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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第22回「この先生に聞きたい!」女性リハビリテーション科専門医キャリアパス

 

日時 2018年9月21日(金)
場所 宮崎大学医学部附属病院
ゲスト 帖佐 悦男 先生(宮崎大学整形外科 教授、リハビリテーション部長)
インタビュアー 三苫 純子 先生(やわたメディカルセンター)
山崎 亜希 先生(自衛隊阪神病院)
司会 永吉 美砂子 先生(福岡県障がい者リハビリテーションセンター)
オブザーバー 大串 幹 先生(兵庫県立リハビリテーション中央病院)
黒木 洋美 先生(宮崎大学リハビリテーション科)

自己紹介
整形外科医でありリハビリテーション科医であること
Locomo-Call事業の推進
スポーツにおけるリハビリテーション科医の重要性
患者に寄り添うリハビリテーション科医
リハビリテーション科医へのメッセージ

 

自己紹介

司会(永吉):この企画の目的は、リハビリテーション医学・医療の領域でご活躍なさっている先生へ若手の医師から疑問に思ったり悩んだりしていることを質問し、これからの臨床に生かすご助言やご意見をいただくことです。インタビュアーの先生から自己紹介をお願いします。

三苫:石川県、やわたメディカルセンターでリハビリテーション科の医長をしています三苫です。出身は京都府立医科大学で、整形外科を専攻し専門医を取りました。都合により石川県に転居する際に、金沢大学のリハビリテーション科の先生から「リハビリテーション、いいよ!」と誘って頂きました。主体的ではないんですけれども、リハビリテーション科に転科して今に至っています。現在回復期病棟を担当し4年目となります。

山崎:山崎と申します。現在、自衛隊阪神病院でリハビリテーション科の医師をしております。出身は防衛医科大学校です。4年前から自衛隊の医科診療を続けつつ、兵庫医科大学のリハビリテーション科で研修を開始し、今年の春(平成30年)専門医を取得しました。研修医のときすでにリハビリテーション医学会に参加して、RJNのお茶会に参加して“リハビリテーション科にしよう!”と思って、最初からリハビリテーション科に入局しました。

 

 

整形外科医でありリハビリテーション科医であること

司会(永吉):それでは、先生方、ご質問をどうぞ。

三苫:帖佐先生が、医師、そして整形外科・リハビリテーション科を選ばれたきっかけなどを教えていただけたらと思います。

帖佐:祖父が医師だったこともあり、病気で大変な患者さんを身近で目の当たりにした経験を通して人助けができる医師になろうと思いました。私が入学した当時の大学病院には、重症な患者さんが紹介されてくることもあり、なかなか緩解できない患者さんもいました。一方、当時から整形外科病棟では、患者さんの手術が終わりリハビリテーション医療にて痛みがとれて歩けるようになったとか、動かなかった脚が動き出したなど、治療効果がはっきりと分かりました。

また、現在と違いその当時は、術後直ぐには退院しませんでしたのでリハビリテーション医療にて元気に退院される姿を見て、整形外科やリハビリテーション科に魅力を感じました。卒業後の進路に関しては、最初は大学病院勤務の希望ではなく、本籍の鹿児島か、生まれた宮崎に戻り開業して地域医療に貢献する予定でしたが、最終的には、ゆかりのある宮崎に拠点を置き、宮崎大学(宮崎医科大学)の整形外科に入局しました。

入局後、現在の基本領域である日本整形外科学会と日本リハビリテーション医学会の会員になりました。リハビリテーション医学会に入ったのは、保存療法、術前・術後のリハビリテーション医療やサブスペシャリティであるスポーツ医学やリウマチ学にもリハビリテーション医療が重要だと考えたからです。

また、その当時、熊本大学の初代整形外科教授であり、リハビリテーション医学の発展に貢献された玉井達二先生が宮崎大学の副学長として赴任され、現在コアカリキュラムが講義の中心ですが、宮崎大学のリハビリテーション医学の学生講義はその当時からコアカリキュラム形式で実施され、他大学(鹿児島大学・産業医科大学リハビリテーション医学講座)や他科の先生方の講義を含め、約20コマ実施という、リハビリテーション医学講座のない大学としては異例であったと思います。

私自身、運動が好きでスポーツ選手を診ることが多いことから、リハビリテーション医療が必須と感じ、また、運動器疾患の患者を診察するたびに予防医学の重要性を痛感しました。前教授の田島直也先生の指導のもとスポーツ(野球、サッカー、柔道や空手、陸上などが中心)傷害(外傷・障害)の疫学や予防活動を開始しました。

宮崎県のキャッチフレーズである「スポーツランド宮崎」をもとに「スポーツメディカルランド宮崎」をかかげ、「スポーツメディカルサポートシステムの構築」(文科省 特別教育研究経費:連携融合事業、平成19-23年度)の獲得もあり、産官学連携のスポーツ医学事業を推進することができました。学校で実施する運動器検診、ロコモ検診や野球検診などの予防事業に取り組んでいます。

また、高次脳障害関連事業に関しては、厚生労働省科研事業「高次脳機能障害支援ネットワーク」九州ブロック(代表:産業医科大学教授 蜂須賀研二先生)に参加し、宮崎県や医師会と連携しながら、高次脳機能障害支援ネットワークの構築や啓発活動を開始しました。家族会議との連携、診断未確定症例に対する大学病院での精査、リハビリテーション医療や研修講演と市民公開講座を産官学連携のもと実施しています。

専門医についてですが、整形外科もリハビリテーション科も取得することが自己研鑽ならびに患者へのフィードバックにつながると、私自身の経験も踏まえ後輩の先生方へ勧めています。

三苫:うちの病院でも野球肘検診を、エコーをメインでやっているんですけど、宮崎ではどういった内容ですか?

帖佐:小学生の野球障害で、最も問題になるのは上腕骨小頭離断性骨軟骨炎です。本疾患は症状やX線画像上顕性化した時は、既に病期が進行している可能性が高い疾患です。そのため、顕性化する前に発見できるエコー検診を全例に行っています。その結果、早期での発見・治療が可能になり、保存療法で多くの子どもたちが治癒し野球に復帰できています。

全国でこの野球肘検診を組織立てて最初に始めたのは徳島県です。野球障害で困っている子どもたちは全国にいますので、先ほど話しました文科省の特別経費をもとに、全国規模の「子どもに笑顔を!野球障害を防ごう」を開始しました。今では多くの都道府県で野球検診が開始され、その効果もあり「甲子園のタイブレーク制」や「投球数制限」が議論されるようになっています。

松坂投手らが渡米し、アメリカのプロ野球では既に投球制限が実施されていたことは記憶にあると思います。一方日本では、高校生の憧れである甲子園大会で、投手が200球以上投げたことをマスコミは美化しています。甲子園で活躍しその後名前を聞かなくなった投手がいることも自明のことです。そのため私たちが実施する検診では、子どもたちには「無理にたくさん投げることが、どれだけ肘や肩に負担をかけているか」を話しています。今の子どもたちは、なぜ投げすぎることが体に負担をかけるかの理由が分かれば、しっかりと自分の体のことを考えてくれます。

三苫:ああ、そうなんですか。最近、海外に行っている選手とかも、ちょっと肘を壊したりというのを新聞でよく見たりとかもするけど、やっぱり日本って、少し遅れているのかなと思いながら。

帖佐:いや、遅れています。外国は選手ファースト意識が高く、選手のコンディションを大事にしていますが、日本ではまだそうではなく選手の知名度を優先していると感じることも少なくはありません。従って、予防医学が遅れていると考えています。

山崎:予防に関しては、学校、運動器検診はどのようなチェック項目でされていますか。

帖佐:学校運動器検診も最初は運動器の10年のプロジェクト(運動器の健康・日本協会)で開始されました。各小・中学校で、医師、看護師、事務などのスタッフが運動器(上肢、体幹、下肢)の検診を実施し、側弯症や野球肘など様々な疾患が見つかっています。

宮崎県の学校運動器検診の特徴は、最初から直接検診を実施していたことです。約54000人(2007-2015年度)を検診しビッグデータとなり、その結果、運動器疾患に被患している子どもたちが約10%いることが判明しています(Yamaguchi,Public Health. 2016)。子どもの運動器疾患は日本の整形外科やリハビリテーション科で、疫学を含めた予防医学について、今後さらに進める必要がある研究分野と考えます。

司会(永吉):では、宮崎の地域医療について、これまでの流れ、課題、今後の取り組みについて伺えますか。

帖佐:宮崎はご存じのように地方(僻地)に位置しており、元々既設の医学科が無かったこともあり医師が不足しています。リハビリテーション科医は特に不足していますので、リハビリテーション科医を増やすことが重要課題の一つになります。一方、整形外科とリハビリテーション科の関連病院が多く、全県下に医師を派遣して少ない医師数で地域医療に貢献してくれています。

また、宮崎の特徴は、医師会と行政と大学が中心になり産官学連携で様々な事業を実施していることです。前述しましたロコモ検診、運動器検診や高次脳機能障害事業などがそうです。産官学、公的機関や私的機関が連携することで、県内に様々な事業を広めることができます。

また、宮崎県では“健康スポーツナース”制度を構築しています。運動や健康に興味を持ち活躍する看護師が多くいますので、医師不足対策を踏まえて本制度を開始しました。宮崎県には小・中・高生のスポーツ大会に加え、シーガイアトライアスロンや青島太平洋マラソンなどの大規模大会やスポーツキャンプなどがあり、選手のみでなくスタッフや見学者をサポートする必要があります。

スポーツドクターを中心に対応しますが、実際の現場では重症な疾患より内科的疾患を含め軽症のことが多く、医師不足に加え運営する側としては予算の関係もあり健康スポーツナース制度を導入しました。この制度は、運動・スポーツ・健康に興味のある看護師が、講義や実技等の試験を受け健康スポーツナースとして登録し、大会などをサポートする制度です。宮崎大学医学部附属病院では、病院長、看護部長、事務部長など執行部の理解もあり、多くのサポート事業に病院業務の一環として参加していただいています。

三苫:県と動いているということなんですよね。すごいですね。

帖佐:宮崎市の特定健診事業にも参加しています。特定健診の中で「運動器検診」の実施は、日本で初めて宮崎市が開始しました。特定健診こそリハビリテーション科医が関わる必要があると考えます。特定健診はメタボ健診として開始され体操や運動が中心の指導方法ですが、メタボのみでなく運動器疾患、軽度認知症までも、予防や治療法として運動療法をおこなっています。

実際、運動器を元気にする目的で私たちは体操や運動指導をする教室を開いていますが、運動器のみでなく「心」のチェック項目も良くなられている参加者を多く認めます。生き生きとした生活を送るには運動をすることが一番大切だとあたためて思っています。

山崎:その運動というのは、みんなで集まってというような。

帖佐:みんなで集まる場と一人で自宅で行うことと両方です。自分の健康に意識のない方々に参加してもらうことが大きな課題です。そんな引きこもりの方々に対する打開策として「ロコモコール事業」を実施しました。実施するスタッフを“ロコモメイト”として養成しています。将来は、地域包括ケアのように中学校単位ごとの中により小さいコミュニティをつくり、健康教室などを通して、自助・互助をすすめる予定です。このことは国が運動器機能向上のための「健康事業(教室など)」を実施しましたが、参加者が非常に少なかったということの解決策の一つの方法になると考えています。

山崎:そうですね。

 

Locomo-Call事業の推進

帖佐:ここでロコモコール事業についてお話します。介護予防事業における「運動器の機能向上プログラム」への参加者は極めて少なく、その効果を十分に挙げられていませんでした。

通所・訪問リハに参加しない(できない)高齢者が要介護のハイリスクであると考えられ、そこで介護予防効果のみならず費用対策効果を考えた新たな方策(自宅での運動器の機能向上プログラム)がロコモコール(訪問型介護予防事業)です(ロコモコール:厚生労働科学研究費:長寿科学総合研究事業、平成23年度から)。

基本チェックリストで、運動器項目の5つのうちの3つに該当する方たちに連絡しても健康教室等に参加しない方々がほとんどです。その方々に、一度だけ「ご自宅に訪問し、ロコモ体操を指導しますので参加しませんか。」と連絡し参加してもらいました。調査員(看護師、理学療法士など)が自宅に訪問し、健康調査や運動機能の評価やロコモ体操の指導を行います。その後、定期的に(週3回の電話連絡(ロコモコール))コンタクトをとり、ロコモ体操の実施の確認を行います。

3か月後に自宅を訪問し、健康調査や運動機能の評価を行います。ロコモコールの特徴は、「調子はどうですか?」と週に3回連絡することで、運動器の機能向上やロコモ体操の継続率を上げることです。この結果から、在宅訓練に興味を抱く高齢者(参加者)が多いこと、継続率が高く実施することで、運動機能が向上することや要介護・要支援予防に貢献可能であることがわかりました。

本事業のように調査員を頼んで実施すると経費が掛かかることが難点ですが、例えば、孫が祖父母に電話をかけるなど身近なところで始められるサポートが一番良いのではと思っています。実際、私の母は鹿児島で一人暮らしをしています。昔は母に電話することはほとんどありませんでしたが最近はロコモの件で電話をする機会が増えています。敬老の日や誕生日に東京在住の息子が祖母に電話をすることでより元気になっているように感じます。このような社会にすることで地域共生社会が構築できないかと考え、宮崎市や日向市などで取り組みを開始しています。

また、ロコトレ(ロコモーショントレーニング)体操教室を行政が実施する場合、運動指導士などを雇用する必要があります。しかし、それでは費用がかかる等の課題があるため、コミュニティのことを理解している民生委員に指導員としてお願いしました。そうすることで国が進めようとしている地域包括ケアの自助・互助がスムーズにいくのではと考えたからです。民生委員が多忙で難しい場合は、ロコモメイトや骨粗鬆症マネージャーなど地元でボランティア精神のある方が動いてくださることが理想だと考えます。地域共生社会モデルの事業になれることを目指しています。

山崎:そこは整形外科が主となって動く。

帖佐:診療科にはこだわりませんが、国民の有訴率の高い疾患を理解している医師が望ましいと考えています。

三苫:私、公衆衛生にいたことがあったんですけど、やっぱり行政と一緒にやらなきゃいけないって。先生のすごく先進的な取り組みって、素晴らしいなと思いました。

帖佐:その通りだと思います。大学病院だけではできませんし、医師一人でもできませんので、産官学連携ならびに多職種連携が必須と考えています。

山崎:医局には全体で何人の先生がいらっしゃるんですか。

帖佐:教室・同門会で223人です。

三苫:ひと学年に女性は何人ぐらいおられますか。

帖佐:女性医師は2018年は2名入局しましたが、全体では19名と少ないです。

三苫:ああ、そうなんですね。

帖佐:はい。最初に女性医師が入ったときは私が医局長をしているときで、男性医師が多い中で色々不便なこともあるかなと心配でしたが、その先生が逆に様々な環境(当直膝や派遣先など)のことに理解があり、それから比較的、女性医師が入ってくるようになりました。

 

 

スポーツにおけるリハビリテーション科医の重要性

司会(永吉):それでは、スポーツ外傷とか2020のオリンピック、パラリンピックにリハビリテーション科医がどう関わっていくかというところを、先生のご意見を是非お聞かせください。

帖佐:スポーツ傷害(外傷・障害)の予防・治療の中でも、障がい者スポーツにリハビリテーション科医はより一層関わる必要があると思います。スポーツ大会だと選手をメインに診る“スポーツドクター”が出番だと思われがちですが、実際は選手以外のスタッフや観客などのメディカルサポートも必要になります。

リハビリテーション科医の場合は、障がい者が参加するパラリンピックなど障がい者の大会に中心をおくことになると思います。内科系の先生方は、当然ながら選手だけでなく観客の熱中症などの対応もあります。

山崎:暑いですもんね。

帖佐:リハビリテーション科医というのは、頭から足先まで診られる唯一の診療科です。そういう点でリハビリテーション科医がもう少し運動器検診や野球検診などいろんな現場に出て行くことが必要と考えています。

整形外科でもサブスペシャリティ化が進み、手術しかできない医者が存在する可能性も否定できません。診断が付けば手術はできますが、本当にこの患者さんが何で困っているのかわからない。

教科書は一つ一つの疾患で書かれていますが、実際、一人の患者さんが多くの疾患に罹患し、その中で一番困っている疾患は何か、最優先する治療は何かがわからない医師がいると思います。リハビリテーション科というのはそれを考える診療科だと、学生に伝えています。私も野球肘を患っていましたが、当時を振り返ると、股関節や腰の硬さ(関節弛緩性・柔軟性)など運動連鎖のことを含めた知識を教えてもらうこともありませんでした。局所のみでなく全身の観点から理解できる医師は、スポーツ医、リハビリテーション科医や整形外科医だと思います。これらの観点から、もう少し予防医学的な視点で、心を含め身体全体を診ていくことが重要と考えます。

一般市民にロコモを説明する際は、メタボとロコモを比較するとわかりやすいと思います。心筋梗塞や脳卒中がメタボの代表疾患であるように、運動器不安定症が通称ロコモと考え、メタボの予防と同じようにロコモの予防をするように説明すると良いでしょう。

つまり、運動器不安定症や脳卒中、心筋梗塞になる前に運動が必要なように、「手足がしびれたり足腰が痛くなる前に、普段から運動や体操をすることで予防ができますよ」とお話しして下さい。そこには運動器のことを理解しているリハビリテーション科医がもっともっと関わる必要があると考えています。

司会(永吉):先生方にいただいたご質問の中で、一般の方に、リハビリテーション科医がどういう仕事をするものかとか、どんなふうにすれば、もっと皆さんに分かっていただけるのかということを教えて戴けますか?

帖佐:一言で言うと、私は社会参加の支援だと思います。

司会(永吉):社会参加ですか。

帖佐:社会参加できなくなってきた人、例えば何らかの疾患で学校に行けなくなっている学生を、再び学校に行かせてあげることがリハビリテーション科医の役割だと思います。

私が今、重要に感じていることは、“動く喜び、動ける幸せ”を教えることです。「脳や心臓は大切」と皆さん理解していますが、運動器に関してはどうでしょうか。

常日頃から「皆さんはご飯も自分で食べられる、トイレの後始末も自分でできますよね。もし今、それができなくなったらどうしますか?」と、患者さんや一般市民の方に問いかけています。日常生活で当たり前に体が動けていることが突然できなくなったら、どれだけ大変なことか。つまり「自由に体が動かせるということは本当に有り難いこと」だと、特に子どもたちに話しかけています。

私は、全国の歯科医の先生方とお会いする機会をいただいておりますが、やっぱり“かめる喜び、かめる幸せ”が大事だと気づかされます。“自分でご飯が食べられる幸せ”そんな当たり前を奪われた患者さんに手を差し伸べること、社会に参加させてあげることが、まさしくリハビリテーション科医の仕事になるのです。

病棟回診をしていると、術前は手足が動かなかった方が術後に「手足が動くようになった」と喜ばれます。それをさらに改善してあげることがリハビリテーション科医や療法士の仕事だと思います。本来は整形外科医がそこまでサポートすることが望ましいのですが。

手術だけを行い、後は理学療法士に丸投げという状況に陥っている現状が少なからずあることもいなめません。逆にリハビリテーション科医にはさらにスペシャリストを目指して欲しいと願っています。リハビリテーション科医の手にかかるとすんなり動くようになるとか、「神の手」と呼ぶのは大げさかもしれませんが、そんな存在になって欲しいと思っています。治療の場面でももっと関わりを持ち、リハビリテーション科医はエコーもボツリヌス治療もできるなど、マルチに活躍できると幅が広がると思います。

山崎:私も今、自衛隊の病院では、内科で、生活習慣病検診に引っかかった人を診ていて。自衛隊員も若いときはめちゃめちゃ運動もして、めちゃめちゃ食べて、だんだん年を取ると膝が悪かったり、腰が悪かったり、運動もできなくなって。でも、食べる量やスピードは変わらなくて、それで検診に引っかかって私のところに来るんです。

いろいろ話をして、そんなに人は病気になっても簡単には死ねないというのもしっかり話す。帖佐先生がおっしゃるように、脳卒中になって、食べられなくもなるし、動けなくもなるし、トイレにも一人で行けないし、そんな苦しい思いをするよりは、今を改善することが大事ということ。

内科のガイドライン的にも最初は食事、運動療法なんですけど、そうなると、膝が痛いんだとか、腰が痛いんだという話が出てきて。私、リハビリテーション科と標榜しているのでいろんな相談を受けます。取りあえず、まず運動靴を持ってきなさい、と。それはよく見ると靴が合ってなくて、スポーツ障害になっている人が多いんじゃないかなと気づいて。なんか日本人って、靴に対する意識が低いのかなと。小さな頃からサイズも全然合ってない靴を使っていたり。そのあたりからアプローチしていけないかなと思っているんです。

帖佐:非常に良いことだと思います。靴も、靴底の外側か内側かどこが減っているかを見ることである程度障害が予測できますよね。

山崎:はい。最近、スポーツシューズも進化していて、スポーツ専門店には外側が固いタイプとか色々ある。添え木、サポーターとかも紹介します。「よくなりました」って言ってくださる方がいるんです。靴の知識は、小さな頃から親御さん達に勧められたらいいのかなと。

帖佐:そうですね。是非お願いします。

山崎:はい。でも、先生みたいに、確かに学校とかにも入っていけたら素晴らしいなと思いました。

帖佐:いつでも行けますよ。お子様がいらっしゃる先生であれば、お子様が通っている学校に行くのが簡単です。または、住んでいる近隣の学校がベストです。

野球検診を開始した当初は、無理やり子どもたちを野球検診に参加させようとしていましたが、現在は、指導者や保護者から参加したいと言ってもらえるようになりました。地域のロコモ予防教室にも通じますが、強制的に集めるのではなく、そこのコミュニティの人同士が誘い合う環境ができることが大切だと考えています。

膝、股関節、スポーツ、関節リウマチ、それぞれしか診ないという整形外科医が増えてきたのと同じように、リハビリテーション科医も同様になりつつあると感じます。せっかく全身を診られるリハビリテーション科医ですので、個人的には、全身も、かつ、スペシャリティとして二つの分野、例えば心臓と運動器を専門にするなどが理想だと考えています。

 

患者に寄り添うリハビリテーション科医

司会(永吉):先生方、他に質問はいかがですか。

三苫:しなければと思っていても実行できないということを、帖佐先生は、結構しっかりされているので、素晴らしいなと。

山崎:お人柄なんだろうな。患者さんとのお付き合いの仕方とか、すごいなと。

三苫:声掛けもすごく優しいですよね。

山崎:そんなに患者さんのことを把握している教授がいるんだろうかと。

三苫:回診を見せていただいて、すごく温かい声掛けをされて、患者さん一人一人を本当に全体的に把握されているようにお見受けしました。先生の行動力に圧倒されて・・、行動も伴っていくには、どうすればいいんでしょうか。

帖佐:私が行っていることは朝夕の回診です。関係しているすべての入院患者を診て回ります。患者さんの立場として、医師に診に来てほしいと思うのは当然だと思います。もちろん若いときは自分の担当患者だけを診ていましたが、教授になってから朝と夕、ラウンドをするようにしています。

患者さんから「元気になった」や「安心だ」と言っていただけます。私ができる臨床の基本は、患者のもとに行くことだと考えています。従って、学校や現場にも行くことで現状が把握できると思います。

三苫:今、やっとそういうことをやりたいなって。実行は全然できてないかもしれないんですけど。

帖佐:私もまだまだ出来ていませんが、行くこと自体が重要だと考えます。

三苫:回復期の専従医になって、毎日1回はリハビリテーションビリ始まる前に必ず患者さんの顔を見ようとはしています。

帖佐:素晴らしいことです。医師ができることは、患者さんのところに行くこと。臨床医は特にそうです。回診時に患者さんが痛みを訴えたならば、その後のことはまず主治医に任せますが、顔を見に行くことは誰でもできますから。

三苫:そうですね。

帖佐:診察よりもMRIなどの画像所見を重要視してしまうとそれで誤診する場合もあります。整形外科の患者さんの場合、怪我をして膝が腫れているがX線画像では骨折が分からないこともあります。しかし、膝を穿刺し血性の貯留液と脂肪滴が確認できれば骨折が不顕性であることがわかります。

山崎:はい。

帖佐:例えば、現在の主症状は大腿骨頭壊死の可能性が高いにも拘らず、MRIの結果しか見なければ副症状の腰の手術を受けることにもなりかねません。その点、リハビリテーション科医は、患者さんが今、最も困っていることを把握できるので良いですね。だからリハビリテーション科医を増やしたい、けれどもなかなか難しいですね。

山崎:先生はどうやって誘ってらっしゃるんですか、若い先生方に。

帖佐:学生に講議するときなど、これからの臨床科は、リハビリテーション科、麻酔科、精神科、整形外科などが良いと話しています。国民の主訴や、家族、親戚でどういう疾患で困っているかを考えてもらうと学生も理解してくれます。今後ますます超高齢社会になれば、より一層そう思います。実際、整形外科に入院している患者さんが肺炎や糖尿病、透析などいろいろな病気を抱えていることもあります。貧血でヘモグロビンが10を切っているとか、足の血流が悪い患者さんなどもたくさんいるわけです。

手術ができそうもないくらい腎機能が悪い場合や、麻酔も掛けてもらえない場合も。つまり整形外科にいながらそういった勉強もできるわけです。また診断学に関しては時代の発展と共にAI化してしまう可能性もありますよね。

複数:ふふふ。

帖佐:リハビリテーション科は介護もあるし、対象の多くが中年から高齢者ですのでより一層必要になると思います。眼科とか耳鼻科も同様です。加齢に関係する疾患は大丈夫だと思います。

三苫:よかったです、リハビリテーション科を選んで。帖佐先生が、人に寄り添った診療をされているというのは、ひしひしと感じるんです。先生のご生活の中で影響を受けたものとか、何かありますか。

帖佐:影響というよりも自分がして欲しいことをするだけです。医療安全が優先されている今の医療レベルは、正直、低下せざるをえないのではと感じます。本当であればこの手術をしてあげたほうが良いなと思っていても、もしかすると予期せぬことが起こるかもしれない。

そうなると、より安全で確実な治療法を選択します。万が一迷った場合、自分の大事な人や家族ならどの治療法を選択するかと考えるのが良いのではないでしょうか。医師、特に外科医の欠点は、患者さんを道具や物としか思わなくなる人もいることが否定できない点です。自分自身のスキル向上や、手術数さえ増やすために適応が広がっていることが否めません。

例えば、人工関節などでは再置換術が増えている現状もあります。手術目的の紹介患者さんでも、手術前の外来時にリハビリテーション治療の重要性の説明や運動療法を指導すると、初診から6週目の再診時には痛みが軽減しており、手術についての問い合わせも受けます。患者さんには「痛みなく動きさえすれば、運動器の病気はX線上変形性変化があっても心配しなくても良いですよ」と伝えます。そう説明することで患者さんは安心し、リハビリテーション治療を続けてもらえます。もちろんX線所見が悪化したり、骨切り術などの治療の「Windows of opportunity」があるので、定期的な受診が大切なことは説明します。

三苫:ありがとうございます。

山崎:先生、お仕事以外にご趣味などはおありですか。

帖佐:最近はほとんどできていませんが、ゴルフや旅行が好きです。

三苫:宮崎は結構いいところがあるようですけど。

帖佐:いっぱいありますよ。5分ぐらいで行ける近場も。今はロコモ対策を行っていることや学会、講演などで休日がないため、ほとんどできていませんが。

三苫:ロコモ・ザ・ワールドですもんね。

帖佐:ロコモカーも学長のお計らいで導入でき、県内各地で大活躍しています。実は私の似顔絵入りです。

山崎:すごい。

三苫:本当ですね、先生の写真。

帖佐:このロコモカーで宮崎市の保健所まで出向きますよ。

三苫:保健所の仕事ということは、若いときから、そういうお考えがあったんんですか。

帖佐:医師になった当初はそんなこと全く考えていませんでした。ただ、やっぱり良くならない患者さんもいるわけで。もちろん膝の人工関節や手術も影響しますが、肩など手術をした後になかなかよくならない患者さんを診て気がついたのは、やっぱりリハビリテーション治療が原因でした。

手術で60%ぐらいまでよくなっても、それをいかにして100%までに伸ばせるかはリハビリテーション医療の力次第です。結局、リハビリテーション治療が必要不可欠なのです。現場の力となる療法士にもしっかりとその点を学ばせることは非常に大切だと思います。

 

 

リハビリテーション科医へのメッセージ

司会(永吉):リハビリテーションスタッフとのコミュニケーションの取り方についてアドバイスをいただけますか。

帖佐:自分の姿勢を示すことだと思います。リハビリテーション科のスタッフだけじゃなくて、若い整形外科医に関してもですが。私が患者さんのもとに行けば、自分たちもやっぱり病棟やリハビリテーション室に行かないといけなくなるのでは。

例えば、私が出張ばかり行っていて全く病棟にも顔を出さないとなれば、医師や療法士の良い見本にならない。特に宮崎のように医師不足の病院であればなおさらだと思います。患者さんのもとに行ってあげる、何もできなくても行くことが大切と思います。特別な知識、技能、技術がなくても、行って話を聞いてあげることで患者さんは安心されますので。お二人の先生方は優しく患者さんに接していると思いますので大丈夫ですよ。優しさが一番です。

司会(永吉):ありがとうございます。本当にリハビリテーション科医としてのあるべき姿を、心熱く、お話しくださった帖佐先生、じんじん感じるものがあります。

帖佐:いえ、そんなことはありません。

司会(永吉):インタビュアーの先生方、今日のインタビューを機に、明日からこういう診療をしていきたいとか何か思いがあれば、言っていただけますか。

三苫:決意表明ですか。

司会(永吉):はい。

三苫:取りあえず私ができること、毎日、患者さんとお話をしようかなと思いますが。

帖佐:それが大切だと思います。

三苫:あと、もう少し地域のほうに出て行きたいなとは思います、少しずつ。

帖佐:出て行ってください。待っている人がいっぱいいます、あなたたちを。

山崎:はい。先生のお話の中で、学校検診とかビッグデータという面で、私、自衛隊の仕事という面もあるので。その中で逆に自衛隊という特殊な集団を扱うデータとして、予防とかの面でもいろいろ私も組織に還元できたら。彼らの身体とかをしっかり診てあげることによって、怪我とかを減らしていけたらいいなと。もうちょっと自分から入っていこうと思いました。

帖佐:すごく大切だと思います。

山崎:はい。

司会(永吉):ありがとうございました。今日はたくさん、良いお話、アドバイスをいただきました。最後に、若いお二人に、最後に一言ずつ、大先輩として、何かアドバイスいただけますか。

帖佐:お二人とも優秀ですので私から何も申すことはありませんが、臨床に関してお伝えできることは、患者さんを自分の身内だと思って診療にあたっていただくことが一番大切だと思います。

一同:ありがとうございます。

司会(永吉):それでは、これで帖佐先生へのインタビューを終了させていただきます。