向けのプールやアスレチッククラブが利用できなくても、このような通所系サービスや入所系サービスでスポーツ的な活動が行われるようになれば、少なくとも介護保険のサービスを受けられる人たちは、生活に根ざしたところで、気軽にスポーツができるのである。
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