<特集◎診療ガイドラインの動向と課題>

日本リハビリテーション医学会における診療ガイドライン策定の動向と課題

診療ガイドライン委員会委員長

里宇明元


◎診療ガイドラインとは

 診療ガイドラインとは、臨床家が特定の臨床上の問題に対し、適切なヘルスケアを提供することを助けるために系統的に作成された勧告である。その目的は、ヘルスケア過程の改善、臨床の均質化、医療資源利用の最適化、臨床家への最新知識の提供と科学的証拠の活用の促進にある。通常、その内容は、臨床経験、専門家の意見、研究の証拠が混合されたものである。最近では、その作成は系統的レビューに大きく依存し、レビューの方法が厳密なほど、また取り上げる研究の質が高いほどガイドラインは証拠に基づいたものとなる。取り上げる課題の選択は、頻度、もたらされる臨床的・経済的負担、利用可能な資源、科学的証拠の利用可能性、臨床に影響を与える可能性などを考慮して行われる。実地臨床でのガイドラインの利用にあたっては、どこまでが共通でどこまでが特有な部分かを見極めることが大切となる。

◎診療ガイドライン委員会

 現在、多くの学会でガイドラインの策定が進められているが、リハ医学会においても、主体的、先導的にリハ医学・医療に関するガイドラインを策定・公表・普及することを目的に2004年に診療ガイドライン委員会が設置された。本委員会の前身は、脳卒中関連5学会による脳卒中治療ガイドラインの策定にあたったガイドライン策定委員会である。委員会は、活動方針の検討およびガイドライン作成にあたっての連絡・調整等を行うガイドラインコア委員会と個別のガイドライン作成のために設置される策定委員会から構成される(表1)。

◎委員会の活動状況

 2005年9月現在、4つの策定委員会が設置され(図1)、脳卒中治療ガイドラインの改訂、リハ医療における安全管理・推進ガイドラインの策定(関連専門職等委員会、日本理学療法士協会、日本作業療法士協会、日本言語聴覚士協会、日本リハ看護学会、日本義肢装具士協会との合同)、呼吸リハマニュアル―患者教育・栄養指導の作成(日本呼吸器学会、日本呼吸管理学会、日本理学療法士協会との合同)が進行中であり、また、ごく最近になって脳性麻痺リハガイドラインの策定が開始された。

◎今後の課題

 ガイドライン策定作業の標準化を図るために策定委員会活動ガイドラインの作成、学術集会等の開催に合わせた講習会を行う予定である。さらに学会としての重要性、社会的重要性、厚生行政や他学会の動向などをみながら、タイムリーなガイドライン策定を行うために策定すべき課題を選択していく必要がある。現在、リハ臨床研究、運動療法、関節リウマチ、脊髄損傷、転倒予防などが候補としてあげられている。質が高く、実用的なガイドラインを作成していくことはリハ医学会の重要な使命であり、学会員一人ひとりの協力が不可欠なことを改めて強調して稿を終わりたい。

表1 診療ガイドライン委員会の役割

コア委員会の役割

ガイドラインに関する情報収集
関連学会との情報交換・連携
ガイドラインを策定すべき疾患・病態・障害・治療技術等のリストアップと優先順位の検討
ガイドライン策定のノウハウの蓄積(文献検索、エビデンステーブル用データベースの開発・維持・改良、ガイドライン開発プロセスの標準化など)
策定委員会設置の提案と委員の推薦
策定委員会によるガイドライン策定の支援
策定委員会間の連絡・調整
外部審査の円滑化
ガイドライン公表の実務(出版、ホームページ掲載など)
ガイドラインの普及(専門医、一般医家、一般市民)
ガイドラインに対するフィードバックの集約、新たなエビデンスの収集、改訂のタイミングの判断
エビデンスが欠けている領域について、学会として取り組むべき重要研究テーマの提案
策定委員会の役割
個別テーマに関するガイドラインの策定
−臨床的問題の選択・定義
−文献検索 → 証拠の収集
−文献の批判的吟味 → 証拠のレベル分け
−エビデンステーブルの作成
−証拠のレベル/臨床の実情を踏まえ勧告を作成
−外部審査
−フィールドテスト
−ガイドラインのアップデート
関連文献・情報の継続的な収集・分析
策定したガイドラインの改訂

図1 診療ガイドライン委員会の組織図(2005年9月現在)
脳卒中合同ガイドライン委員会

リハ医学会、脳卒中学会、神経学会、
神経治療学会、脳外科学会
(副委員長:木村彰男)
脳卒中治療
ガイドライン策定委員会


委員長:正門由久
委員:越智文雄、中馬孝容、渡邉 修、
(里宇明元、園田 茂)
安全管理・推進のための
ガイドライン策定委員会


委員長:前田真治
委員:高岡 徹、永田雅章、山口昌夫、
渡邉 修、椿原彰夫、(里宇明元)
ガイドラインコア委員会

委員長:里宇明元
委員:根本明宜、園田 茂、佐浦隆一
各策定委員会委員長
呼吸リハビリテーション
ガイドライン策定委員会


委員長:里宇明元
委員:上月正博、花山耕三
関連専門職学協会代表委員

遠藤 敏(PT協会)、東 祐二(OT協会)
藤田郁代(ST協会)、北代直美(リハ
看護学会)、栗山明彦(CPO協会)
脳性麻痺リハビリテーション
ガイドライン策定委員会


委員長:岡川敏郎
委員:高橋秀寿、半澤直美、近藤和泉
北原 佶、(里宇明元、根本明宜)
呼吸リハビリテーション
ガイドライン委員会


リハ医学会、呼吸管理学会、
呼吸器学会、PT協会
(委員:江藤文夫)

(リハニュース27号:2005年10月15日)