市民のみなさまへ

社団法人 日本リハビリテーション医学会 理事長:里宇 明元

社団法人 日本リハビリテーション医学会 理事長:里宇 明元

平成20年6月より社団法人日本リハビリテーション医学会の理事長を仰せつかりました里宇 明元(りう めいげん)と申します。学会を代表して市民の皆様にご挨拶申し上げます。

リハビリテーションの役割

リハビリテーションの役割は、1)障害を持った方々が、地域において、持てる能力を最大限に発揮し、2)人権が尊重され、生き甲斐を持った生活を送れるよ うに、3)ご本人やご家族を中心に共通の目標に向かってチームで援助すること、にあります。  リハビリテーションは、医学的リハビリテーション、教育的リハビリテーション、職業的リハビリテーション、社会的リハビリテーションの4つの分野に分け られますが、利用者のニーズを中心に、それぞれの分野が密接に結びついて、単に疾病や障害の治療にとどまらず、生活の再建、社会への参加、心の問題への対 応も含めて、包括的、全人的に行われることが大切です。

日本リハビリテーション医学会の使命

日本リハビリテーション医学会の使命は、特に医学的リハビリテーションの分野において、専門的な診療、教育、研究の実践を通して、医学の進歩と国 民の健康・福祉の向上に貢献することにあります。 この目的を果たすためには、リハビリテーション医療を担う人材の育成が不可欠であり、リハビリテーション医学会では、医学部卒前教育におけるリハビリテー ション医学教育、臨床および研究活動を通じてのリハビリテーション科専門医の養成、さらにはリハビリテーションチームの重要なメンバーであるコメディカル スタッフに対する教育に力を注いでいます。

リハビリテーション科専門医

本学会が認定するリハビリテーション科専門医は、運動障害、認知障害を横断的、総合的に診る専門家として、医療において重要な役割を果たしています。そ の業務は、疾病や障害の診断・評価・治療、リハビリテーションゴールの設定、理学療法、作業療法、言語聴覚療法、義肢・装具等の処方、運動に伴うリスクの 管理、リハビリテーションチームの統括、関連診療科との連携など、多岐に渡っています。診療の対象となる疾患・障害も幅広く、脳卒中、外傷性脳損傷、脊髄 損傷、骨関節疾患、関節リウマチ、切断、神経・筋疾患、小児疾患、呼吸器疾患、心疾患、がんなどが含まれます。 2008年7月の時点で、全国で約1400名の専門医が認定されていますが、わが国の人口規模と高齢化の急速な進行を考慮すると、少なくとも4000名は 必要と推計されており、社会に対する責任を果たすためにも、少しでも多くの専門医を育成することが急務となっています。

予防の重要性

市民の皆様は、「リハビリテーション」ということばからどのようなイメージを持た れるでしょうか。脳卒中や骨折のあとに残った後遺症に対して行われる訓練と思っておられる方が少なくないかもしれません。もちろん、そのような治療もリハ ビリテーションの重要な役割のひとつです。 しかしながら、リハビリテーションの大切な役割は、「障害の予防」 にあります。ヒトのからだは動かないでいる状態が続くと、手足の筋肉が衰える、関節が 硬くなる、体力が落ちるなど、すぐに機能の低下を来します。 これまでのわが国のリハビリテーションは、病状が安定したあとに残った障害に対して行われることが多く、予防的な取り組みは不十分でした。病気やケガ、あ るいは、手術や化学療法などのからだにとって負担になる治療を受けた時に、必要以上の安静をとることは、心身の機能を低下させ、特に高齢の方においては、 介護が必要な状態をもたらす重要なきっかけとなります。したがって、早い時期から適切なリハビリテーションを行うことにより、障害そのものの発生を予防 し、仮に障害が残ってもその程度を最小限にとどめることは、要介護となることを予防し、生活機能を維持・向上するうえでとても大切です。 予防の必要性は病院の中だけに限りません。高齢者や障害を持った方々が、地域の中で生活する際にも、生活する環境自体が動きにくかったり、日常生活の中で からだを動かす機会が少なかったりすると、すぐに心身の機能が衰え、要介護状態になってしまうことが少なくありません。その意味で、地域においても予防的 リハビリテーションは重要です。

リハビリテーションにおける治療

リハビリテーションにおける治療は、機能障害そのものへのアプローチと代償的アプローチに分けられます。前者は麻痺や言語障害など、病気の直接の結果と して生じたからだの機能の障害を回復させるためのアプローチであり、リハビリテーション医療に携わる者は、常に最大の機能回復に向けて努力する責任があり ます。ただし、すべての機能障害が元に戻るわけではなく、病気の性質や程度によっては回復に限界があることも少なくありません。したがって、もうひとつの 代償的アプローチも活用しながら、生活を送るうえでの障害の軽減に努めることが大切です。この代償的アプローチには、残った機能の活用(右手が不自由に なった場合に左手で字を書くなど)、補助具の活用(下肢の装具を使うことにより歩き易くするなど)、環境の調整(手すりをつけることによりトイレの自立を 助けるなど)が含まれます。機能障害が変わらなくても、代償機能の活用により日常生活が送り易くなることはしばしばありますので、2つのアプローチをバラ ンスよく組み合わせて、リハビリテーションチームの協働により、最大限の機能回復と生活の質の向上を目指すことが大切です。

新たな可能性への挑戦

医療の高度化、医学の進歩に伴い、リハビリテーション医学の対象は、従来 の脳疾患や骨関節疾患に加え、呼吸器疾患、循環器疾患、メタボリックシンドローム、がん、移植医療など、年々拡大しています。さらに、これまでは回復が困 難とされてきた成人の脳における可塑性(変化の可能性)への働きかけ、再生医学の進歩に伴うリハビリテーションの役割の再認識、長期宇宙滞在の現実化に伴 う滞在中および地球帰還後のリハビリテーションの必要性など、新たな領域や可能性が広がりつつあります。これらの可能性に対する果敢な挑戦こそ、絶えず進 化を続けるリハビリテーション医学の特徴をよく表していると言えます。

日本リハビリテーション医学会は、これからも社会のニーズと期待に応えるべく、日々研鑽を重ねてまいりますので、市民の皆様のご支援を心からお願い申し上げます。