2002(平成14)年度 日本リハビリテーション医学会論文賞 受賞者紹介


最優秀賞 山内秀樹,刈谷文彦,田端淳一,宮野佐年 各氏: 長期非荷重に伴う筋萎縮とミオシン重鎖分子種の発現変化.リハ医学2002;39(5):236-244

「最優秀賞」…山内 秀樹氏

 この度は,日本リハ医学会論文賞「最優秀賞」という名誉ある賞をいただきまして,誠にありがとうございます.この研究は,米本恭三先生(東京慈恵会医科大学リハ医学講座前任教授,現東京都立保健科学大学長)や宮野佐年先生(現教授)のご指導の元に,多くの共同研究者の先生方のお力添えによりまとめ上げられたものです.この場をお借りして,ご指導・ご尽力いただきました先生方に厚くお礼申し上げます.受賞論文は,機能的に異なる骨格筋において,非荷重に伴う筋萎縮と筋線維タイプの移行を収縮蛋白の変化から経時的に調べた,観察的研究であります.長期の非荷重ではヒラメ筋の収縮蛋白濃度の低下が生じるが,足や内側腓腹筋では生じないこと,足底筋や内側腓腹筋に比べ,ヒラメ筋では早期からタイプ変化(速筋化)が生じることなどを報告いたしました.今後は,分子生物学的手法を用いて,骨格筋の適応変化のメカニズムを探求していきたいと考えております.微力ながら基礎研究成果の蓄積に精進し,少しでもリハビリテーション医学の発展に貢献できるよう努力していきたいと考えております.

略歴:1989年愛知教育大学大学院修了.同年東京慈恵会医科大学助手(体力医学研究室),2000年東京慈恵会医科大学講師(リハビリテーション医学講座体力医学研究室),現在に至る.


最優秀賞 武田斉子,才藤栄一,松尾浩一郎,馬場 尊,藤井 航,Jeffery B. Palmer各氏: 咀嚼が食塊の咽頭進入に及ぼす影響.リハ医学2002;39(6):322-330

「最優秀賞」…武田 斉子氏

 この度はこのような名誉ある賞をいただきまして,大変ありがとうございました.ご指導いただきました才藤栄一先生や,一緒に研究を進めていただいた研究班の諸先生方,査読に際して的確なご指摘をいただきました先生方に深く感謝し,お礼申し上げます.「咀嚼と嚥下」というテーマは1997年に新しく提唱された固形物の咀嚼条件での嚥下モデル(Process model)を元に考えられたもので,1999年にJohns Hopkins大学のJeffery B. Palmer教授に直接師事できたことも,私にとってかけがえのない貴重な経験となりました.この研究を通して普段,私たちが何気なく行っている摂食・嚥下運動がいかに奥深く,未知のものであるのかを知り,嚥下機構に対する興味は尽きないところであります.今後は咀嚼が嚥下に与える影響を随意的な嚥下と反射的な嚥下に分けて考えていくことを課題として取り組み,嚥下障害者にとって安全な食物形態の開発や嚥下機能改善に有効な訓練法の考案に携わっていければと考えております.これからも多くの先生方のご指導を賜りたく,この場をお借りしてお願い申し上げます.

略歴:1994年東京女子医科大学卒業.同年4月名古屋第1赤十字病院勤務.1996年4月公立学校共済組合東海中央病院勤務.1998年10月藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座勤務.1999年11月Johns Hopkins大学Physical Medicine&Rehabilitation 講座に留学.2000年4月藤田保健衛生大学医学部リハビリテーション医学講座勤務.2003年3月日本リハビリテーション医学会専門医取得.


奨励賞 長坂 誠,上月正博,藤居 徹,河村孝幸,市江雅芳 各氏: ラット骨格筋虚血モデルでの持続的微弱電気刺激による血管新生因子の動態.リハ医学2002;39(8):457-466

「奨励賞」…長坂 誠氏

 この度は日本リハ医学会論文賞「奨励賞」をいただき大変光栄に思っています.私は1998年に東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野博士課程入学後,研究というものに初めて接しました.電気刺激は古くからリハ医学に用いられてきた治療法ですが,最近はその血管新生作用についての知見が得られています.このことにより電気刺激療法の新たなる可能性を追求できるのではないかと考えたのが今回の研究の出発点です.今回の研究で,私は筋収縮を与えない微弱電気刺激により,収縮刺激と同様に血管新生因子が増加したこと,血管新生作用以外にも臓器保護・抗アポトーシス作用を持つ因子(HGF)が増加したこと,を示しました.このことにより微弱刺激が筋疲労や不快感といった電気刺激療法のnegative factorを取り除くだけではなく,電気刺激療法が従来の療法や血管新生療法以外の治療法として確立される可能性が示唆されました.今回の研究を通して,私はそうした未知なる世界が広がっていくことに少しとまどいを感じています.今後,私は電気刺激という伝統的な手法と,血管生物学等の新しい手法を用いて,リハ医学の新たなる可能性を追求していきたいと考えています.最後になりましたが当科の上月教授をはじめとするスタッフの心暖かいご支援・ご指導に厚くお礼申し上げます.

略歴:1996年東北大学医学部卒業,同年古川市立病院研修医,1998年東北大学大学院医学系研究科内部障害学分野博士課程入学,2002年博士課程修了.同年東北大学附属病院内部障害リハビリテーション科医員.


(リハニュース18号:2003年7月15日)