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宇宙医学とリハビリテーション医学

宇宙医学とリハビリテーション医学

速水 聰先生
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)主任医長

【質問1】宇宙医学やリハビリテーション医学に関心を持ったきっかけについて教えてください。

「提供:JAXA」

速水 聰:正直なところ、私が宇宙飛行士の帰還後リハビリテーション医学に関わるようになったきっかけは、さまざまな運やタイミングが作用したと感じています。現在の宇宙飛行士は、国際宇宙ステーション(以下 ISS)プログラムとして約6か月の間、微小重力空間で研究・運動を含む生活をしてから地球に帰還します。帰還直後より1Gの重力空間に身体を再適応させるためには、一定のリハビリテーション期間が必須です。金井宣茂宇宙飛行士が2018年6月にISSより帰還した際には、初めて宇宙航空研究開発機構(以下 JAXA)の筑波宇宙センターで3週間のリハビリテーション治療が実施され、私もその活動を支援しました。JAXAには宇宙飛行士の健康管理を担う航空宇宙医師(フライトサージャン、以下 FS)が現在5名在籍していますが、リハビリテーション科専門医の資格を持つFSは私が初めてになります。JAXAに転職した 2017年までの約12年間は、地域リハビリテーション/在宅リハビリテーションに従事するリハビリテーション科医として過ごしていました。

【質問2】 JAXAではどんな研究活動をされていますか?

「提供:JAXA」

速水 聰:FSが医学研究そのものの実施者となることは原則的にありません。むしろ宇宙飛行士が参加する医学研究について把握した上で、ISS滞在前・中・後において宇宙飛行士の健康に影響を及ぼし得る事象の予測とその対策について管理調整します。臨床医学の分野では聞き慣れない用語になるかと思いますが、このような業務内容をISSプログラムにおける医学運用(medical operations)と呼んでいます。医学研究を実施する側でなく、宇宙飛行士の健康を管理する視点から研究をモニタリングする医学運用の側で活動しています。

【質問3】FSとしてやりがいを感じるときはどんなときですか?

「提供:JAXA」

速水 聰:医学運用は、予防医学や産業医学の視点が多分に必要とされるので、リハビリテーション科医の知識だけでは到底足りません。少し強引かもしれませんが、介護予防とリハビリテーション医療の相性の良さを考えれば、予防医学は究極のリハビリテーション医療という捉え方もありかもしれません。FSにとっての大きな柱である航空宇宙医学を含む有人宇宙開発分野は、これからさらに加速的に進んでいくことが予想されています。そういう意味では毎日のようにやりがいを感じています。

【質問4】5年後、10年後のご自身がどんな活動をしているかについての展望を教えてください。

「提供:JAXA」

速水 聰:ISSプログラムは、2024年(2019年7月時点での予定)までの期間で、15 か国が国際協力するビッグプロジェクトです。ISSに⾧期間滞在する日本人宇宙飛行士の健康管理を担うFSとして、任務を全うすることが今現在における2024年までの私の目標です。非常に特殊、かつ極限とも言える宇宙環境で働く宇宙飛行士の健康管理で得られる知見や経験を、最終的にどのような形で地上での医療や産業保健に還元するか、ということを10年後には、より深く考えられるような医師で在りたいと思っています。勿論、いずれは月でも活躍するであろう日本人宇宙飛行士を医学支援するFSでいられるよう、もっと頑張らねばという気持ちはあります。

「提供:JAXA/NASA」

【質問5】若い医師や医学生にリハビリテーション科専門医の魅力についてメッセージをお願いします。

「提供:NASA」

速水 聰:私の場合は少し特殊なキャリアですが、リハビリテーション科医だったからこそ今の自分があると感じることは沢山あります。リハビリテーション科医にとって多職種協働という職場環境は当たり前の環境であり、患者中心の医療を心がけようとすればするほど試行錯誤を繰り返すことになります。特に患者のみならず、多職種間におけるコミュニケーションをいかに改善すべきか、と考える機会はリハビリテーション科医にはとても多いと思われます。また、リハビリテーション科医は学術的な医学以外の分野を網羅し、理解する必要性が高い専門医でもあると私は思います。前職では診療報酬や介護報酬に関する基礎知識は必須でした。学術的なリハビリテーション医学の知識や技術が、最も大事であることは言うまでもありませんが、超高齢化社会を迎えつつある日本の医療に対して、リハビリテーション科医を通して貢献できることは山ほどあります。そして、私もその一人で在り続けたいと感じています。