障害保健福祉委員会のコラム |
障害があるからこそスポーツを(4)
障害保健福祉委員会 伊佐地隆、古澤一成
今回は、入院にてリハビリテーショ ン(リハ)医療を受けている期間にお ける、スポーツの話をさせていただき ます。
今からちょうど10 年前に英国の Aylesbury にある Guttmann Sports Centre にて、International Stoke Mandeville Wheelchair Games ( 現World Wheelchair and Amputee Games) が 開催され、頸髄損傷の方々と参加 しました。この大会はSir Ludwig Guttmann の提唱により始まったも ので、第50 回の記念大会であったた めにこの地が選ばれました。その際、 Guttmann Sports Centre に隣接する Stoke Mandeville Hospital も見学する 機会がありました。理学療法や作業療 法のための訓練室は、我々のものと大 きな違いはありませんでしたが、訓練 室以外にリハ治療のための体育館やア ーチェリー道場があるのが印象的でし た。リハの導入として、最初に行われ るのがアーチェリーだということをお 聞きし、非常に興味深く見せていただ いたことを思い出します。もちろん頸 髄損傷による四肢麻痺の方は、弓を引 くのが難しく、フックの付いた自助具 を用いて理学療法士の介助にて行いま す。ただ、そのような状況にあっても、 体幹を回旋した状態でしっかりと座位 を保つ努力をすることは、脊髄損傷者 のリハ訓練の導入としては、非常に理 にかなった方法という印象を受けまし た。開始当初は、ほとんど飛ばない弓 が、少しでも的に近づくことでモチベ ーションが上がります。もちろん、ア ーチェリーが楽しくなると、車いすの 駆動やベッドと車いす間の移乗も練習 したくなります。「楽しさ」や「達成感」 という要素がリハ治療に重要であるこ とを改めて感じる光景でした。この後 は、通常のリハ訓練の他に、体育館で のスポーツが入院生活に組み込まれ、 訓練意欲が維持されます。障害をもっ た方々にスポーツが、実にスムーズに とけ込んでいきます。
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アーチェリー風景(Stoke Mandeville Hospital にて) |
私が勤務する病院では、リハを目的 に来られる4 割程度が脊髄性の麻痺の 方です。他の医療機関に比べると、脊 髄損傷の方も年齢が若いのが特徴で す。常日頃、患者さんには、「脊髄損 傷の方は、運動不足になりがちで、生 活習慣病も生じやすいこと」「そのた めにも車いすスポーツをした方がよい こと」などをお話ししています。ただ、 運動を奨める一方で、入院中「リハ訓 練以外の運動」は、医療者側からその 機会を提供しづらい現状があります。 「リハ訓練以外の運動」を医療の中で 提供することの賛否はさておき、経過 と共に訓練プログラムだけでは心身共 に持て余している若い脊髄障害の患者 さんをみると、何とかしなくてはと思 いました。リハ科医師と理学療法士、 作業療法士で相談した結果、現在週1 回、リハ訓練とは別にスポーツをする 時間を設けています。隣接する職業リ ハセンターの体育館を借り、車いすの バスケットボール等を行います。運動 をしている時の彼らの笑顔は輝き、再 び社会で生きる力を取り戻していくか のようです。今の時代だからこそ不 採算ではあっても、このような支援を することに価値があると感じる日々で す。リハ医は、そうした部分に貢献で きる貴重な存在だと確信しています。