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ダイバーシティ&インクルージョン

第8回秋季学術集会 男女共同参画委員会企画シンポジウム報告レポート

男女共同参画委員会企画シンポジウム
「リハビリテーション医学の広がり
─多様な働き方からリハビリテーション医学の魅力を探る─」

第8回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会において開催された男女共同参画委員会企画シンポジウム「リハビリテーション医学の広がり─多様な働き方からリハビリテーション医学の魅力を探る─」の座長・シンポジストの先生方に、講演内容とシンポジウムのご感想をおまとめいただきましたので紹介いたします。

概要
  1. 日時:2024年11月2日(土)
  2. 会場:岡山県医師会館
  3. プログラム:
    はじめに
    小林 恭代(奈良県立医科大学 リハビリテーション医学講座)
    1)「専門医と学位」取得への道〜大器晩成リハビリテーション科医師のキ・セ・キ〜
    水野 江美(藤田医科大学医学部 リハビリテーション医学講座、社会医療法人財団 新和会 八千代病院)
    2)研究と家庭(子育て)の両立
    高田 薫子(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター)
    3)日本のリハビリテーション科専門医取得と回復期の臨床
    陳 輝(医療法人 珪山会 鵜飼リハビリテーション病院)
    4)地方におけるリハビリテーション医療の普及と次世代への魅力発信
    外薗 昭彦(潤和会記念病院)
    5)聴覚障害のあるリハビリテーション科医師の働き方と情報バリアフリー
    根本 玲(和歌山県立医科大学 みらい医療推進センター)
    6)大学病院として地域医療を育む―急性期・回復期から生活期への装具連携―
    阿部 泰昌(川崎医科大学 リハビリテーション医学教室)
    7)座長・シンポジウム担当委員より
    今井 幸恵(医療法人 珪山会 鵜飼リハビリテーション病院)

はじめに

小林 恭代座長・シンポジウム担当委員/奈良県立医科大学 リハビリテーション医学講座

第8回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会において、男女共同参画委員会企画シンポジウム「リハビリテーション医学の広がり─多様な働き方からリハビリテーション医学の魅力を探る─」を開催しました。

今回のシンポジウムでは、6名の先生方に、大学病院を含めた急性期の臨床や研究の魅力、専門医と学位取得の道のり、研究と家庭を両立する上での苦労や工夫、多文化共生、チーム医療、地方におけるリハビリテーション医療の普及、情報バリアフリー、地域医療への貢献などについてお話していただきました。

総合討論では、リハビリテーション科の魅力の1つである「チーム医療」などについて意見交換を行いました。様々な立場の先生方からの貴重なご意見を、お互いの立場を尊重でき誰もが活躍できる職場環境づくりの参考にしたいと思いました。

ご来場の皆様には、リハビリテーション科医の多様な働き方を知ることで、各々活躍するための今後の働き方のヒントを見つけていただけたのではないかと思います。

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1)「専門医と学位」取得への道〜大器晩成リハビリテーション科医師のキ・セ・キ〜

水野 江美藤田医科大学医学部リハビリテーション医学講座、社会医療法人財団新和会八千代病院

男女共同参画委員会企画シンポジウムにて、私の「専門医と学位」取得への道のりについて、その時々の心情や苦労、工夫などを交えて発表しました。

私は初期臨床研修後、外科専門研修プログラムを専攻しましたが、消化器外科医師として経験を積んでいくうちに、リハビリテーション医学・医療への興味が高まり、リハビリテーション科専門研修プログラムに転向しました。藤田医科大学医学部リハビリテーション医学講座への入局と同時に大学院に入学し、専攻医と大学院生の2足のわらじを履き、臨床と研究の世界に飛びこみました。

ほぼ毎年、研修先の異動があり、いろいろな施設で臨床経験を積める楽しさと同時に研究が進まない不安がありましたが、必要な時間を確保するために臨床業務の改善策を実行し、オンライン会議を有効活用して研究を進めました。その結果、紆余曲折がありながらも周りに支えていただき専門医と医学博士号を無事取得しました。

今後、臨床場面では、多職種との連携が強いこの科の特徴を生かして、性別関係なく互いの大変な時期を補い合って、質の良いリハリビテーション治療が提供できる環境を築いていきたいです。研究においては、寄り道や遅れに焦らず、自分のペースでやり続け、うまくいかない時には次の扉が開くチャンスを待って前に進みたいと思います。

今回のシンポジウムで同じリハビリテーション医療・医学に携わる先生方の多様な働き方や経験をうかがうことができ、今後の働き方を考える上で視野が大きく広がりました。これからも臨床と研究と趣味に力を注ぐことのできるリハビリテーション科医師として頑張っていきたいと思います。

私の発表が、臨床と研究を頑張っている若手医師の一助となれば幸いです。貴重な機会をいただき、心より感謝申し上げます。

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2)研究と家庭(子育て)の両立

高田 薫子横浜市立脳卒中・神経脊椎センター

今回の男女共同参画委員会企画シンポジウムにおいて「研究と家庭(子育て)の両立」というテーマで私の経験を発表いたしました。貴重な機会をいただき、心より感謝申し上げます。

今回のシンポジウムで、市中病院の回復期リハビリテーション病棟に勤務しながら、基礎研究のトップ集団(横浜市立大学大学院生理学教室)と科研費を獲得し共同研究を行ったこと、そこに完全核家族での子育てが加わったことをお話しいたしました。臨床、研究、子育ての両立は想像以上に心が折れ、何度も臨床と研究どちらかひとつにしようかと考えました。その中で臨床・研究・プライベートで工夫した点をご紹介いたしましたが、これまでなんとかやってこられたのはひとえに職場の上司・同僚、共同研究者らのサポートのおかげです。シンポジウムを通してみましても、個々人の事情・価値観を許容しサポートしてくださるありがたさを痛感いたしました。

一方で、現在サポートしてくださっている側、上司や後輩に負担が傾いていることも事実であり、申し訳なく思っています。また上司(管理職)は経営陣から病床稼働率を強く求められる現実もあります。多様な働き方を受け入れていただける一方で、誰かに負担が重くのしかかることは心苦しいことです。この件についてシンポジウムで質問させていただいたことも貴重な機会となりました。

水野江美先生のご講演は、ユーモアに溢れていました。臨床と両立しながら、紆余曲折ある中で時間をかけて大学院を卒業されたお話は、大学院進学を迷う若手リハビリテーション科医の背中を押してくれるものではないかと感じました。年々大学院の審査は厳しくなっていると聞きますが、研究の基礎を学ぶことは役に立ちますし、私自身も共同研究者の生理学教室との出会いに恵まれました。きっと大学院は厳しいことばかりではないはずです。私も後輩に研究の楽しさを伝えていけたらと思いました。

根本玲先生のご講演は、ご自身で経験したことから、合理的配慮について図式でご説明くださいました。大変わかりやすく、すばらしいもので多くの方に聞いていただきたいご講演でした。

子育て、介護、自身あるいは家族の体調などによって、誰もが明日も同じように働けるとは限りません。今サポートいただいていることにお返しできるよう、おたがいさま、と助け合える職場づくりに努めて参りたいと思います。

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3)日本のリハビリテーション科専門医取得と回復期の臨床

陳 輝医療法人 珪山会 鵜飼リハビリテーション病院

2024年11月岡山で開催された第8回日本リハビリテーション医学会秋季学術集会における男女共同参画委員会企画シンポジウムで「日本のリハビリテーション科専門医取得と回復期の臨床」をテーマに自分の経験を発表しました。中国で医学部卒業後、産婦人科で4年間働きました。2003年6月熊本大学大学院に入学し、9年後再び臨床現場に戻ることができました。初期研修修了の直前、3番目の子供を出産しました。友人から子育てしやすいとリハビリテーション科を推奨され、リハビリテーション科も歓迎の意を示してくれました。リハビリテーション科は私を温かく受け入れて、見守ってくれました。

年齢とともに体力が落ちました。子供は3人いますが、1番目と3番目は12歳差があります。若い頃は一晩寝れば元気になりましたが、高齢出産後はキャリアアップにもチャレンジしはじめ、意余って力足らずでした。中国の医学部でリハビリテーション医学の教育は受けたことはなく、初期研修病院にもリハビリテーション科はありませんでした。新しい学問であり、最初はストレスばかり溜まって、どうしようもない状況でした。弱音を吐くことは何回もありましたが、自分のペースで一歩一歩専門医まで進んできました。

チームワークを重視する日本の文化は世界中に知れわたっています。医局は1つのチームと言えますが、私はその中で弱い存在でした。大学病院で3年間後期研修の後、回復期リハビリテーション病院へ異動しました。リハビリテーション科と言えば、やはりチームワークです。人の生活を見るリハビリテーション科は、多職種チームとなり、医療・介護を行います。回復期リハビリテーション病院では、各職種はすべて病棟に配置され、同じ空間で仕事をします。チームメンバーが常に側にいることはすごく心強いです。

シンポジウムで他の医師の発表を聞いて、自分だけではなく、みんなそれぞれ大変なことはあると理解し、心が落ち着きました。

片言の日本語しか話せない時、「日本で医師になりたい」という作文を書いたことがあります。振り返ってみると、夢を持つことは大事です。

医師としてのキャリア形成と出産・育児の両立は、どのライフステージにおいても容易ではありません。将来の選択肢を広げるためにも、早めにライフプランを考えることが大切です。医学会には、性別にかかわらず、仕事と家庭の両立が無理なく続けられるよう、一人ひとりが自分に合ったライフスタイルを見つけられる環境づくりの支援を、今後もお願いいたします。

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4)地方におけるリハビリテーション医療の普及と次世代への魅力発信

外薗 昭彦潤和会記念病院

今回のシンポジウムでは「地方において、我々リハビリテーション科医に求められるものとは?」との演題でこれまでの経験を基にお話させていただきました。

「リハビリテーション科の講座や医局を有する大学病院」や、リハビリテーション病院が多く存在する都市部と異なり、地方では数少ないリハビリテーション科医がその地域を支えている状況も珍しくはありません。

かつて都市部で働いていた際には基本的診療として提供できていた嚥下機能の精査や高次脳機能障害および装具療法のフォローアップといったものが、限られたマンパワーで対応していくとなると至難の業であることも多々実感します。そのような環境でも診療の質を保つためには、地元での若手医師の育成は目下の課題ですが、同時に他職種との共同・協働の充実が鍵とも感じております。

今回は「地方で痙縮治療を充実させていく」ということを例に、そのようなチーム医療の取り組みをご紹介いたしました。他職種との連携を思案するなかで「リハビリテーション科医」のアイデンティティもまた日々見つめ直しています。

シンポジウムにおいてはリハビリテーション科医として働かれながら様々な社会的役割を担われる先生方のご発表を拝聴でき、大変勉強になり楽しいひとときでした。

これだけ男女共同参画が呼びかけられて久しいなかでも、まだまだ子育てと仕事の両立では肩身の狭い思いを経験される現実もあるのだと感じました。しかし、子育てに限らず介護など家族の問題は決して他人事ではありません。超高齢社会が到来し、今できる者が、できるところをともに協力して担っていく必要があると感じます。仕事を続けながら、身体的負担や心理的負担を軽減していけるよう智恵を出し合っていかなければなりません。それらについて忌憚なく話し合える貴重な機会であったように感じました。

このような発表の機会をいただき、ありがとうございました。

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5)聴覚障害のあるリハビリテーション科医師の働き方と情報バリアフリー

根本 玲和歌山県立医科大学 みらい医療推進センター

私は聴覚障害のあるリハビリテーション科医師として働く際、補聴器を装着し、音声認識や筆談といった手段を活用しています。今回のシンポジウムでは、私が行っている情報バリアフリーの実践と課題について報告しました。

情報バリアフリーとは、高齢者や障害者、外国人など、情報収集や発信が困難な人々が、誰もが支障なく情報通信を利用できることを目指す取り組みです。特に、令和4(2022)年に施行された「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法(正式名称:障害者による情報の取得利用・意思疎通に係る施策の推進に関する法律)」は、障害者の情報取得や意思疎通を支援する重要な一歩となりました。

音声認識は、発言をリアルタイムで文字化する技術として、発表や議論をスムーズに進める助けとなっています。職場ではカンファレンスの規模に応じて専用マイクを使い分けて、スタッフと協力してコミュニケーションを工夫しています。電話対応については、PHSの通話音声をGoogle Pixelのリアルタイム字幕機能を用いて、効率的な情報共有を実現しています。

一方で、いくつかの課題もありました。コロナ禍ではマスク着用の必須化により読唇が困難になり、疎外感を抱いた経験があります。透明マスクや音声認識を活用しましたが、感染リスクや導入コストの問題が障壁となりました。また、リモートでの会議では音声認識の精度向上が進む一方、参加形式の変更により情報を十分に把握できない場面も生じました。さらに、学術集会での情報保障では、音声認識を導入するための音声ラインの確保や手話通訳導入の交渉が課題となりました。医学会内に「バリアフリー委員会」が設立されることを期待しています。

パリ2024パラリンピックでは、陸上競技のチームドクターとして帯同しました。この際、対等に働ける環境が整っており、英語の壁があっても音声認識や筆談を活用することで、医業をスムーズに遂行できました。この経験は、理想的なインクルーシブ社会の一例として、非常に印象的でした。

情報バリアフリーの実現には、障害のある人々と支援者が互いの立場やニーズを理解し、相互に歩み寄ることが求められます。現実的にはサポートに限界がありますが、職場や社会全体の理解が進むことで、誰もが働きやすい環境の実現が期待されます。今回の発表を通じて、情報バリアフリーの重要性を再認識していただければ幸いです。

シンポジウム全体を通じて、家庭問題や地域の違い、研究、職場環境に関連する課題とその取り組み事例は非常に参考になりました。聴覚障害に限らず、リハビリテーション科医師は多様な働き方が可能であると実感しました。特に、働き方改革が逆に働きにくさを生むケースについて有意義な情報交換ができました。この経験を今後の取り組みに生かしたいと思います。

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6)大学病院として地域医療を育む―急性期・回復期から生活期への装具連携―

阿部 泰昌川崎医科大学 リハビリテーション医学教室

私自身が、生活期へと目を向けるようになった経緯として、リハビリテーション科専門医を取得後、回復期リハビリテーションが主体の病院に11年間勤務したことが挙げられます。そこで、医局から派遣された専攻医の指導や、地域連携業務として地域リハビリテーション広域支援センター(岡山県備中保健所事業)の活動、地域の脳卒中地域連携パスの作成などに関わりました。この中で、医療・介護・福祉・行政職が互いの役割や考え方を相互理解しながら、本事業を達成するところを目の当たりにして、地域の医療介護連携の重要性を実感しました。大学に戻った後も、保健所事業の一環として医療看護介護連携事業に携わり、連携シートの普及や、新たな地域の入退院支援ルールの作成・普及などの地域連携活動を継続しています。このような経緯もあり、医療介護連携は、私のライフワークの1つとなりました。さて、本題の当大学病院におけるリハビリテーション医療の特色として、一般的な大学病院としての急性期リハビリテーション医療に加え、特定機能病院リハビリテーション病棟という回復期の入院機能を有している点が挙げられます。また、岡山県地域包括ケアシステム学会事務局も担い、医療・介護・福祉職へのリハビリテーション研修会開催が特定機能病院リハビリテーション病棟算定要件でもあり継続しています。最近の研修会のテーマの1つとして、「装具連携」を取り上げています。これは、全国的に装具作製後の長期フォローアップの問題(いわゆる装具難民)があり、県内でも同様の問題がないか、装具の研修会を行いながら調査しました。この調査における問題点の対応として、介護職・患者・家族向けの「装具のチェックシート」を作成し、県南に「装具の相談窓口」を6施設開設しました。当医局員は通常の臨床業務に加え、これらの地域社会貢献業務にも関与しています。専攻医にとって、急性期・回復期だけでなく生活期への理解が深まり、この教育システムに対する専攻医の満足度は高いです。

最後に、本シンポジウムに参加した感想を述べます。様々な環境や想いで頑張っている先生方のお話は、医局組織をまとめる立場としては、それぞれの医局員の立場・考え方を考慮しながら、どのように応えていくかを再考する貴重な機会でありました。また、このような企画は、専攻医だけでなく専門医・指導医にとっても有意義であるため、ぜひ継続していただきたいと思います。

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7)座長・シンポジウム担当委員より

今井 幸恵医療法人 珪山会 鵜飼リハビリテーション病院

今回のシンポジウムではリハビリテーション医療の急性期、回復期、生活期の立場から各2名、計6名の先生からダイバーシティ&インクルージョンにふさわしい多様性に富んだ講演をいただきました。専攻医と研究、臨床と研究と子育て、言語や文化の違い、地方での活躍、情報バリアフリーへの取り組み、大学病院からの地域貢献と、多様な働き方からリハビリテーション医学の魅力が語られました。

リハビリテーション医療はもともと幅広い疾患に対し、全人的な視点を持って多職種がチームとなって協働することでより良い医療を提供しています。リハビリテーション医学の魅力の1つとしてチーム医療があり、今回は我々自身がそれぞれ活躍する働き方を一緒に考える機会になりました。本シンポジウムが、周囲に支えられながら今できることを続けること、いずれ誰かの支えになれるように、地域へ、社会へ貢献できることを志す一助になればと思います。

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