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リハビリテーション科女性医師ネットワーク(RJN)

第25回「この先生に聞きたい!」女性リハビリテーション科専門医キャリアパス

 

日時 2019年12月6日(金)
場所 大阪大学大学院医学系研究科 運動器バイオマテリアル寄附講座内
ゲスト 菅本 一臣 先生(大阪大学大学院 運動器バイオマテリアル学 教授)
インタビュアー 千葉 春子 先生(北海道大学 リハビリテーション科)
德永 美月 先生(産業医科大 学リハビリテーション科)
司会 中馬 孝容 先生(滋賀県立総合病院 リハビリテーション科)
オブザーバー 大串 幹 先生(兵庫県立リハビリテーション中央病院 リハビリテーション科)

医学生の頃のお話し
リハビリテーション科をめざしたきっかけ
関節の動きの研究、そして、コラボしていくこと
リハビリテーション科医の役割
ターゲティングを意識すること
研究者冥利につきること
リハビリテーション科をアピールすること
橋渡しとしての役割
オタクのすすめ

 

医学生の頃のお話し

司会(中馬):本日は誠にありがとうございます。RJN委員会企画インタビュー、本日のゲストの先生は、大阪大学大学院医学研究科 運動器バイオマテリアル学教室の教授でいらっしゃいます、菅本一臣先生です。先生、今日は本当にお忙しい所、ありがとうございます。

菅本:いえいえ、よく来ていただいて、ありがとう。

司会(中馬):続いて、インタビュアーのお二人におかれましては、自己紹介をお願いします。

千葉:はい。北海道大学病院から来ました、千葉春子と申します。獨協医大(獨協医科大学)を卒業して、北大(北海道大学)で2年間の初期研修中に、北大のリハビリテーション科を選択して、研修後すぐ北大のリハビリテーション科に入局しました。半年間だけ浜松の聖隷三方原病院に出させていただいたのですけど、それ以外はずっと大学におります。今日はよろしくお願いします。

德永:産業医科大学リハビリテーション科の德永と申します。出身も産業医科大学で、学生の間に入局先を決めるのが、私たちの大学なので、先にもうリハビリテーション科に入局しました。外の市中病院で2年間、初期研修をしてから、大学に戻って、今は10月から外の病院に出ているところです。

菅本:産業医科大学へは何度か講演に行ったことがあるのですよ。確か、ローカル線に乗り換えていきましたね。

德永:最寄りの駅は折尾駅です。山を切り開いた所にありまして、その駅からバスで移動します。

菅本:ああ、そうでしたね。よくおいでいただきました。

德永:今日はよろしくお願いします。

司会(中馬):司会は、滋賀県立総合病院リハビリテーション科の中馬がさせていただきます。よろしくお願いします。最初に、医学生の頃のお話しを伺ってよろしいですか。

菅本:私は大阪大学を昭和57年に卒業しました。医学部は6年間でしょう。自慢じゃないんですけど、授業には本当に出席しなかったですね。(笑)。

一同:ははは(笑)。

菅本:だから、情報に遅れることがありました。6年生の秋ごろ、たまたま教室に行くと、どの科を志望するのか書き込む紙が張り出されていました。

昔は今と違って、第1内科何人とか、第2内科何人とか定員がきちっと決められていました。その日は、その張り紙が回収される前日で、入局先としては、空席が2つだけ。整形外科と泌尿器科がありました。この2科から選択しなくてはいけない状態でしてね。

千葉:早い者勝ちなんですか?

菅本:いや、早い者勝ちではなかったんだけど、普段教室に行っていなかったので、募集に気づかなかったのです。ただ自分としては、整形外科のほうがスポーツに関連しているイメージがあったので、整形外科への入局をきめました。

司会(中馬):授業に出席されていない時は、何をなさっていたんですか。

菅本:きちんと規則正しい生活をしていました。朝8時ごろに大学に行って、その頃になったら友達が集まるので、4人そろったら、近所のマージャン荘へ行ってましたね。お店の鍵もあずかっていて、毎回、鍵を開けて、ちょっと中を掃除して、お昼すぎまでマージャンをしていました。それから、中学からずっとやっていたので、バドミントン部でクラブ活動をしていました。

千葉:楽しく、学生生活を満喫されていたのですね(笑)。

菅本:学生時代、すごい楽しかったですよ。

6年生の夏ごろ、友達がすごく分厚い本を持っていましてね、「これ、何?」って聞いたら、「過去問」と教えてくれました。その問題集を買ったんだけど、もうあまりにも分厚くて、今からなら国家試験の勉強は間に合わないなと思い、1年先に試験を受けようかと思ったんです。しかしその当時、自分は阪大(大阪大学)のバドミントン部のキャプテンをしていたのですが、大阪医科大学のバドミントン部のキャプテンが、家に泊まりこんで教えてくれたのです。そのおかげで、国家試験はぎりぎり受かりました。

そのキャプテンには、今もすごく感謝しています。時々、いっしょに飲みに行ったりしていますよ。

司会(中馬):なかなか伺えないエピソードでした。

菅本:もう本当にひどい学生生活ですよね(笑)。

 

 

リハビリテーション科をめざしたきっかけ

德永:リハビリテーション科を目指されたきっかけについて教えてください。

菅本:私は、整形外科に入局して、40歳の時に大学に戻って、何か研究をしようと考えていました。そこで、関節の実際の動き方について、調べようと思いました。整形外科では、関節疾患の治療をしていますが、その関節の動きがわからずに手術をしている。レントゲンやCTは静止画像ですが、皮膚の下にある関節の動きについて研究できないかと考えました。

たまたま阪大の中をぶらぶらしてたら、工学部の若い先生に出会いました。それで、一緒にやりましょうということで、二人で研究を始めました。

研究をすすめていくと、最終的に阪大病院の整形外科の手術は、劇的に変わることになります。他大学では治療ができない特殊な手術も、できるようになりました。関節の動きが見えているので、やはり強い。今までに600~700人ぐらいの患者様に対して、他ではできない手術を行ったと思います。

整形外科だけでなく、リハビリテーション分野でも役立つことが分かってきました。私が整形外科助教授だった時に、リハビリテーション部のトップになり、リハビリテーション分野でも頑張っていこうと思いました。

德永:自分の所は単科大学なので、ほかの学部の人と関われるのは良い面が多いのかなと思います。

菅本:いえいえ、それは必ずしも関係ないですよ。今はインターネットの時代だから、いろいろなつながりは大学外でも可能です。私の研究に協力してくれてる人の中で阪大の人は、たまたま一緒にやり始めた彼ぐらいでね。ほとんど東京かアメリカの人たちとコラボして研究をしています。

德永:すごい、そうなのですか。

菅本:はい。近くにいる人からではなくて、全く異なる所から学んできました。

德永:いろいろなことが広がっていきますね。

菅本:そう。私がやってる会社で、チームラボという会社あるんです。

たとえば、壁に子どもが魚の絵をクレヨンで描いたりしたら、その絵がビューッと泳いでいったりとか。ITを使ってアートを題材にしたアミューズメントパークを作ったりしています。

千葉:楽しいですね。

菅本:いろんな所でイベントしています。

もともとそのチームラボという会社は、東京大学を卒業した人たちのベンチャーですが、社長さんは猪子(寿之)さんで、有名人です。

毎年、彼らは「嵐」の東京ドームコンサートのお手伝いをしていますが、僕も、一緒にやってまして、東京ドームへ時々行ってます。

千葉:演出というか。

菅本:そうです。紅白歌合戦の最後に嵐が歌うのだけど、後ろのグラフィックは、全部チームラボがやっています。

千葉・德永:すごいですね。

菅本:お台場にチームラボの室内型のアミューズメントパークを造ったんです。この1年で300万人の人が来てくれて。

千葉:ぜひ行ってみます。

菅本:オープンの当日、テープカットに行った時に、世界からメディアが450社も来ました。その翌日のBBC放送のトップニュースが、チームラボが日本にできたというニュースが流れました。一昨年でしたかGoogleが考える、将来性のあるITベンチャー部門で、1位にチームラボが選ばれたこともあります。

德永:すごいです。どんどん飛び出していっておられますね。

菅本:そう。阪大でやったという感覚ではなくて、東大のベンチャーと組んでるという感じですね。どんどんいろんな所へ伸びていっています。

僕は「嵐」のね、二宮君の担当なのですが、彼がいつも体の仕組みとかを説明する授業をやってるんだけど、僕が時々そのネタを作っています。

司会(中馬):先生がなさってることは、医療だけではないですね。

菅本:僕の仕事はちょうど3分の1ずつになっています。3分の1が医者、3分の1がベンチャー、3分の1が、タレント的なことですね。

千葉:タレントというのは、子ども番組とかですか?

菅本:もう全局ですね。『世界一受けたい授業』とか、『所さんの目がテン』とか。

NHKの『きょうの健康』とか。

それから、子どもの番組までさまざま出ていますよ。

千葉:すごいですね。

菅本:身体がどういう構造をしているのだろうかとか、内容はさまざまです。

千葉:多方面だけど、もとは一緒というか。

菅本:そう、同じです。一番のキーになってるのは、体がどう動いてるんだろうということですね。すべてに共通しています。

日本リハビリテーション医学会では、なかなか発表場所がないですね。講演では、どの関節がどう動いてるみたいなテーマでしか講演していないですが、いろいろな分野で、お役に立てるかと思っています。

司会(中馬):規模がすごく大きくて、いろんな人とネットワークを作って。どんどん広がりますね。

菅本:あとね、アプリをだしたんですよ。人間の体のアプリね。

德永:はい。そのアプリ、持ってます。

菅本:ありがとう。6年前にアプリの世界ワールドグランプリを受賞しました。

德永:すごい。

菅本:外国でも、みんな、使ってくれてましてね。北京でISPRM(International Society of Physical and Rehabilitation  Medicine.)がありましたね。

その時、中国の先生方がね、「サインしてくれませんか」と言ってくれて、iPadにたくさんサインをしました。みんな知ってくれて、よかったと思いました。

司会(中馬):そのアプリの名前は何ですか。

菅本:teamLabBodyって言います。チームラボにボディーっていうのが入っています。

 

 

関節の動きの研究、そして、コラボしていくこと

千葉:そのアプリの開発のきっかけについて教えてください。

菅本:アプリでは、関節の動きをレントゲンとかをコンピューターで解析したものを動画で見ることができるようになっています。これまでは関節がどう動いてるのかっていうのは、ほとんど解剖学からの情報で、生きてる人間で解析すると、動き方が全然違ったのです。これは大変なことで、教科書を一から全部、書き換えないといけないと思いました。

德永:確かに、そうですね。

菅本:医学の出版会社を全部回って、動きを見られるような教科書、ウェブかDVDかで、一緒に教科書を作らないかと提案したんです。十年余り前のことで、まだ時代が追い付いてなくて、全部の会社に断られました。

それで、途方に暮れていた時、チームラボと出会って、ぜひ一緒にやろうということになりました。それからはとんとん拍子にアプリができていきました。きっかけはご縁ですね。やりたいことについていろいろな所に発信してると、誰かが聞きつけて、「コラボしませんか」とオファーを掛けてくれるんです。

千葉:チームラボさんとは、どのように出会ったんですか。

 

 

菅本:当時のチームラボは、ホームページみたいなものを作っているだけだったんですが、社長の猪子さんが、僕のことをすごく気に入って、「先生、一緒にぜひやりませんか」ということになり、アプリを作り始めました。その時ぐらいから、もうどんどんチームラボ本体がすごく有名になって、現在に至るっていう感じです。チームラボとは人の紹介で、コラボし始めました。

千葉:そうやって、どこかでつながっていくんですね。

菅本:はい、つながっていきます。志があれば、離れたような所からでも、必ずつながっていきます。

当教室は、13年前にできたんですね。その当時、世界で初めて関節の動きが解析できることが分かって、これはもう大変な技術だと思いましてね。学会で発表し始めていたけど、いっそのこと、世界で一番偉い人に自分の技術を評価してほしいと思いました。世界で一番偉い人って誰だろうって、調べていましたら、世界で一番大きなメディカルの会社の社長が一番偉いのではと思ったわけです。その当時、今でもですが、世界で一番大きなメディカルの会社というのがジョンソン・エンド・ジョンソンでした。

德永:はい。有名な会社ですね。

菅本:その頃、ジョンソン・エンド・ジョンソンのホームページ見つけて、そこにお客さま相談窓口いうのがあったんです。

複数:ははは。

德永:お客さま相談ですか?

菅本:うん。そこにメールを打ってみました。こういう研究してるんだけど、どう思うかって。そうしたら、半年後に、ジョンソン・エンド・ジョンソンの秘書さんからのメールがきました。今までこういう投げ文のように突然、日本の医師からメールが来たのは初めてだと。だから、あなた自身に興味があるので来てくれないかと、書いてありました。

アメリカの大きな空港のどこでもいいから来てほしいと言われて、僕は、シカゴ便で、普通のジャンボジェットで、旅行客と一緒に向かいました。するとわれわれだけ飛行機の中に残れという機内アナウンスが流れて、僕らだけタラップを降りたら、ジョンソン・エンド・ジョンソンのプライベートジェットが待っていました。僕らはそのプライベートジェットに乗ってジョンソン・エンド・ジョンソンの本社まで行き、そこで30人ぐらいの重役の前で、研究を話しなさいと言われました。

千葉:プレゼンテーションをしたのですか。

菅本:そう。1時間、プレゼンテーションをして、その後、反応がよくて、100個ぐらいの質問が来ました。

德永:100個もですか。

菅本:特許はどこまで押さえているのか、それはどこまでの活用が見込めるのかとかなど、100個ぐらいの質問です。その結果、即決で、2億円の投資が決まったんですよ。

複数:ええーっ。

菅本:それで、投資が2億決まったんで、ここの講座を作ろうということになりました。チームラボにたまたま出会ったことから、始まっていますね。

德永:すごい。スケールが大きすぎて。

千葉:でも、きっとそのたまたまは、常にアンテナを張ってらっしゃるっていうからということでもありますか。

菅本:アンテナ張ってるのではなく、逆に、ボーっているからかもしれません。あんまりアンテナ張ってる感じではなくて、ボーってしてたら、たまたま向こうが見つけてくれたみたいな感じですね。

 

 

リハビリテーション科医の役割

司会(中馬):本当にスケールが大きなお話しでした。

菅本:自分の実体験として、自分のやってた研究が百倍以上に今は広がってるから、まあ、リハビリテーション領域でも、百倍ぐらいに広がると思っています。

司会(中馬):そういう観点から若い先生方にご助言はありませんか。

菅本:そうですね。私みたいなのは異例だけど、はずれた道でも自分が信じてずんずんやっていくのだったら、応援したくなりますね。日本リハビリテーション医学会雑誌の巻頭言を書いたんだけど。

千葉:読みました。

菅本:うれしいですね。自画自賛ですがその巻頭言の内容が結構気に入っています。

以前リハビリテーション科の先生方と話しをして、びっくりしたことがあります。理学療法士は施術をして、整形外科や心臓外科が手術をしてしまうので、残ったリハビリテーション科医の存在価値はあるのだろうかということを心配しているということに、びっくりしたことがありました。すごく衝撃受けて、最初、どういう意味なのか分からなかったんだけど、そんなことを悩んでいたんだなと思って、それを打ち消そうとしてその巻頭言を書きました。

そこには、こういうふうに書いています。例えば、整形外科医が、骨折に対してプレート固定などの手術をして、その術後、1カ月、半荷重してくださいとか、オーダーを出します。その半荷重というのは、整形外科医が理論も根拠もなく、何となく半荷重を1カ月間してほしいということです。実際、どういう生活で、どういう場面で半荷重ぐらいまで掛かっているのか、半荷重のままでADLをぐんぐん高める方法はどういうふうにしたらいいのかとか、そういう一番大事な生活上の工夫のようなものは、整形外科医は関知してないのです。

だけど、半荷重でもADLをどんどんアップしていくためにはどういう筋トレでよいのかなどは、実は誰も知らない。そこが一番大事なのに、誰も知らないのです。

同様に、心臓リハビリテーションにおいても、どの作業でどのくらい負荷が心臓に掛かるのか、ADLはどう上げていくのか、実務的な指示は、リハビリテーション科医しか本当はできないと思います。リハビリテーション科の先生方もそういう勉強が必要と僕は思います。

司会(中馬):大切な視点ですね。

 

 

ターゲティングを意識すること

菅本:目的つまり、ターゲティングをきちっとして、それに応じた勉強をリハビリテーション科医はどんどんしていけるようになればよいと思います。学会もそういう方向を目指すべきですね。

千葉:指導医がそういうスタンスで後輩の若い先生に教えていければ、そういう考えの人が増えていくんじゃないかということですね。

菅本:そう思います。

司会(中馬):リハビリテーション医学では、評価や測定をきっちり行うようにいわれています。

菅本:われわれ、リハビリテーション科医は、臨床医です。だから、患者さんにいかにフィードバックさせるかということは大切です。そのフィードバックの時に、評価はあったほうがいいから、それはしないといけないです。

評価方法も大事だけど、実際、今、苦しんでる患者さん大勢いるわけだから、その評価だけではなくて、どうリハビリテーション治療を行っていくかという指導を並行して走りながら考えていくという感じがよいと私は思います。評価と実践の両輪ということです。

一般国民としては、整形外科に対するニーズよりも、リハビリテーション医療に対するニーズの方が数百倍高いです。健康とか自分の体がきちんと動くかということに興味を持っています。国民から期待されていますし、リハビリテーション科医は頑張らないといけないのだけど、ターゲティングができてない。そのことについては、よく考えないといけない。つまり、国民が分かるような言葉で伝えること。体を動かす、エクササイズをすることが、いかに大事かということを伝える必要があります。時に、アイドルグループと一緒に伝えていたりして。

千葉:タレント活動。

菅本:そうです。

司会(中馬):そういった啓蒙活動では、対象とされている年齢層は、さまざまですか。

菅本:子ども番組は子どもが見て、『きょうの健康』は年配者が見ますね。全年齢層を対象としています。

德永:言葉は年代ごとに変えていかれますか。

菅本:それは同じです。年配者も子どもも解りやすい言葉で伝えたら、必ず伝わってます。

千葉:解りやすく伝えるって、結構難しいことですよね。

菅本:難しいですね。それは、少ない言葉で、みんながよく使う言葉を用いて、頭の中で内容をよく整理して伝える。こういった技は必要です。慣れないと難しいかもしれませんね。

德永:難しいと思います。リハビリテーション科医として患者さんに接する時、患者さんに医者として認識してもらえないことがあります。

菅本:まずは、リハテーション医学の実力をつけることが大切です。実力をつけるというのは、手術の場合は、手に職を付ける面がありますね。

德永:はい。

菅本:リハビリテーション医療も、実力をつけることが大切です。それに値するのは、的確な指示が出せるということだと、僕は思います。

德永:そうなのですね。

菅本:だから、先ほどの、半荷重はこれぐらいの時に掛かるとか、階段の段差が何センチの時に、この程度の体重が掛かるということまで、きちっと、自分の頭の中にはあって、理学療法士にこういうことだと伝えることができれば、療法士は理解してくれます。

德永:そうですね。

菅本:正確なエビデンスに対しては誰も反論はできません。

德永:はい。

菅本:例えば最初のとっかかりとして骨折の患者と脳梗塞の患者を対象としてみましょう。その人たちは、どんな不自由があるのかについて考えてみる。ちょっと不自由な体を持ちながら、少し機能を上げるには、どういう工夫をしていたらいいのかとか、具体的に目標を作っていくことをやってみる。そして、それを、療法士に教える。そういうことを地道に行えば、変わっていきます。自分たちが全然知らない知識でもありますし。

德永:確かにそうですね。

千葉:それを勉強するために、患者さんの近くに行き、訓練を見に行くことが大切ですか。

菅本:それもあるけど、やはり、いろんな雑学および論文を読むことが大切です。

千葉:常に勉強して目標や、目的を持つということでしょうか。

菅本:そうです。ターゲティングというか、目標設定が大事です。勉強をするにしても、無尽蔵に論文はあるから、目標も二つぐらいに決めてしまう。例えば大腿骨頸部骨折だけとかね、大腿骨頸部骨折の半荷重だけとか、テーマを決める。例えば、半荷重では、体重はどれぐらいで掛かっているのだろうということが目標設定できれば、もう無尽蔵にある論文の中から50個ぐらいに絞ることはできます。Google翻訳は圧倒的なAIが入ってるので、それを利用すれば、50個の論文でも2時間あれば全部分かりますね。

複数:ああ。

菅本:うん、そんなに時間はかかりません。

德永:そうですね、テーマを決めて、そこに絞って勉強するということですね。

菅本:そう。目標の設定は、身近な一番多い患者、自分の病院で一番多い患者、ベスト1、ベスト2に、絞ってはどうでしょう。その中で一番の困りごとは何なんだろうと。それは先生方が勉強していくことですよね。

千葉:その時、その場の立場によって、目標を変えていくことになりますか。

菅本:そういうことです。だから、回復期だったら回復期の病棟で一番困りごとをちょっと勉強してみようとかね。

千葉:リハビリテーション科医が目指す目標というのを、今日、聞きたかったんです。

菅本:国が、どんどん制度を変えていってるでしょう。地域包括ケアも、介護も後からどんどん作ってきています。それを目標に勉強するというのではなくて、この数十年間、ずっと変わってないのは、療法士さん方への指導や、指示。これは、仕事内容の一番のコアな部分なので、彼らを適切に指導することを目標にしたら良いと思います。

德永:PT、OTたちに適切な指示が出せることですね。

菅本:そういうことです。

千葉:幅広くいろんな分野でご活躍されてるんですけど、先生のモチベーションの維持の秘訣は何でしょうか。

菅本:非常にシンプルでして、自分が体験したことがないことをやりたいと思っています。例えば嵐のコンサートを僕がサポートしたら、どんな感じになるんだろうとか、想像しづらいでしょう?

德永:はい、そうですね。

菅本:だから、それやってみたらどうかなと。

千葉:やりたくてできることじゃないです。

菅本:いや、できます。全然問題ありません。

東京駅なんかでよくあるマットでね、西川布団がエアーっていうマットを作っていますけど、西川布団と一緒に組んだ仕事なんですよ。

德永:そうなんですか。

菅本:だから、体の動きが分かってる僕が、西川布団と一緒に布団を作ったらどんなことが起こるんだろうと考えて、やってみようと思ったんです。まったく経験してないことに興味があるというか。それがモチベーションです。

德永:楽しいですね。

 

 

 

 

研究者冥利につきること

德永:伺ってみたいことがありまして、いろんな関節の動きとかを見られてるとは思うんですけど、先生が特に好きな関節はありますか。

菅本:好きな関節っていうのは特になくて、僕がいつもすごく面白いなと思ってるのは、関節の骨の形は動きとリンクしており、合理的な形をしているということです。

小さくて、なくてもいいように思える筋肉であっても、やはり意義はある。筋肉も骨の形状も、そこにある存在理由が分かった瞬間が楽しいです。推理小説で犯人が分かったみたいな感じの瞬間っていうか、そういう時は、研究者冥利に尽きる楽しい瞬間ですね。

德永:先生がおっしゃるように生きている人間の関節の動き方は、解剖の時の授業とは違っているということでしたね。

菅本:はい、しかし私が強調したいのはそうじゃなくて、骨の形。例えば、この机の上に小石が500個あったとします。何気なく見てたら500個だけど、2個だけピンクっぽい石があるよと僕が言ったら、見方、変わりますよね。「こことここに確かに2個ある」って言うと、それが見えてきます。

だけど、そのインフォメーションがなかったら、「いっぱい石あるな」だけということになりますね。

例えば、頚椎にあるルシュカ関節は、二足歩行において必要なんです。そのルシュカ関節は、何のためにあるかということが、その骨の形だけ見ててもわからないのだけど、動きから考えると確かにそこにその関節は必要だと理解できて、感動します。

德永:あのアプリで骨の動きを見た時に、こういう動きをしているんだと思いました。

菅本:そうですね。不思議な動きしてるよね。

德永:はい。確かにそうですね。

菅本:そう、不思議なものだらけっていうか。骨の解剖学みたいな一番古そうな学問だけど、ほとんど分かってないんじゃないかと思います。僕の印象から、99%ぐらい見過ごされている感じがして、僕らが99%のうちの中の1%を初めて見つけたいう感覚です。まだ98%ぐらいは残ってると、何となくイメージしています。

德永:それは、やはり関節に限らず、いろんな発見はありますか。

菅本:そうですね。リハビリテーション科に限らず、内科も外科も整形外科も、全領域において、解明されていることは、1、2%ぐらいですよ。やり尽くされてるどころか、まだまだ残っています。

千葉:リハビリテーション科医が、チームのリーダーになる時の必要な資質はありますでしょうか。

菅本:それは簡単なことです。ちゃんと実力を持っていれば、必ず中心になります。

千葉:常に勉強する、努力をする。

菅本:うん。実力ある人は、気が付いたら中心にいます。わざわざリーダーを務めようと意識しなくていい。実力さえ持っていたら、必ずそうなります。

千葉:その実力の付け方を間違えないようにすることですね。

菅本:そういうことです。それはね、ターゲティングが大事と思っています。

德永:私からの質問は・・・。

 

 

リハビリテーション科をアピールすること

菅本:質問を受けたいと思いますが、テーマは何でもいいですよ。べつに医学じゃなくても、大丈夫。もう年いったから、どんなことでも、もうだいたい経験してきたから大丈夫ですよ。

德永:そうですね。

菅本:どうやって上の先生に気に入ってもらえるか、どうやって自分は生き残っていくんだろうとかね、そういうのでもいいですよ。

德永:大学で学生指導に当たることが時々ありまして、学生さんに、リハビリテーション科医の魅力をもう少しうまく伝えられたらいいなと思っていまして・・・。

菅本:あ、そういうのは伝えなくていいです。

德永:伝えなくていいですか。

菅本:全然必要がないと思います。僕は中学1年からバドミントン部で活動してて。50年間バドミントンをやっています。学生と一緒にダッシュとか、基礎トレもしていますよ。

複数:へえ。すごい。

菅本:で、飲み会も全部出てる。

複数:ははは(笑)。

菅本:バドミントンをしている僕が楽しかったら、もうその楽しさが周りにも伝わっていく感じがありますよね。だから、自分から努めてアピールとか一切いらないです。つらい心を隠してアピールしたって、周りは見抜いてるよ。つらいのにアピールしていると思われるから、逆にアピールしないほうがいい。

德永:しないほうがいいと。

菅本:一切しないほうがいい。自分が本当にストレスなく楽しく働いているか、ハッピーかどうかっていうのは、学生さんたちにはすぐわかります。

千葉:自分が、楽しそうにすることでアピールっていうか。

菅本:もうそれだけが、一番のアピールです。

千葉:ああ。勉強になりました。楽しそうにする。

德永:今度、大学に戻ったら、ちょっと楽しそうにしたいと思います。

千葉:ははは(笑)。

菅本:それとか、つらいことについても、今こうつらいんだってということを言ったほうが、逆にいいと思う。正直に。

德永:はい。

菅本:つらいことはつらいで、いいこともたまにあったりしたら、それも言ったりとかね。そうストレートに言ってあげたほうが、信頼してもらえる気がします。

德永:分かりました。ありがとうございます。

司会(中馬):先生、笑顔がとても素敵ですよ。

菅本:ありがとう。いい心の状態になったら、だれでも人気出るよ。

複数:ははは(笑)。

菅本:人間は、楽しいことを仕事でも、仕事以外でも、見つけていくことが、すごく大事ですよ。

德永:はい。

司会(中馬):楽しいなと思う瞬間はありますか?

德永:患者さんのうまくできなかったことが、いろいろ工夫で「できるようになりました」って話してくれた時は、うれしいですね。やっぱり、何かのためにいろいろ考えてる時間が楽しいと思います。

菅本:今日の話、役に立ったんかどうか分からないけど、大丈夫かな。

千葉:すごく勉強になりました。

 

 

橋渡しとしての役割

千葉:リハビリテーション科医の守備範囲って何でしょうか。

菅本:あ、まさに橋渡しですよ。

千葉:橋渡し。

菅本:そう、内科医や外科医と療法士の間の橋渡し。その橋を渡す人がリハビリテーション科医以外にいないです。実はとても大事な使命です。川の両岸には人いっぱいいるのに、渡し船の船頭さんがいないと困るよね。

德永:その橋を渡さないといけないという仕事が目標なのに、目標設定できていないということですね。

千葉:今のお話し聞けてよかったです。そう言ってくださる人が今までいなくて。

菅本:いない。だから、僕、巻頭言に書いたんです。日本リハビリテーション医学会の理事会とかも含めていろんな会にでてみて、そういうターゲティングが、きちっとできている人はあまり多くないように思います。いかに自分たちのステータスを上げるかとか、そういう話にすぐなるんだけど。地位とかは作戦練ったからといって上がるようなものではなくて、本当に自分の実力がついたら、周りが勝手に上げてくれるようになります。

德永:自分を高めることですね。

菅本:もうそれ以外なし。

德永:そうですね。

菅本:作戦とか練らなくていいです。物事って、シンプルに考えたほうがいい。

 

オタクのすすめ

大串:先生は、関節のオタクですよね。人が見ない見方をして、それを表現する、見える化してるっていうことですよね。

菅本:そうそう。

大串:今までその人がいなかった。端的にそうですよね。関節のオタクの人が、みんなが分かる方法を作ったと。

菅本:そういうことです。

大串:おそらく今日おいでいただいた皆さんは関節のオタクではないですよね。

菅本:うんうん。

大串:やはり、何かオタクになったらいいかなと思います。例えば頸部骨折の半荷重とかだけでもいいですよ。

菅本:そうそう。非常にいいこと。

大串:1個1個オタクになって、療法士が知らないことを勉強して知って、そして、それを使ってよくしていこうという。オタクになっていけばいいんだなって思ったんです。

菅本:一番よくある病気から征服していったほうが、僕はいいと思っています。

大串:きっと、そのやり方が分かると、ほかにもどんどん広がっていくと思います。経験したことのないものを経験したいというのは、すごく、わくわくすることですよね。でも、やっぱりオタクにならないと、一番にはなれないですね。

菅本:大腿骨頸部骨折は、よく診ますよね。だから、それのリハビリテーション治療のことはほとんど分かっていると思っていたのです。僕が教授になってから、100人の大学院生が国内外から留学に来ました。リハビリテーション関係の人も結構、大学院生や研修者として来てて、今は人数が多いんで、スカイプでやりとりをしてます。

複数:へえ。

菅本:たまたま頸部骨折とか、データがたくさんあるので、それを使って、研究できませんかというから、やろうということになりました。例えばリハビリテーション訓練って毎日やったほうがいいのか、週に1回か2回ぐらいでもいいのかみたいなことなども大切でしょう?

德永:はい。そうですね。

 

菅本:それについて、ちゃんとしたエビデンスがあるのかとか思って調べさせたら、あんまりきっちりしたスタディーはなくて。頸部骨折のシンプルなことでも、ちゃんと研究した人はあまりいないわけ。だから、どの内容でもよいです。

例えば、大腿骨頸部骨折で、心不全があって負荷はかけられない場合、どんなリハビリテーション治療がよいのかと聞くと、みんな黙ってしまいます。そういう時に、ちょっとお役立ちのインフォメーションが、先生方から出せたら、みんな黙って聴きますよ。

複数:ふふふ。

千葉:参考になりました。

德永:ありがとうございました。

大串:先生、余暇は、もうバドミントンだけですか。

菅本:いやいや、余暇は、だいたい飲み会です。僕はほとんど毎日、夜は飲み会です。仕事の一環で、いろんな業界の人としゃべったりします。

千葉:それで、輪がつながっていくということですね。

菅本:そうそう。今、ベンチャーも作ってるんだけど、月に1、2回、東京とか、行くんですね。その時に1泊二日で8社ぐらい回る。

複数:はあ。

菅本:西川布団とか、いろんな所ね。ドコモも時々展示出してるけど。そういう時に1カ月おきに、僕がいつも毎回目標設定をしています。この1カ月の間にここまで進めろということを、各社に言って、それを続けることでものを作っている感じです。

大串:すごい。それは、大切な視点です。先生方も毎日患者さんは診れないでしょうけど、この1週間後にはここまでという具体的指示を与えるというのをやればいいと思います。德永:はい。そうなんですね。

大串:そうして、確実に先生が診てあげる。そうすると、患者さんも療法士も、先生を待っててくれますよ。

菅本:それ大事。リハビリが始まってから退院までの術後2週間で、ここまでよくなるだろうと予測しますね。

例えば、それが外れたら。どっかが間違ってるわけ。合ってたら、それが合っているわけ。それは、まさにターゲティングです。

德永:そうですね。

菅本:ある目標があって、そこまで行けた時と行けない時が、なぜあるのかということから、研究の種が見つかる。今、非常にいいこと言ってくれましたね。

大串:はい。ふだんリハビリテーション治療の中で使っていますね。

菅本:本当そのとおり。すごい大事なことです。

司会(中馬):先生方、お時間になりました。本日は本当にありがとうございました。