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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第24回「この先生に聞きたい!」女性リハビリテーション科専門医キャリアパス

 

日時 2019年8月2日(金)
場所 岡山大学病院 リハビリテーション科
ゲスト 千田 益生 先生(岡山大学病院 総合リハビリテーション部 教授)
インタビュアー 吉岡 尚美 先生(南昌病院 リハビリテーション科)
小澤 里恵 先生(千葉県 千葉リハビリテーションセンター リハビリテーション科)
司会 永田 智子 先生(島根県立中央病院 リハビリテーション科)
堅山 佳美 先生(岡山大学病院 総合リハビリテーション部)
オブザーバー 大串 幹 先生(兵庫県立リハビリテーション中央病院 リハビリテーション科)
中馬 孝容 先生(滋賀県立総合病院 リハビリテーション科)

ごあいさつ
高度先進医療は分からないことの連続 きめ細やかに話し合い、問題を共有することが大切
院内、部内、チームが仲良く 顔を見ながら話ができる環境を目指す
まずはよく聞くこと 引き出しを増やし、トライし続ける努力を
ロボットリハビリテーションへの期待
1チーム3名 話しやすく聞きやすい組織づくり
印象に残る患者さんのエピソード 頑張る姿に学ぶことは多い
つらくシビアな症例 雇用問題等、喫緊の課題について
寝たきりや認知症患者 リハビリテーションへの意思をどうとらえるか
筋肉への興味からリハビリテーションを選択 これからの研究ビジョンについて
リハビリテーション科医の仕事は何か 若い医師に伝えたいメッセージ
インタビューを終えて 参加者よりメッセージをいただきました

 

 

ごあいさつ

司会(永田):ただいまより、令和元年第1回目のリハビリテーション科女性医師ネットワーク・RJN委員会企画のインタビューを開催します。本日司会を務めさせていただきます島根県立中央病院リハビリテーション科、永田と申します。よろしくお願いします。本日のゲストは岡山大学総合リハビリテーション部教授の千田先生です。ひとことご挨拶をいただけますか。

千田:岡山大学の千田と申します。今日はインタビューに来ていただいて感激しております。どんな話ができるか分かりませんがよろしくお願いします。

司会(永田):さて、本日のインタビュアーは南昌病院リハビリテーション科の吉岡尚美先生と千葉リハビリテーションセンターリハビリテーション科の小澤里恵先生にお越しいただいております。簡単に自己紹介をお願いします。

吉岡:岩手県から参りました吉岡尚美です。今日は子どもも同席させていただきありがとうございます。平成10年秋田大学卒で、最初は糖尿病内分泌内科に入局したのですが、30歳でリハビリテーション科に転科しました。現在は岩手県内のリハビリテーション病院で回復期リハビリテーション病棟の専従医師をやっております。よろしくお願いします。

小澤:小澤里恵と申します。千葉県の出身で千葉大学を卒業し、亀田総合病院で初期研修をし、そのまま亀田総合病院のリハビリテーション科に入りました。今は千葉リハビリテーションセンターで院外研修をしており、10月から千葉大学で専攻医研修の予定です。医師4年目で専門医制度が変わって初めての代かと思います。勉強中です。どうぞよろしくお願いします。

 

 

高度先進医療は分からないことの連続
きめ細やかに話し合い、問題を共有することが大切

司会(永田):早速ですが、お二方には千田先生への質問を事前に準備していただきました。吉岡先生からよろしくお願いします。

吉岡:先ほど病院を案内していただきましたが本当に素晴らしい施設でした。こちらでは移植といった高度な医療をなさっていますが、その際に行われるリハビリテーションについてぜひ教えていただければと思います。

千田:高度先進医療というのは、皆さまご存じのとおり日本で最初に行われた肺移植などが典型的なものです。高度先進医療を最初にやるということは、つまり全然分からないんですね。僕らも分からないし、病院全体も最初はよく分からないけれど一所懸命やらざるを得ないという感じ。だから、典型的なリハビリテーション医療というものはなかったわけですが、そのときどきに中心になる人物がいますので、例えば肺移植なら外科の非常に優秀なドクターを中心としてチームを結成しました。このチームがツーツーカーカーの状態で機能することがすごく大事です。高度先進医療だからこうだというものではないですが、施設で最初に未知のことをやる場合、皆が同時に問題を共有することが一番大事。分からなかったらすぐに聞く。こういう場面はどうするか、こっちがいいのではないかと事細かに話し合って進めていく。そういったきめ細やかさは高度先進医療におけるリハビリテーション医療の特徴ではないかと思いますね。

最初は岡山大学の中でも皆すごくぴりぴりしていました。失敗は許されない。ここで失敗したら移植が何年遅れるか分からない。病院全体が本当に緊張した雰囲気でしたね。でも、そのことはすごくよかったと思います。外科医も素晴らしいのですが、岡山大学病院というもののチームがすごくいい。岡山大学病院のリハビリテーション科が、輪っかの一つを担っているのだという意識が大事かなと思います。

高度先進医療は皆がうまく動かないとよくない。そういう意味ではどこの病院でもできるし、どこの病院でもできない部分もあると思います。それなりの覚悟はいりますね。でも、すごくやりがいがある。肺移植前は全然動けなかった子が移植後の退院間際にはバスケットをして帰りますから。高度先進医療はそれだけ威力のある医療です。チームで一緒にできることは幸せな気がしますね。

 

 

 

院内、部内、チームが仲良く
顔を見ながら話ができる環境を目指す

小澤:先進医療においてチームが大切だということを伺いました。その中で何か気を付けるべきことがおありでしたら教えてください。

千田:一番大事なことは皆が仲いいことですね。どんな場面でも「あいつ嫌いやな」ではなくて、「ちょっと困っているんだ」と言われたら、できる限り要求に応じる姿勢が大事です。お互いにあの人はいい人だなと思い合えるよう心掛けたらスムーズに行くのではないか。

司会(永田):チーム全体で仲良くやる。何か秘策をお持ちですか。

千田:秘策と言いますか、うちではPERIO:perioperative management center(ペリオ)ということを手術の前からやっています。もともとは麻酔科の病院長が中心となって月1回集まってご飯を食べながら話しましょうという取り組みでした。病院長も教授連中も看護師さんも理学療法士も皆いる場で「こういう問題があってね」と顔を見ながら話すことが大事かなと思いますね。

司会(永田):先ほどの施設見学で2020年が開学150周年とおっしゃっていました。歴史ある建造物の中にもコミュニティースペースがたくさんあり、空間が整備されていると感じました。

小澤:あそこまで広々とした患者さんのスペースはなかなかありませんよね。眺めもよくてすごく素敵です。

千田:うちも決してずっと前からあったわけじゃないですよ。新しい建物をつくるときに患者さんのスペースが必要と考えて、先ほどご案内した11階の患者図書室やスカイラウンジができました。岡山大学病院も新しく変わっていっている、「チェンジ」していっていると思います。ああいうところは自慢できますね。

司会(永田):歴史的な建造物を残しながら、近代的な施設やコミュニケーションスペースを取り入れていらっしゃる。素晴らしいことですよね。

 

 

まずはよく聞くこと
引き出しを増やし、トライし続ける努力を

司会(永田):それでは吉岡先生、次の質問をお願いします。

吉岡:リハビリテーション医療のチームにおいては、リハビリテーション科医がリーダーシップを取っていく必要があると考えております。リーダーシップを取る上で何かアドバイスをいただければと思います。

千田:リハビリテーション医学・医療において、リハビリテーション科医は当然リーダーになるべきなのですが、まずは「よく聞く」という作業が非常に大事だと思いますね。患者さんや家族の話をよく聞く、セラピストの意見もよく聞く、主治医にも疾患に対する制限をよく聞くという作業です。よく聞いて調整していく。リーダーシップを取る上では、コミュニケーション能力がものすごく大事。こちらの主張をがーっとするのではなく、ちゃんと話を引き出す雰囲気で聞くことが大事だと思います。まずしっかり意見を聞いて何もかも飲み込んだ上でアドバイスをするなり、自分の方向を決めるなりすべきです。

それから、リーダーである限り、引き出しをたくさん持っておくべきです。患者さんを治す上で、例えばどうやって立たせるか。どうやって歩かせるか。これはうまくいかなかった。ではこっちはどうだろうと次々と手段を示す。これはリハビリテーション科医がリーダーをやる上で大事なことです。皆で話し合って、「困った困った」では駄目ですからね。ここはこうだからこうしたほうがいいのではないかと言えることが大事。そのときも従来どおり同じことをやるのではなく、トライするイメージが大事かと思いますね。理論的に考えた上でこの手段に変えましょうという提案ができないとリーダーとしてはいけないと思います。理論的に正しかったのかという検証も大事ですが、まずはいろんなことをやってみるのは非常に大事ですね。

司会(永田):小澤先生は4年目でいらっしゃいます。リハビリテーション科で若くしてリーダーシップを発揮する上で、大先輩でいらっしゃる千田先生に聞きたいことはありますか。

小澤:今は回復期病院におり、患者さんの担当はまだやりやすいのかなと思いますが、急性期病院は難しいのかなと思います。主治医の先生との関係など、どう関わっていったらいいのか悩むことがあります。

千田:僕らは逆に、それは全然苦にならないですね。主治医の依頼を受けたら「何かこちらでしちゃいけないことはある?」と聞いて、「これはやめてね」という情報がちゃんとあれば、要するにそれ以外はやっていいからどんどん進める。座ったり立ったり起きたり、積極的にやっていますよ。主治医と意見交換する場面が往々にあればいいけれど、リハが始まったら平均在院日数は1週間という短い中で仕上げていくので、最初に指示を出したら「問題があれば言ってください」というかたちです。いつ主治医に相談するかといったことはないですね。患者さんは寝かせていたらいけないし、急性期は早く帰そうというせわしない感じもあるかもしれません。だから回復期を診ているあなたがうらやましい気がします。

司会(永田):先ほどの施設見学のときも千田先生はすごくフットワークが軽くて。スピーディーにお仕事をされている印象です。

千田:そうでしたか。今日、外は暑かったからね(笑)。

 

 

ロボットリハビリテーションへの期待

司会(永田):それでは吉岡先生からご質問お願いします。

吉岡:ロボットリハビリテーションについてお伺いします。AIやVRを使った治療は今後必須になっていくでしょうか。

千田:ロボットでなければできないことは何か。一般的には回数ですよね。繰り返しトレーニングをやる場合、人がやるのは大変だからロボットでやってもらうとか、複数の情報を瞬時に処理できることがロボットリハビリテーション医療の利点です。だんだん必須アイテムになってくると思いますよ。だけど、人がやったほうがベターな状況は絶対にある。ロボットを用いないといけませんということはないと僕は思います。必須になっていくかもしれませんが、人間のほうがいい場面もたくさんあるのではないか。介護にロボットは非常に役立つと思いますが、リハビリテーション医療に関してはそんなにロボットに支配されることはないと思いますね。

小澤:ロボットリハビリテーションを先駆けてやる施設で勤務したことはないのですが、やはり人のほうがいい場面があるというお考えを聞いて勉強になります。

千田:施設にああいう機械があるとかっこいいけれどね。

司会(永田):新しいものと従来の人の手によるリハビリテーション医学・医療が共存していくということですね。

 

 

1チーム3名
話しやすく聞きやすい組織づくり

司会(永田):現在、療法士のスタッフは大学に何人いらっしゃいますか。

千田:PTが28名、OTが6名、STが4名、看護師さんが1名でしょうか。

司会(永田):40名ぐらいの所帯のトップリーダーでいらっしゃいますが、チームを取りまとめる上のコツはありますか。千田先生がいらっしゃるだけでまとまるかもしれませんが。

千田:そんなわけはない(笑)。だから考えて、3名の小さなチームに分けました。「ベテラン、ほどほど、若い」をひとまとめにしたチームを組織して、分からないことがあったら聞く。最終的に分からないときは僕のところに来たらいい。OTやSTはこじんまりしているので大丈夫だけれど、PTは人数が多いので特によかったです。若い人が分からないとき、まずはこの人に聞く、その人が分からない人がこちらに聞くという組織をつくることで気安くやってくれるようになりました。

司会(永田):リハビリテーション部門のスタッフが急速に増えてきた中で、チームを組織してマネジメントされているのですね。若いスタッフが小さいチームの中で先輩に分からないことを聞いて、その中のリーダーがドクターに相談するかたちでしょうか。

千田:そうですね。

司会(永田):大変参考になります。

 

 

 

印象に残る患者さんのエピソード
頑張る姿に学ぶことは多い

司会(永田):次は小澤先生からお願いします。

小澤:新しい専門医の試験でSEA(Significant Event Analysis)、自分自身の感情面に焦点を当てて症例を書くという課題があります。日々勉強させていただく中でどういった症例を書こうか悩みながらやっているところです。千田先生がSEAを書かれるとして印象に残る患者さんのエピソードがあれば教えていただければと思います。

千田:印象に残るエピソードはたくさんありますね。たくさん言ってもいいですか。1例目は手足がない患者さんです。絞扼輪症候群で手が上腕しかなく、足がない男の子のリハビリテーション担当医として受け持った。成長に従って義足をつくりました。義足をつくらないと歩けませんからね。お母さんもすごくいい人でその子もシャキッとした子でね。義足で歩けるようになりました。

では次に義手をつくろう、能動義手、電動義手といろいろなものを見たのですが、全然必要なかったんですよ。彼は上腕しかないが字も書けるし鶴も折れるんです。その彼が最近になって義手が欲しいと言い出しました。なんでだか分かりますか。キーボードも叩ける、スマホも上手でコスメティックな面も大丈夫なのですが、車の運転ができないんですよ。それで義手をつくろうということになりました。今も元気にやっていますよ。18歳でコンピューターの専門学校に行くと言っていました。彼にはすごく教えられましたし、許してくれれば学会で紹介したいですね。僕らが思っている以上に上腕だけでいろいろできることを見てほしいし、そうやって頑張っている子がいることを知っていただきたいですね。

もう一人の彼女は、JRA、若年性関節リウマチで中学生ぐらいまで全然動けなかった子です。ずっと車いすで足も全然動いていなかったのですが、リウマチ科でTHA、人工関節を入れるという話になった。筋肉も弱っていて大丈夫かなと思いましたが、入れたら本当によくなりました。うちに入学して製薬会社に就職して、東京で結婚して赤ちゃんもできました。リウマチで全然動けなかった子でもそういったことが可能なのです。

 

 

つらくシビアな症例
雇用問題等、喫緊の課題について

千田:整形外科では骨肉腫でよく若い人が死んでいきました。患者さんが亡くなるのはやっぱりつらいですね。手術前に「先生、帰ってきたら寿司いっぱい食わせてくれるか」と言って見送った子が帰ってこなかったことがありました。そういった思い出もありますね。

また、ある中年の女性ですが、Os odontoideumって分かりますか。歯突起が後ろにいって押さえ込まれた脊髄がぺちゃんこになってしまった症例がありました。患者さんのご家族に高校生ぐらいのお子さんがいて、麻痺が来るかもしれないので手術をしましょう、ただし手術をしても麻痺がどーんと来て動けなくなるかもしれないとしっかり言って手術に入りました。そのとき僕は脊椎外科をやっていたんですね。一所懸命やりましたよ。脊髄はぺらぺらだったので手術できちっと留めたのですが、結局は意識はあるがすべて動かない全麻痺になってしまった。酸素ボンベを押しながら救急車に乗せて送りましたが、そのときの息子さんの顔はなかなかつらいものがありました。納得して手術をしても、実際にはすごくシビアです。

それから、つい最近、めちゃくちゃ考えなければいけないと思った症例がありました。僕は更生相談所の仕事もしていて、あるお父さんが話を聞いてほしいと来られました。Achondroplasiaって分かりますか。軟骨無形成症といって全身の骨の成長の病気で、手足が短く低身長になる病気です。高校3年生のお子さんは、卓球もして友達もいて、元気にやっているが、高校を出て就職するときに企業に雇ってもらえないと言うんですね。

お父さんはこの子は身体障害者の手帳は持てないのかとおっしゃる。この病気というだけでは、身体障害者に当たらない。彼に落ち度がなくても雇ってもらえないことは彼にとって不利益です。身体障害者手帳を持っていれば身障枠で入れるじゃないですか。他の何らかの方法がないか。理事の先生や患者の会にいろいろ聞きましたが難しい面があり現実的になかなか動かない。でも、こういう人がちゃんと生きていけるように、何かを変えていかないといけない。このままでいいはずはないということを最近強く思っています。

 

 

寝たきりや認知症患者
リハビリテーションへの意思をどうとらえるか

千田:それから、皆さんも経験があると思うけれど、寝たきりで全然反応がない人には本当に意思がないのかということです。こちらからしつこく、しつこくアプローチしたら「あれは嫌だ。こうしてほしい」というサインが出て驚いた症例がありました。寝たきりでも割と意思があるので「何も分かってへんな」と簡単に思わないで、一所懸命にアプローチしてほしいですね。この人はこれが嫌だったんだ。こうしてほしいんだと分かるときがあります。

司会(永田):患者さん本人の意思ということをおっしゃいました。現在はリハビリテーション医療においても、患者さんに対する説明と同意取得が当たり前になりつつあります。認知症患者さんでも本人の思いを酌み取ることで治療内容が変わる事例もあるかと思います。小澤先生、いかがでしょう。

小澤:認知症の方が増えてきて、リハビリテーション治療を嫌がる方もいて苦労します。なるべくご本人の受け入れがいいことから始めますね。単純な筋力トレーニングは嫌でもお散歩は好きならそれをやってもらうとか。

司会(永田):吉岡先生は回復期リハビリテーション病棟におられますが、患者さんの意向に合わせてうまくいった事例はありますか。

吉岡:地域柄、農業をやってらっしゃる高齢者が多いので、患者さんの希望の中に農作業をやりたいということが入ってきます。小さなプランターでキュウリとか簡単なものを育てるとすごく表情がよくなられますね。訓練でなくてもお外で花を見るだけで患者さんの表情が変わったりしますので、そういったことが大事かなと思います。

司会(永田):うまくいった事例ですね。千田先生、急性期だと同意を取りにくい場合があるでしょうか。

千田:うちはリハビリテーション治療についての説明書を見せて同意書をもらいます。意識がない人は別ですが、こういったことが起こるかもしれません、痛かったら言ってくださいといったことを説明して同意書にサインをもらってから始めます。手術をする前も同意書をもらいますが、リハビリテーション医療も安全なことばかりではないので、きちっと同意書を取るべきという考えです。中には「せんわ」という人もいますね。「したほうがええと思うけどな。ずっと寝とってもあかんやろ」と説得するケースもありますが、無理は言わない。主治医に今回はしませんがご希望があればしますと伝えて主治医から説得する場合もありますが、ご本人がやる気ない場合はやりにくいですね。意思を尊重するというか、しないと言うならそれでもいいかなと僕は思っています。是が非でもすべての人にリハビリテーションをやるべきとは思わないですね。

司会(永田):同意書の取得はいつごろから始められましたか。

千田:僕がリハビリテーション部の責任者になってからですので、2000年ぐらいでしょうか。

司会(永田):全国的にも早いですね。

 

 

筋肉への興味からリハビリテーションを選択
これからの研究ビジョンについて

司会(永田):リハビリテーション科医になった経緯をご紹介くださいますか。

千田:学生時分、僕はあんまり勉強しないでサッカーばっかりやってました。山陽新聞社の岡山県学生ベストイレブンに6年間で2回選ばれたぐらい、サッカーは一所懸命やっていたんですけれど勉強は端っこで通ってきているので最初よく分からなくて。何に興味があるのかと聞かれて「筋肉が面白い」と言ったら、「それならリハビリテーション科だね」と言われて、「いいですよ」という感じ。そこからずっとリハビリテーション科医をやっています。あるとき教室に脊椎専門のドクターがいなくなり、スポーツをやる人がいなくなり、「おまえこっちを手伝え」と言われたので、脊椎外科やスポーツ医学はお手伝いしていた感じです。ACL、靱帯も縫っていましたが、最初から自分はずっとリハビリテーション科医であると思っています。それが一番いい。

司会(永田):ずっと岡山大学でいらっしゃいますか。

千田:3年間、高知県立子鹿園という肢体不自由児施設にいました。すごくよかったですよ。楽しかったです。

司会(永田):小児整形外科とリハビリテーション科を両方臨床されて、それで大学という流れで今日に至るのですね。先生の印象に残った患者さんは結構小児が多かったように思います。

千田:そうですね。子どもからずっと診ていると余計に印象に残りますね。僕らの力が及ばなくてもちゃんとやっている人が結構いるというのは教えられたところでもあります。そういうのは楽しいです。ただ、死なれるときついですね。リハビリテーション医学は亡くならないのはいいです。気が安らぐ。亡くなられると本当にがっくり来ますね。

司会(永田):リハビリテーションリサーチ、現在の研究面について教えていただけますか。

千田:ロコモとかサルコペニアが今すごく話題になっていますね。大事なことだと思います。現在、僕が興味を持っているのは筋肉量です。サルコペニアという筋力が減少した状態と予後の関係といったことですね。例えば肺癌や食道癌の手術をする場合、前もって筋肉量を上げておくことで予後の改善につながるという仮説を証明したいと考えています。今まで人工筋とか筋電図とかいろいろやってきましたけれど、これからは急性期の手術をやる上で体組成と予後についてデータをしっかり取っていきたいと考えています。

司会(永田):訓練室の一角にInBody(インボディ)(R)を新調されたということで体成分分析に活用されるのですね。

千田:はい。何とか工面して買うことができたので、どんどんデータを集めて発信していく予定です。2008年の『Nature』にPGC-1αの話が出てから運動を推奨していたのですけれども、その後、マイオカインが出て、やはり筋肉がホルモン的に働くのだということが分かってきた。

司会(永田):リハビリテーション医学への一歩を歩み始められたきっかけが筋肉への興味ということでした。それが脈々と続いて今日に至るということですね。

千田:そうですね。いかに筋肉が大事かということが分かってきたのでそこをもう一歩進めて研究したいなと思います。病理的にはなかなか難しいのですが、InBodyがあれば体組成を測ることでいろんなことが分かってくるのではないかと期待しています。

 

 

リハビリテーション科医の仕事は何か
若い医師に伝えたいメッセージ

小澤:千田先生のリハビリテーション科医としての生きがい、やりがいを教えてください。

千田:生きがいは、やっぱり患者さんをよくすることですね。リハビリテーション科医とは何か。障害を持っている人を何とか、助けるという言葉はあれかもしれませんが、何とかいいように生きていただくための医者だと思っています。障害を持っていても何とかいいようにできることが生きがい。困っていて、こうしてあげないといけないという人をよくすることが僕らの仕事だと理解しています。例えば、県の更生相談所、市の更生相談所はボランティアみたいなものだけれど、結局それも僕がやるべきことだと思っていてずっと続けるつもりでいます。急性期で今すぐやらなきゃいけないことをやるのもそうだけれど、障害を持っている方の相談も大切な仕事だと思っています。障害を持つ人のために自分たちはどうしたらいいのかをしっかり考えていくのが、まあ、僕の生きがいかなと思っていますけれどね。

小澤:若い先生方に何かメッセージをいただければと思います。

千田:若い人へのメッセージですか。やっぱりリハビリテーション医療はすごくやりがいがあるということです。亡くなる人が少ないというのも一つなのですが、どう実践すればよくなるのか、しっかり考えれば効果が得られる。この人はこんなこともできるのかという発見がある。すごく実のある学問だと思います。言いたいことは「しっかり考えて」ということですね。なぜできないのか考え、これをやってみようということを考えて、もっとやっていってほしい。無茶はいかんけどトライしてほしい。トライしてあかんかったらこうしよう。また考える。しっかり考えてほしいと思いますね。

それから、医者ですごく威張る人がいるじゃないですか。PTやOTにつらく当たるとか。そういうのはよくない。PT、OT、ST、看護師さんは皆仲間だと思って、それぞれにしっかり接していくことが大事。若いリハビリテーション科医の皆さんには彼らを尊重して、一緒に実践していくようにしてほしい。基本は皆仲良くやっていきたいけれど、ゆがんでしまうこともあります。うちのリハビリテーション科にもそういうことがありました。それはびしっと正さないといけない。基本は仲良くやっていくけれど、そのためにここは改善しなければいけないというときは、バシッとやる。

司会(永田):過去にゆがんだ時期があったということですが、うまくいかなかったときのブレークスルーはどういった試みをなさいましたか。

千田:結構つらい時期もありましたよ。療法士との関係でうまく統制が取れなかった。感情で言ってもなかなか通らないので、解決しようと思うのであれば、しっかり調べることですね。学問と一緒で実証して証明する。これっておかしくないかと皆で話し合いを持って、皆に納得してもらった。その後、先ほど言った3人チーム体制を始めて、その一件からすごくよくなりました。

司会(永田):理論的に考えて提案していくということに通じますね。conflictionというか、混乱期を乗り越えられた。

千田:そのとおりです。家庭でも嫌な仕事ってありますよね。ごみ捨て、イヌの散歩、水やりとか。あるとき嫁さんが体を悪くして僕が全部しなきゃいけなくなった。最初は何で俺がという気分でしたが、考え方を変えて、面倒くさいことは全部僕がやろうと思った。そうすると腹が立たなくなりました。私も手伝うよと言われると逆に気持ちがいいわけです。

仕事も同じです。なんで俺がというより、嫌なことは全部引き受ける態度のほうがスムーズ。昔は僕もよく腹が立ったんですよ。めちゃくちゃ言ってくる先生もいますから、そのたびにムカムカ来て、なんやねんと思った。でも、腹を立ててもあまり得なことはないんですよ。若い人もちょっと考え方を変えてみたらどうかな。

いつか、おみくじを引いたときにね、怒ったらいけないと書いてあったのです。「岩の上に立っていれば流れる水は行くから、それまでじっと岩の上にいなさい」といったことが書いてあった。僕はいまだにそのおみくじを教授室に置いてあります。あまりカリカリしないでじっと黙って流れていくのを待つ感じです。腹を立てても得なことはないです。だから若い人もなるべく腹を立てないように、人間が上に行って卓越した感じになると人生はもっと楽しくなるのではないかと思いますね。そういえば僕の息子がリハビリテーション科医になってくれたんですよ。それがすごくうれしい。

司会(永田):おめでとうございます。

千田:リハビリテーション科医になれとも言わなかったのだけれど、結局はなってくれた。うれしいです。やってきたことは間違いではなかったのかなと思っています。彼が僕に、教授になったときに手紙をくれて「お父さんは仕事の愚痴を家で全然言わなかった」と書いてくれた。すごくうれしかったですね。だから皆もちょっと考え方を変えてくれればいいと思います。カリカリしてお金をいっぱい集めて偉くなるより、ゆったりしてカリカリせずに患者さんを助けていく。そっちのほうが豊かでずっといいと思います。そういう感じですね。

司会(永田):運命的なおみくじですね。

千田:「岩に一段上がりなさい。そのうち川は流れていくから」と書いてあった。へえ、それはいいなと思って。どこで引いたか忘れましたが、そのときの僕にはぴったり来ましたね。確かに、腹を立ててたらいろんなことで腹が立ちますよね。だけどあんまり腹を立てるのは賢くないので、穏やかにいきたいですね。挑んでいって喧嘩しても何にもならない。患者さんにガガーッと言われることもあるけれど、岩に上がって流れる水を見ておく。言われても流す。生き方の極意という気がしますね。

司会(永田):院内のインフォメーションボードの千田先生、堅山先生のお写真が満面の笑顔でとても雰囲気がいいと感じました。若かりし頃は腹を立てることがあったかもしれませんが、今は腹が立っても流していく器の大きさを持たれているということで大変勉強になります。なかなか流すことができないんですけれども。

千田:そうですね。リーダーはちょっと抜けているぐらいのほうがいいと思いますね。忘れたり失敗したら堅ちゃんに助けてもらいますが、それはそれでいいんです。完ぺきな人はいないですし、僕は抜けているからよろしくね。カバーしてくださいと常々言っておくといい。助けてくれるようになりますよ。僕は間違えないですからと言っていると助けてくれないですから。

司会(永田):何か追加のご質問はありますか。

吉岡:主治医の先生とコンタクトを取りながらやっているのですが、先生によってはリハビリテーション科医に対するスタンスが結構違います。ほとんどお任せの先生もいれば、自分の患者さんに口を出さないでほしいという先生もおられます。難しいなと思うときもあるのですが、千田先生のお話を聞いて、やはりコミュニケーションを取っていくことが大事、それしかないのかなと考えていたところです。

千田:取っ付きにくい、嫌な感じの人もいますよね。でも、打ち解けて話せば割といい人ということもあるので、何かの折に気楽に会話をしてみる。「こんにちは。先生のおかげでこの間の患者さんすごくいい感じです」とか、ちょっとヨイショするといいかもしれない。ふんぞり返っている人は自信がない人が多い。こちらが殻をかぶってもよくないので、女性同士はどうか分かりませんが、僕は「えへへ」という感じでいきます。素直に「あの患者さんはどうなりましたか」と気楽に話しかけるのがいいと思いますよ。

司会(永田):千田先生のコミュニケーション能力の高さとフットワークの軽さで、岡山大学の最先端のリハビリテーション医療を進めてこられたのだと思います。ますますお元気でご活躍いただきたいと思います。ありがとうございました。

 

 

インタビューを終えて
参加者よりメッセージをいただきました

司会(永田):今回のインタビューもそろそろ時間になりました。まずはお二人から一言ずつメッセージをお願いします。

小澤:千田先生のお話を伺って、今の自分に足りないところは先生のおっしゃったトライするところだと思いました。もしうまくいかなかったらと行動に移せないことがあるので、まずはチャレンジする、トライするということをやってみようと思います。それから、流す。一歩上がって見てみるということも生き方も変わってしまいそうなアドバイスでとても勉強になりました。今日はありがとうございました。

吉岡:私は年数的には中堅の域なのですが、お話を伺ってまだまだ自分にもトライできることがあるなと思いました。いろいろなところに目が行きがちなのですが、もっとしっかり患者さんを見て、日々診療していきたいと思います。楽しいお話を聞かせていただきありがとうございました。

千田:いえいえ。

司会(永田):では、RJNからオブザーバーとして参加いただきました大串先生、中馬先生にお言葉をいただければと思います。

中馬:今日は本当にありがとうございました。ロボットが役立つ場面もあるけれど、リハにおいては人でも十分にやっていけるというお話がありました。これは先生が築き上げてこられたチームの力を踏まえたご発言かと思います。先進医療にパイオニアとしてトライする、守りに入らない。コミュニケーション能力を高める、引き出しを多く用意し、ちょっとチャレンジしてみる。トライということを一貫しておっしゃっていたように思います。また、スポーツマンシップに則り他人を色眼鏡で見ないというお話に、先生のお人柄を感じました。自分も改めて初心に戻らなきゃいけないなと思いました。患者さんが少しでもよくなるよう、頑張ってやってみる。今までもやっているつもりでしたけれど、まだまだトライできるかもしれないです。

大串:先生のお話は困っている人を何とかしたいということに尽きるかと思います。初期のリハビリテーション医療が大事なのは当然なのですけど、短い期間で最良の治療をわれわれは提供しなければいけない。トライアル&エラーで間違うこともしばしばある。その中でトップダウンだけではなく小さなチームを構成し、セラピストや看護師がそれぞれの勘を養うことはすごく重要ですね。医師の目だけでなく、チームの目が肥えることでPDCAサイクルをうまく速く回せるようになる。

一方、急性期に比べて患者さんが障害を持って死ぬまで生活していくフェーズはものすごく長い。千田先生は更生相談所へのかかわりを通じて、患者さんの困りごとにしっかりと寄り添う治療が必要というお話をしてくだいました。長く患者さんを診てくださっているからこその強いお気持ちが伝わってきて、自分自身、先生になら診て欲しいと思うくらいです。これからもよろしくお願いいたします。

司会(永田):最後に、千田先生と長年ともに働いていらっしゃる岡山大学の堅山先生から一言お願いします。

司会(堅山):旧制度の卒後研修のない時代でしたので、卒業して医師免許を持ってからずっと千田先生のもとで働かせていただいております。いつもすごくあったかくて、リハビリテーション科医としても社会人としても公私共に頼りにしています。ちょっとしたことも、昨日こんなことがあったんですよ、というかたちで相談や報告というより気軽な会話でお話しできています。今日のお話に出てきた思い出深い患者さんたちもたくさん一緒に診させていただきました。今後も見習ってまだまだ育てていただきます。いつもありがとうございます。

司会(永田):本日は最先端医療のお話や長年の患者さんのエピソード、部門運営についてなど、千田先生のリハビリテーション科医としての長年のご経験を大いに語っていただいたと思います。最後に先生にお礼を申し上げて本日のインタビュー企画を終わらせていただきます。皆さまご協力ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。