医師を志しリハビリテーション科医となるまで
医師を志したのは中学生か高校生の頃、特別な出来事があったわけではなく、様々な媒体を通じて「病気で困っている人を助ける」医師という職業に魅力を感じたのがきっかけでした。
リハビリテーション科との出会いは医学部6年時。大学には講義がなく、他大学で行われた「医学生リハビリテーションセミナー」への参加がきっかけでした。中でも印象に残ったのは装具診療。実際の患者さんと装具の機能説明が分かりやすく、「なるほど」と感動したことを今でも覚えています。初期臨床研修では内科との間で迷いもありましたが、「全体を診る」視点に魅力を感じ、リハビリテーション科を選びました。
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専門医取得
専門医試験では多岐にわたる知識が求められます。準備を通じて、機能障害がADLや社会参加にどう影響するかの視点が明確になり、非常に良い経験でした。小児や切断の症例経験が少なかった分、教科書や学会のレクチャーを活用し、イメージを持って対策しました。
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「脳の可塑性研究」との出会い
専門医取得とほぼ同時期、脳卒中患者へのrTMS(反復経頭蓋磁気刺激)を用いた臨床研究に取り組み始めました。回復期病院での診療経験から、「回復の限界」に直面したことが出発点です。脳の障害は「脳の可塑性」が回復の基盤となりますが、脳に"直接"働きかけることで、プラトーに達した脳機能を改善させる(=外因性に神経可塑性を誘導する)治療に興味を持つようになりました。当時の指導医・道免和久教授の後押しもあり、京都大学脳機能総合研究センターでrTMSの研究を開始しました。
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人生の転機とライフワーク
第一子は専門医取得の翌年、第二子は5年後に出産しました。出産をきっかけに、仕事と家庭のワークライフバランスを考えるようになりました。つわりのつらさや出産後の疲労、想像以上の大変さを経験し、「自分の思うように活動できる状態がいつまでも続くわけではない」と実感しました。妊娠中には多くの先生方、女性の先生だけでなく、男性の先生にも配慮していただき当時としては恵まれた環境に感謝しております。第一子出産後は研究中心の勤務となり、保育園への送迎にも対応できました。第二子のときには北海道大学病院に勤務しておりましたが、夫が育児休暇を取得し支えてくれ、また前教授・生駒一憲先生や他の先生方の理解と配慮があり仕事を続けることができました。育児中の女性医師が複数在籍されていたこともあり、クリスマス会や忘年会などのイベントでも「子ども連れ、歓迎ですよ」という雰囲気があり、「子どもがいるから遠慮します」と言うことはありませんでした。「一緒に育児を支えていく」という雰囲気が、大変ありがたかったです。
現在は「働き方改革」の中で、育児だけでなく誰もが趣味や家庭を大事にできる働きやすい環境づくりが必要だと感じています。リハビリテーション科は患者さんの生活全体を支える診療科だからこそ、多様な働き方を認め合うことが、診療の向上につながると考えています。
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リハビリテーション科医と活動
私がリハビリテーション医学において大切にしているキーワードは「活動」です。リハビリテーション科医の仕事は、「活動」をキーワードとして、患者さんの治療をマネジメントしていくことであると言えます。
患者さんが実際に「どのような生活を送れるか」「どのように社会参加できるか」という日常の「活動」について、医学的な知見はもちろん、社会福祉サービス、経済状況、住環境など、包括的に捉えて治療をしていきます。さらにリハビリテーション治療の開始後に、患者さんの「活動」がどのように変わったのか、経過をみていくことは非常に重要です。設定した目標を達成できるか、あるいは患者さんの環境を調整して目標を達成するのかを判断します。このような過程を繰り返すことで、患者さんにとって最適な形の「活動」を実現していきます。人生の連続性の中で「活動」を捉えることこそが、リハビリテーション科の最大の特徴ですね。
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現在の診療・教育・研究
現在は大阪医科薬科大学に勤務し、主に診療と学生教育を行っており、研究の立ち上げの準備をしています。診療・教育・研究の比率は6割・2割・2割くらいでしょうか。
診療は疾患を区別することなく満遍なく行っています。学生教育ではカンファレンスと診療見学を担当しています。当院では脳卒中や救急疾患は佐浦隆一教授を中心に発症後24時間以内にリハビリテーション治療を開始していますが、週末は対応が難しいことも多く、課題であると思っています。
研究面では、佐浦教授をはじめリハビリテーション医学教室の先生方のご理解とご支援により、京都大学に非常勤研究員として、半日ずつ週2日通い、健常者・患者を対象とした非侵襲的脳刺激を用いたデータ計測を継続しています。また回復期病院にも週1回勤務し、外来診療と研究指導を行っています。これまで複数の施設で非侵襲的脳刺激やBMI(ブレインマシンインターフェース)、脳波など脳イメージングなどの研究を行いましたが、異動後も共同研究や講師としてのつながりが続いており、多くの先生方との出会いや学術的な広がりに感謝しています。

研究風景
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管理職として感じる課題
管理職としては、「周囲に気を遣って休めない」日本の職場文化にも課題を感じています。「安心して休める職場環境づくり」が重要であり、休暇中のカバー体制を充実させ、無理なく働ける体制を整えるのがこれからの管理職の責務だと考えます。
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今後の目標
今後は、医学生や研修医にリハビリテーション医学の魅力を伝えることが目標です。リハビリテーション科としての専門性や意義は、臨床だけでなく、研究にもあり、最先端の臨床現場、研究現場を通じて、リハビリテーション医学の未来を見せることも重要だと考えています。研究では、非侵襲的脳刺激に加えて、BMIやロボティクスに注目しています。BMIは、意図が生じたときに、損傷された機能であっても意図した行為が実現することで、神経可塑性を強力に誘導することができ、神経ネットワークを再構築する技術として期待しています。ロボットはテーラーメイドな治療が可能になり、超高齢社会におけるマンパワー不足の補完にもなると考えています。
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若手へのメッセージ
リハビリテーション医療は、多職種の多様な視点が関わる分野です。周囲の医師や療法士に積極的に質問し、多様な考え方を吸収してほしいと思います。
また、留学にもぜひ挑戦してください。私は第一子が2歳10カ月のときに6カ月間、子連れで海外留学を経験しました。スイスの首都・ベルンに滞在しましたが、保育園に預けることは現地の人でも難しく、家族や研究所のリーダー(ベルン大学・森島陽介氏)の支援、ベビーシッターの雇用により、データ収集を行い研究を進めることができました。これらの挑戦は大変でしたが、大きな学びがありました。今は支援する側の立場ですが、志ある多くの若手医師が躊躇することなく留学できるよう、資金獲得や人員カバーの面でもサポートしていきたいと考えています。

2015年 スイスInterlakenにて
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私にとってのリハビリテーション医学の魅力
リハビリテーション医学の魅力は、患者さんの「人生」を医学的に考えられることです。最先端のリハビリテーション技術やリハビリテーション機器を用いることが目的ではなく、それを使った結果、患者さんの生活や社会参加、ひいては人生がどのように変わったかという視点を常に持つことが重要だと考えています。
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