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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第28回「この先生に聞きたい!」女性リハビリテーション科専門医キャリアパス

 

日時 2021年12月10日(金)14時30分~17時
場所 国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科
ゲスト 藤谷 順子先生(国立国際医療研究センター病院 リハビリテーション科 医長)
インタビュアー 阪本 綾子 先生(鳥取大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
倉科 徹郎 先生(神戸大学医学部附属病院リハビリテーション科・整形外科)
司会 浅野 由美 先生(千葉県千葉リハビリテーションセンター リハビリテーション科)
藤原 清香 先生(東京大学医学部附属病院 リハビリテーション科)
オブザーバー 永田 智子 先生(亀田リハビリテーション病院 リハビリテーション科)

プロローグ
なぜリハビリテーション科医にならなきゃいけないのか
診察の大事さ
急性期から地域へつながる
効果を測る〜評価法と医工連携〜
医師としての役割
ひょんなことから?導かれたリハビリテーション科医への道
リハビリテーション科医ならではのアセスメント
インタビューをふりかえって

 

 

プロローグ

司会(浅野):本日は、第28回の達人の流儀インタビューで、国立国際医療研究センター病院の藤谷順子先生をゲストにお迎えしています。藤谷先生はRJN(Rehabilitation Joy Network:リハビリテーション科女性医師ネットワーク)の発足時から世話人として活躍され、女性医師や若手医師のキャリア形成支援に取り組まれてきました。今回このような形で藤谷順子先生をゲストにお迎えすることができ大変光栄です。

私は、司会を担当する千葉県千葉リハビリテーションセンターリハビリテーション科の浅野と申します。よろしくお願いいたします。

司会(藤原):同じく司会の東京大学リハビリテーション科の藤原です。どうぞよろしくお願いいたします。

一同:よろしくお願いします。

司会(浅野):まずは、インタビュアーのお二人から自己紹介をお願いします。

阪本:はい。阪本綾子と申します。私は母校の鳥取大学で初期研修後、大学にリハビリテーション医学の講座がなかったため、整形外科学教室に入局しました。その後しばらくして、縁あって県立の総合療育センター(鳥取県立総合療育センター)の整形外科に勤務しました。この間にリハビリテーション科専門医試験を受け、専門医としては2年目です。よろしくお願いします。

倉科:倉科徹郎と申します。私は東京出身で、一度別の学部の大学を卒業しました。その後社会人を経験し、スポーツ用品メーカーで研究開発の仕事をしていました。

藤谷:何の研究開発をしていたのですか?

倉科:シューズを中心に、中敷きやソックスなどの研究開発の仕事をしておりました。その後、愛媛大学医学部に学士編入し平成28年卒になります。医学部卒業後は、神戸大学で初期研修をしました。

その後、神戸大リハビリテーション科の酒井良忠先生のところに入局し、3年間専門研修を受けました。ちょうど新専門医制度の1年目です。3年間の研修を修了したところで、次にどうしようかなというのを考えたのですが、もう少し運動器のことをしっかりと学びたいと思い、この4月に神戸大の整形外科に入局し今に至っています。

藤谷:お二人はなぜリハビリテーション科に行こうと思ったのでしょう。講座がなかったりといった環境のなかで。

阪本:大学に講座はないのですが、リハビリテーション部があったのと、大学の後に勤務した療育センターの整形外科の先生が、リハビリテーション科専門医と指導医資格をお持ちで、「専門医取ろうね、取ろうね」と熱心に御指導いただいて。

一同:ははは(笑)。

藤谷:療育センターに勤めて、いつの間にかリハビリテーション科専門医になっていたんですね。

阪本:なにか、リハビリっていいなあと思って。

藤谷:なんで?

阪本:なんというか、リハビリ、なにか明るいなというかんじです。前向きですよね。

藤谷:倉科先生はどうでしょう。靴の研究をされていたからですか。

倉科:その影響はあります。医師として仕事をするにあたっても、やはりどこかでものづくりみたいなところにつながればいいなというのは、ずっとありました。それで、初期研修でリハ科を回ったときに、リハって扱う分野がすごく広いですけど、その中でも「体の動き」が中心的な役割を果たしている部分があると思いましたし、義肢装具とか、いろいろな「もの」があって、楽しそうだなと思いました。そうしたら「あ、いろいろな診療科の中でも自分の目標みたいなところに一番近いかな」と思って。あとはやはり酒井先生のお人柄です。

一同:なるほど。

 

なぜリハビリテーション科医にならなきゃいけないのか

倉科:ところで、私のいる関西で、藤谷先生のように、ものづくりのことを熱心にされているドクターをご存知ですか。

藤谷:好きなドクターは多いと思います。私が神経内科からリハビリテーション科へ移る時、「なぜリハ医に?神経内科医のままでリハビリのスタッフとチーム医療をすればいい」と言われましたが、よく考えると、リハビリテーション科医というのはチーム医療だけが特色ではなくて、訓練で良くすることに興味がありますよね。

内科医にだって、みんなの意見を聞いてゴールを立てることが上手なドクターはいるけど、それだけではなく、患者さんの歩きを見て、ここをこうしたらいいんじゃないかとか、患者さんのimpairmentレベルを治すことに興味があるのがリハ医の特徴だと思います。実際の訓練はセラピストがするにせよ、その方法の基礎になる病態の理解とか、訓練方法とか、治っていくメカニズムとか、評価方法とか、装具とか、その一個一個の技術に興味があるのがリハ医の特徴だと思っています。だから装具とか訓練機器とか評価機器とか考える先生は多いですよね。

特別にこの障害が好きとか、歩行分析が好きな先生がいたりなど、サブスペシャリティはあるけど、訓練法自体や病態に興味があるのがリハ医だと思います。

一同:そうですね。(拍手)

倉科:訓練法自体を学ぶに当たっては、特に最初のほうは、ドクターよりも実際にはセラピストさんのほうが経験も豊富で技術もあって、どういうふうに学べばいいんだろうというところがあるのですが、そのあたりはいかがでしょうか。

私は、兵庫県立リハビリテーション中央病院にいたときは、まずはひたすら聞くしかなかったので、リハの現場に行って、患者さんが訓練するところを見たり、訓練の方法をセラピストさんに聞いたりしていたのですけれども。

藤谷:でもね、聞くのではなくて、やっぱり診察と称して動かしてみるのが一番いいと思います。

倉科:診察と称して動かす?

藤谷:この病院に来た当初は、療法士も少なかったし、診察に行ったときに患者さんに歩いてもらったり、座位バランスをみたり、すぐ訓練していました。そうすると学べることが多いです。以前は、今みたいにリハビリを始めるのに患者さんのサインが必要ということもなかったから、時間もあったし…。

複数:ははは(笑)。

藤谷:自分でもやってみたうえで、翌日のセラピストの訓練を見ると、より良くわかります。面白いし、喜んでもらえるし。

阪本:そうですよね。

藤谷:でも、リハビリ科だけじゃなくて、呼吸器の先生にも言っています。歩いて酸素濃度が下がるかどうか自分でやってみればと。だって、呼吸も歩けてなんぼでしょう?

阪本:そうですよね。

藤谷:心臓でも、寝ていてエコーで見えるのだけが心臓の能力じゃなくて、動いて息切れしない、動いてちゃんと末端まで酸素や栄養を運べる、それがあるべき心機能でしょう?だから、呼吸器の研修医にレクチャーをしていたときは、「患者さんが寝ているところに立って、上から見下ろしてしゃべるというのは上から目線で×だよね。で、ベッドサイドの椅子に座るのは、患者さんに対する態度としては○だよね。さらに、患者さんにもベッド脇に座ってもらって同じ頭の高さでお話を聞くのも○だよね。でも、本当に正しい呼吸器内科医は、廊下を共に話しながら歩いて、しゃべると息切れするかどうかを観察するべきじゃない?」という話をしていました。

阪本:そうですよね。酸素を持ちながら動く様子を見たりとか。

藤谷:そうそう。こっちが酸素ボンベを持ってあげると相手は楽だけど、本人が酸素を引くと実は大変だとか。二輪のカートを引くのより四輪のカートを押すのが楽とか。

阪本:ああ、ほんとうですよね。

藤谷:いろいろ興味深いですよね。

阪本:しゃべりながらなんとなく「あ、息が上がっていらっしゃる」みたいな。

藤谷:そういうのを見ていると、酸素飽和度が下がる前に、たいていの人は心拍数が上がるでしょう?心拍数が上がってまだ酸素飽和度が低下しない時点で休んでもらえば、閾値を超えずに歩くことができる。

さらに、患者さんって、歩く能力が大事なんじゃなくて、立つことが休みになる能力が大事ってこともわかります。立ってるだけで息切れしているようでは、立つことが休みにならない。呼吸器や心臓の患者さんは足のスキルが悪くて歩けないわけじゃなく、酸素という燃料が時間内に行き渡るかどうかの問題ですよね。「疲れたとき、立つことが休みになれば、理論的には、あなたは無限に歩けますよね」と。そう言ってあげると患者さんは喜ぶわけです。

で、少ないエネルギーで立位保持ができるような練習とか、立位で呼吸を整える練習をすればいいわけです。観察の別の例を挙げると、血液がんなどでクリーンルームから出られなくて階段訓練ができない方がいるでしょう?でも、階段に行かなきゃ階段訓練ができないわけじゃないですよね。階段訓練の要素というのは、片足立ちして反対側の足を上の段に載せるだけ持ち上げられることとか、片足で15センチ、スクワットできるということでしょ。

倉科:はい。

藤谷:それから階段のときは、足の踵までは載せてないでしょう?前足部だけに体重乗せて立てる力があるかも大事です。それを全部ベッドサイドでやってみて、これが20回できたら、あなたは2階まで上がれますよ、平均13段だからって言えますよね。

阪本:そうですね。

藤谷:足はすごく上げる必要なくて、17センチだけ上げればいいんですよと言ってあげるだけで、患者さんは喜んでくれます。観察すればわかることがいっぱいあって。そういう意味でリハ科は面白いですよね。

 

 

診察の大事さ

藤谷:問診も大事だと思ってます。例えば嚥下障害の初診の方が来たときに、私が体重を聞くのは、単に体重を聞くのではなくて、嚥下障害で食べる量が少なくて体重が減っているんじゃないかということを尋ねたい。嚥下障害が主訴だと、むせるかどうかとかに話が行きがちですが、外来レベルだと、まず全体の流れを把握するためには、栄養は問題です。

例えば、胃瘻だけどこれから経口摂取したいという方が来たときに、まず経管が何カロリー入っていて、体重は増えてきているか、たくさん歩けるようになってきているか、そういうことで体調が上向いてるかどうか、そういったことにも気を配る。聞くということ自体が、私たちがそこを重要視してるということになるでしょう?なぜそんなこと聞くのということになるかもしれないけど、なぜ聞くのか理由が分かれば、それって関連してるんだなって、聞くこと自体が注意喚起になる。

阪本:患者さんに、自分の状態を「そうか、そういう視点から」みたいな感じでフィードバックできるということですね。

藤谷:そう。だから診察もすごく大事だし、何を話題として選ぶかということも大事。嚥下だったら入室してからの声の状況や、口唇がきっちり閉鎖できるか、息継ぎをどのぐらいしているかも大事だし、患者さんが自分の嚥下障害をどのように捉えているかを知ることも大事。

よく見学に来た方に、「えっ、藤谷先生って、1回目の診察のときに水飲みテストをしないんですか」と言われたけど、水飲みテストはSTさんができるので。その前に全体像を整理して、低栄養はあるのか、肺炎のリスクはどのくらいか、テコ入れしなければならないのはどの方面か、次回までのプランを立てる。

永田:診察、大事ですね。

藤谷:診察大事。特に都リハ(東京都リハビリテーション病院)にいたときに思ったのは、入院と外来では役割が違うことです。都リハはリハビリテーション専門病院だったので、入院中の患者さんにとっての医師の権威というのは、都リハの入院という恩恵に裏付けられているんですよ、ある意味。

でも、都リハ退院後の外来というのは違っていて、外来訓練はしないのに、患者さんは介護タクシーでお金をかけて受診に来る。内服薬は近くのクリニックで出してもらっているから、単に相談だけに来る。であれば、こちらも技を磨かなきゃいけないでしょう?

永田:そうですね。

藤谷:だから、そういう外来の診察って楽しいの。リハビリを提供しない診察っていうのが。

倉科:リハビリを提供しない診察?

藤谷:訓練を提供しない。

阪本:都リハの外来は訓練がないのですね。

藤谷:外来リハビリは当時していなかったの。例えば、患者さんが人生初めての脳卒中になって、入院中は比較的守られた環境で、脳卒中のことを分かっているスタッフに囲まれて、だいぶ歩けるようになってよかったなと思うけど、退院すると、昔の自分とのギャップが目につくようになっている場合もあります。退院して家に戻るということは、うれしいと同時に、今までできていたことができないということを毎日気付かされて、つらいときもあるわけでしょう。そこを支えたい。

それから、介護保険とか、チーム医療といっても、自分の情報がみんなに伝わっていることとか、みんなに自分のことを決められている感じとか、感情が波立つこともあるでしょう?世間の中で脳卒中サバイバーとして生きていくためには、いろんなことに打たれ強くならなきゃいけないし、交渉上手にならなきゃいけない。そのための相談相手になれればいいなと思います。

それはつまり、患者さんをペイシェントからユーザーへ変えていくこと。お医者さんというのは患者さんに頼られるのが好きなのだけれど、リハ医というのは、究極的には私に頼らなくてもやっていける人をつくっていく役割があると思う。

阪本:なるほど、そうですよね。

藤谷:患者さんにペイシェントからユーザーになっていただく過程を支援する。それとまた違う面として、医師としての長期的健康管理もあります。脳卒中で入院しているときの目標は、麻痺がよくなるとか、ADLがよくなるとか、脳卒中のことが中心だけれど、退院したら、がん年齢でもあるから、片麻痺があってもがん検診は受けるように薦めるとかも必要。

脳卒中の再発も含めて、次の病気にかからないために、医師としての立場で関わる。ADL的に歩ければいいだけじゃなくて、できれば長時間の散歩とか動脈硬化を予防できるような有酸素運動ができるように。

阪本:目標は健康ということですね。

藤谷:病気付き健康というか、一病息災というか、中高年の今後の健康も守らなきゃいけないわけです。1回脳梗塞が終わればゴールではなくて、その先の人生の健康の維持まで考えるのが、リハ科の医師だと思っています。

倉科:私も、リハ科医師のすごく大事な仕事の一つとして、生活とどうつなげるかということだと思っています。

藤谷:そう。そして、その生活は、生活だけじゃなくて、健康を維持する生活ということになる。

倉科:退院された後に、そのままスムーズに生活に戻れる人たちばかりではなくて、ちょっと難しいほうにいかれたりという人たちをできるだけスムーズに戻れるように外来の中で見ていらっしゃるのですね。

藤谷:やがて、我々から卒業できるように。自分で自分の内科医と交渉できるように。

倉科:そのサポートをしていくということですね。

藤谷:何を提供できるかというと、薬でもなく、訓練を提供するのでもなく、そういう折々のアドバイスだったり、問題点の整理だったり、なんです。

阪本:地域連携はどのような感じでなさっていますか?

藤谷:急性期の医療をしていると、急性期から回復期という流れもあるけれど、ダイレクトに自宅に退院することも多いです。誤嚥性肺炎とか、いろいろな内科疾患で、再発入院を予防するのに、地域連携は重要視しています。

でも、再発予防で地域のレベルがアップするということは、結局、入院前の予防につながります。いつの間にか痩せてきているとか、いつの間にか咀嚼機能が落ちて、タンパク質がとれていないとかをきちんと拾うことができれば、初回の入院自体が減るんじゃないかと思っています。

腎臓が悪いからといって安静にしてて、いつの間にか筋力落ちているとか。そういうことを防ぐ目が増えることが結局は急性期への入院を防ぐ。急性期をやっていると、なんでもっと前に、という方もおられるので・・・。

阪本:一度自宅で虚弱になって来られた方が、急性期病院に来られて、なかなか元には戻らない。

藤谷:そう。1回破綻して入院しちゃうと、戻すのがとても大変だから。破綻しないでほしいなというのは、急性期でリハ医をやっていると非常に思います。

 

 

急性期から地域へつながる

倉科:地域医療との関わりで、藤谷先生がおっしゃったように、予防という視点はとても大事だと思うのですけど、先生ご自身の取り組みで、地域医療の中で予防という視点で何かされていることはありますか。

藤谷:今は、急性期病院にいるので、とにかく誤嚥性肺炎の方がたくさんいますよね。リハビリにあまり意欲がない方もいる。そういった誤嚥性肺炎の方には、栄養サポートとか、包括的なことがとても大事です。また、入院自体が廃用を作ったり、完全にお治しできないで地域にお返ししてるわけで、再発率も高いです。

だから、かかりつけ医、在宅での体制がすごく大事です。また、在宅の社会化で、老人ホームがすごく増えているでしょう。在宅でも、家族だけに説明すれば済む時代ではなくなっています。多職種によるしっかりとした情報提供をすると、再発率も下がる。逆に言うと、そういう地域をつくれば、家に帰ってからも治るかもしれないし。1回目の肺炎のときによーく相談しておけば、次に肺炎を起こしたらどうするか、2回目、3回目とだんだん下り坂になって、ACP(Advance Care Planning)についても考えていくことになるでしょう?もしかしたらノーマークで誤嚥性肺炎を起こした人だったら、地域も含めて取り組めば、発症前よりいい状態をつくることができるかもしれない。そういう地域の力がつけば、初発の発症自体も予防できるかもしれないでしょう?この高齢社会、みんなが一触即発なわけですから。

新宿区は、医療圏としては独立性に乏しくて、近くに大病院が複数、東大、女子医大、慶應大学、東京医大があるけれども、回復期リハビリテーション病院は多くない。でも、新宿区で勉強はいっぱいできる。あと、病院が多いので、病院と医師会の連携の余地があったことや、ケアマネット(ケアマネージャーの連絡会)というのがとてもよくできていたこと、訪問看護連携会というのもとても実績があったので、いろいろと連携ができました。

新宿区で取り組んだ「ごっくんプロジェクト」(摂食嚥下機能支援の取り組み)では、各種団体に声掛けして、頂点をつくるのではなくて、底上げということで、年1回の研修会をして、連携支援ツールを作りました。そして、新宿区嚥下診療機関名簿を作って、啓発リーフレットや相談窓口をつくって啓発活動をしました。区の計画に結果的に組み込まれたので、区のホームページにも出て。グループワークをしたり、連携ツールの紹介で動画を作成したりしました。

たとえば、ある動画でうちのSTも、患者さんの奥さんの役として登場したのだけれど、「むせますか」と尋ねると、奥さんは「むせます」というけど、ご主人は「むせない」と言う、みたいな現実的な動画を見てもらったりしました。年によって、下り坂症例を検討する会や低栄養のことを勉強する会もしました。通所施設のお昼ご飯をいかにするか、施設の方にしゃべってもらうとか、区のいろいろな人にしゃべってもらう企画をやりました。

私は最後のQ&Aぐらいを担当するのだけれど、総合司会は里宇先生(慶応義塾大学リハビリテーション医学教室前教授)で。そのプロジェクトの周辺で、医師会での市民公開講座もしたし、歯科医師会やケアマネットでの勉強会をしたし、お互いに呼び合って。

 

 

司会(藤原):顔の見える関係ですね。

藤谷:そうそう、顔の見える関係で。そのつながりで、里宇先生が取り組んでいた災害リハビリテーション研究会でも、災害時の嚥下食特集をしました。例えばデイケアで、うちは食事は出しませんと思ってるところがありますよね。でも、もし災害が起きたら、その患者さんが夜まで残って食事が必要になるかもしれないでしょう?

阪本:そうですよね、帰れなくなりますね。

藤谷:だから、おやつも1か月分ぐらい買い置きして、タンパク質の多いクッキーにしておくとかね。「災害用」の商品はあんまり嚥下食向きではないので、ローリングストック方式のモデルを作ったりするなど、みんなで取り組みました。

地域という輪があって、その中の一部が病院なのです。私たちは患者さんの入院ということに関しては急性期だけど、そうでないときに、頼まれたら検査をするとか、頼まれたら往診に行くとか、そういった我々の持っているちょっと手厚めの専門的資源を地域で使ってもらうためにあると思っています。

患者さんの行き来だけじゃなくて、病院という資源、例えば栄養士さんは病院には多いから、退院後はクリニックがかかりつけになっても、栄養指導だけは病院に来てもいいし。

倉科:地域で活動する際のコツのようなものはありますか。

藤谷:続くようにするには、あんまり頑張らないのがコツでしょうか。無理しない。

倉科:続けるのって、やはりとても大事だと思います。

藤谷:だから、そのためには、会う約束をするというのも大事ですよね、半年先でも。会ったら話すでしょう。連絡を新たに取るのは大変だけど、定期的に会っていれば、つながっていくので。

 

 

効果を測る〜評価法と医工連携〜

倉科:あと、実行したプロジェクトがいいものだったのか、あるいはちょっと悪かったのか、そういった評価というのが大事なのかなと思うのですが。

藤谷:「ごっくんプロジェクト」では、開始時と一定期間後に、ケアマネさんに、嚥下障害の患者さんがいたときに、あなたはどこかに紹介できる自信がありますかというようなアンケートをとりました。

ケアマネ自身が嚥下障害への対応ができなくても、嚥下障害を見つけることができて紹介できるケアマネが増えれば、このプロジェクトの目的は達したことになる、という考え方です。栄養指導が増えたかどうかも調べましたが、訪問栄養指導の数はもともと栄養士の数が少ないのが律速で増えなかったので・・・。

倉科:そういったリハビリの研究で何をどう評価するのがいいのかなって、すごく難しい部分はあるなと感じています。その辺りを藤谷先生はどういうふうになさっているのでしょうか。なにかコツなどあるのでしょうか。

藤谷:評価できないと研究にならないので、評価をするということはすごく大事です。私は急性期病院で働いていて、入院患者さんを対象とした評価については、レントゲンなどの検査だったら、主治医に指示を出してもらわないといけない・・・。

倉科:はい。

藤谷:だから、嚥下ならSTが簡単に評価できる方法、呼吸リハビリであれば、PTが簡単に評価できる方法をと思い、胸郭可動域計測装置、それから呼気力を測る計測器も作りました。それはもう実際に市販されています。スパイロメトリーも持っていて、PTが測れるようにしています。それからピークフロー、咳嗽力も測って。

STに関しても、測れるのがVFとかVEを必要とするものだったらなかなか頻繁にはできない。だから計測できるものはなるべく用意していて、体表から喉頭挙上の距離を自動計測する機器を何年もかけて作っています。それから、シャキア・エクササイズ(頭部拳上訓練)の筋力の計測も試みています。急性期ですので、交絡因子の入らない比較的短いスパンで変化が得られそうなもので、かつセラピストが測れるものの開発を頑張っています。

阪本:先生、先ほど、作るって言われたじゃないですか。測定機を作るってどういうことですか。

藤谷:胸郭可動域が測れればいいなということを、言い続けるわけですよ。

阪本:独り言じゃ駄目なんですね。

藤谷:医工連携のマッチングの会などで、リハビリで使う機械のニーズがあれば作りますという企業との接点があります。そういうときに、ニーズとして提出したり、しゃべったりしていると、興味を持った企業の方が来てくれるわけです。

もちろん、面接して、それっきりのところもたくさんありますが、あきらめずにやっているうちに、じゃあ作りましょうかというところが出てきてくれると、形になるわけです。測定して、可視化できれば患者さんが喜ぶ。数値化というのはとてもうれしいことですね。

倉科:逆にネガティブに働くことはないですか。数値が落ちたというふうに可視化されると、いいことばかりではないこともあるかなと。

藤谷:まあ、そこは言いようで(笑)。「悪くなってないのがすごいよ」とか、たとえ多少下り坂でも「毎日10回練習しているのは、すごくあなたのためになっていると思う」とか「続けてくれてありがとう」とか。

倉科:大事ですね、それ。

藤谷:そう。

阪本:すごい。やっぱりリハは明るいですね。

 

 

医師としての役割

藤谷:そう、リハは明るいのです。たしかに下り坂の人はいます。筋疾患の方で、初めは嚥下のことでいらして、むせたり誤嚥が減ればいいでしょうということで、ピークフローのチェックを続けて。でも、だんだん歩けなくなって、サポーターをしようか、ロフスト(ロフストランドクラッチ)を出そうか、手帳(障害者手帳の診断書)を書こうか、1回骨折してどこかの病院に入院したけど、また戻ってきて、転んだからヘルメットを入れてとか、下り坂になりながらも、その時々のできることがある。

あと、介護者のお母さんに何かあったときのために、そろそろショートステイを使ったほうがいいんじゃないかとかいうことも。お母さんは言いたくてたまらなくても、お母さんから本人には言えないから、私のほうで言います。そろそろリスク管理したほうがいいよと。あなたがまだ元気なうちに、ショートステイに慣れておいたほうがいいんじゃないって。あなたならきっとできるよ、大丈夫。ショートステイを練習しておくと、お母さんが何かで緊急入院しても大丈夫だし・・・と説明します。

阪本:突然のことで初めてのショート利用となると、本人さんもすごく不安な中、さらに不安みたいな感じになりますよね。

藤谷:長いこと患者さんを見ていると、親御さんがご自分の将来を考えて、息子のことをこういうふうに思っているんですけどとか、ご自分が考えていることをただ話していくだけの方もおられます。私のほうでは「いい考えだと思いますよ、今ならできますよね」とか言って、それを本人にも伝え相談に乗ったりしています。家族でも言いにくいことがありますけど、話し合う必要があることはありますので。

いつか下り坂が来ます。下り坂はつらいけど、つらいからといって医者のほうが放り出したらもっと大変だし、医者のほうが放り出さなくても、私たちより若い患者さんだったら、いつか私たちのほうが先に引退するわけだから、なるべくほかに相談相手をつくれるようにとか。

訓練に興味があるというのもリハ医だけれども、リハ医はやはりセラピストじゃなくて医者だから、医者というのはその人のいろいろな意味での健康を気にすることができる、GP(家庭医)的な役割も大事だなと思っています。

 

 

ひょんなことから?導かれたリハビリテーション科医への道

倉科:藤谷先生は神経内科から始まって今はリハビリ科、そのあたりの経緯を伺えますか。

藤谷:それね、ひょんなことで決まったんです。大学のとき、夏休みの2週間、好きな病院へ行ける実習があって、地域医療で有名な信州の佐久総合病院に行きたくて、そこと、そこから近い鹿教湯温泉病院(現在の鹿教湯三才山リハビリテーションセンター鹿教湯病院)に行ったんです。その鹿教湯病院に神経内科出身の先生がいらして、いっぱいお話をして楽しかったのね。

そうしたら、その先生が「僕は信州大学の神経内科で塚越廣先生という先生に習ったよ。今は東京医科歯科大学におられるので、塚越先生に会ってみれば」とおっしゃったので、なにか機会があったらお会いしたいと思いながら帰ってきました。それで、夏休みが終わった後に学部長面接というのがあって、その席で「リハビリ病院に行ったら、いい先生がいて、神経内科の塚越先生に会ってみたらと言われたんですけど」と言うと、「おう、そうか。リハビリと言ったら、上田(敏)先生だな」とおっしゃって。

その場で東大の上田先生にジーコロお電話なさったのだけれど(当時の電話はダイヤル式(笑))、上田先生は、2年間ほかのところで研修した後でないと採らないとおっしゃったので、またジーコロ回して、東京医科歯科大学の塚越先生のところに、「いや、2年間おたくで神経内科を研修してから、リハビリに行きたいっていう子がいるんですけど」と言って、「よし、話決まったぞ」ということに。

阪本:すごい。一瞬で。

藤谷:その場で決まりました。

司会(藤原):流れですか?

藤谷:流れ。でも、もともと高齢者医療とかには興味がありました。あと、琵琶湖方式とか、リハビリにも新しい方法があるのかな?という時期でもあったし。でも、リハビリの世界に入ってみたら、何よりも、教科書でいいと書いてあるのに行われていないことがこんなにある、という業界でした。早期離床も、廃用症候群も、書いてあるけど実行されていない、やれることいっぱいあるなと思いました。

新しいことをやるのもすごいかもしれないけど、新しくないことでもやっていないことがいっぱいあるから、まずそれをやるだけでもすごくいいだろうなと思って。でも、そのうちに、いろいろ新しい発見や訓練方法もあるし、リハビリって、やることが型にはまらずにできるでしょう。患者さんにいいと思うことは何でもできる。

阪本:そうですね。フットワーク軽いのがいいですね。

藤谷:で、自分でできなければ、他の科に頼んでもいいわけ。だから、いいなと思ってそのままいるの。ただ、リハビリ科に行くって言うと、当時は「なんでリハビリ科行くの?(女性だから)小児科とか内科とか行かないの?」と言われました。うちの親からも「リハビリってお医者さんがやることなの?」と言われたんです。

それで、脳外科医の叔父の意見も聞きたいって母が主張しました。そうしたら、叔父は「いいんじゃない」と言ってくれました。「僕の周りの女の先生は内科医が多くて、患者さんに塩分摂るなとがみがみ言って、もう眉間にしわが寄ってる。リハ医っていうのは、患者さんに“よかったね”と言ってばかりで笑いじわが寄るから。」と。

一同:ははは(笑)。

藤谷:それで「よかったね」と言い続けるリハ医になりました(笑)。

 

 

リハビリテーション科医ならではのアセスメント

倉科:藤谷先生は、リハ科の専門医というのは、これから何ができないといけない存在だと思われますか。

藤谷:リハビリで困ったときに、答えられなきゃいけないですよね。コンサルトされたときに。即答できなくても、ちょっと待ってくだされば調べてきますって言えなきゃ。たとえば感染症でも、ウイルスが得意な人と真菌が得意な人がいるように、全てに通じてなくてもいいと思いますが、調べ方やその原則はわかっていないと。雇われているところで必要な仕事をまずすることが本務だと思っていますが、雇われているところが回復期リハなのか、急性期病院なのかによって、求められていることが違ってきますよね。

あとは、結局、人間が動くのは、筋肉・骨格構造の運動器系、心臓・肺のエネルギー系、それから命令を出す脳からの神経系の3つの仕組みからだと考えています。例えば、「歩けません」という訴えのとき、息切れして歩けないのか、痛くて歩けないのか、動かそうとしても動かないのか。じゃあ、なぜ息切れするのか、どうして痛いのか、軟骨なのか、炎症なのか、とか。動かないのは、筋力低下なのか、麻痺しているのか、中枢性麻痺なのか、末梢性麻痺なのかとか、いろいろあるでしょう?

司会(藤原):そこを、ちゃんとアセスメントができるというところがリハ医の強みですよね。ジェネラルに全体を見ることができて評価できるというのが、やはりすごくいいということですよね。

藤谷:全体を見て病態を考えるという視点が大事。嚥下も、以前は脳神経系の問題と思われていたけど、いわゆる高齢者の摂食嚥下障害は、嚥下反射はあっても、るい痩のため圧がかからなくなる、筋肉のボリュームの低下が原因であることがわかってきて。舌の圧が足りないとか、内腔が広くなって圧がかけられない。誤嚥性肺炎も、咳反射が起きても、吹き上げるパワーが弱いのが問題だとか。

阪本:山陰地方は、だいたいそれです。

藤谷:あと、寝てばかりいると下側肺症候群になるとか、ずっと寝ていたら口が開いたままになりやすい、顎関節のアライメントによる問題とか。

阪本:冬になると、皆さんお家にこもられて、春になって、ええっと驚くような状態で病院に来られたりとか。主訴は、「歩けない、食べられない」みたいな。

藤谷:そう。だから、そういうのをどうするかですよね。みんなでネットでつないで、足踏み大会やる?

阪本:ネットがつなげないんです。

藤谷:じゃあ、あれじゃない?夕方5時の。

阪本:それです。防災無線です。

藤谷:防災無線で、皆さん、朝6時半です、椅子に座ってでもいいから、こうやりましょうとか。

阪本:町民体操があります。

藤谷:町民体操やりましょう。

永田:プロジェクトが決まりましたね。

阪本:町民体操、案外、根付いてます、もう(笑)。

藤谷:根付いてる町民体操、大事です。丁寧にやれば、町民体操のこの運動で何々筋が鍛えられ、肺活量が上がります、とか。町民体操は大したことなんだ、とっても大したことなんだよって。

永田:とっても大したこと。

司会(浅野):さて、阪本先生のところの新たなプロジェクトも無事に決まったところで、お話はまだまだ尽きないのですが、残念ながらお時間が来てしまいました。最後に、インタビュアーのお二人から本日のインタビューの感想をお願いします。

阪本:本日は大変貴重なお話と病院見学、誠にありがとうございました。藤谷先生の笑顔と明るさ、目の前の患者さんのためにどんどん物作りされる行動力、物作りされた機器で客観的評価をして患者さんにフィードバックされる誠実さ、本当に勉強になりました。

「歩けない」という主訴に対して、運動器系、エネルギー系、脳神経系と鑑別していく、まさに大事なところですよね、響きました。ありがとうございました。

倉科:本日はお忙しい中、沢山の貴重なお話を聞かせて頂き本当にありがとうございました。研究の話、地域連携の話と話題が尽きることなく大変楽しく、刺激的な時間でした。1つ先を進んだ取り組みや、何よりもそれらの多くの活動を、リーダーシップをとって形にされる藤谷イズムに大変感銘を受けました。

短い時間ではございましたが、「こうありたいな」と自分の思う医師像に、幾つもの新しいピースが加わりました。今回の学びを大切に、これからも精進して参りたいと思います。
 

 

 

インタビューをふりかえって

「もしよかったら、研究中の米粉ゼリーデザートというのを皆さんに召し上がっていただこうと思って」インタビュー開始前に、開発中の嚥下食「米粉100%ゼリー」の試食の機会をご用意くださった藤谷先生。もちっと、ぷるっと、とてもおいしいゼリーに皆で「黙って」舌鼓をうち、緊張も一気にほどけました。

 

 

 

和やかな空気の中、紙面でご紹介した他にも、糖尿病患者さんのための靴作りや、Long COVIDへの取り組みなど話題は多岐にわたりました。すべてをご紹介できないのが誠に残念ですが、リハビリテーション医学・医療の大きな可能性を感じられるインタビューとなりました。本当にありがとうございました。これからもどうぞよろしくお願い申し上げます。

(浅野由美)